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百話  馬が曳くから馬車、牛が曳けば牛車…… じゃぁアレは何車?

 街道を歩き出してすぐ、リコがアルドに声をかける。


「アルド! これ…… まだ新しいよ」


 リコが指さす地面には無数の足跡と(わだち)が残されていた。

俺はこういうのは素人だからよくわからないが、確かにまだ新しい気がする。


「!! まだ間に合うかもしれない。ハルト! 悪いが先を急ぐぞ!」


「おい! ちょっと訳が分からんぞ!」


 二人は俺の返事を待たずに走り始めた。

このまま二人に置いて行かれるわけにもいかないので、二人に続いて走る。


 しばらく二人の後ろを走っていると街道の先の方に何か見えてきた。

オペラグラスを取り出して状況を確認する。

あれは馬車か? いや、あれを曳いているのは馬でない別の動物だ。

馬が曳くから馬車、牛が曳けば牛車…… じゃぁアレは何車?

デカいアルマジロが二匹? 二頭? 繋がれている。

まぁそれは今、問題ではない。

問題なのはそれが絶体絶命だってことだ。


 多数のノールに囲まれてかなりヤバいことになっている。

脳内PCがすでにノールのカウントを終えている。

ノールは総勢52匹。

これに対して馬車的な乗り物を護って戦っているのは二人だけ……。


 剣士が一人。乗り物の上から矢を放っているのが一人。

動物を繋いでいる手綱を握っている男が一人、おろおろしている。

御者かな? 非戦闘員とみなしてよさそうだ。


 動物は負傷しているのか?

よくわからないが、とりあえず丸くなっている。

アルマジロ的な感じであれで身を守っているのだろう。

動いてくれそうにには見えない。


「追いついた! ボル車だよ!」


「間に合ったのかどうかは微妙だな。ノールの数が多すぎる。このままじゃとても残っている護衛だけじゃ防ぎきれないだろ」


 ボル車?

あれはボルって生き物なのか?

そんな事より、このシチュエーションはアレだろ!

オタクの俺にはもちろんわかっている。


「ついにガチガチのテンプレが来たな! 大ピンチの貴族令嬢なんかがいたりするパターンか?」


「何わけのわかんないこと言ってんの! 貴族令嬢があんなボル車に乗るわけないでしょ!」


「あれは街道を往来する乗合のボル車だ。中にいるのは戦えない一般人ばかりだろう。さっきやられていたのも、これの護衛に雇われていた冒険者だろうな」


「お貴族様の護衛だったら、最低でも銀等級以上が付くにきまってるでしょ!」


 そこまでの鉄板展開ではなさそうだ。

だが、これを見過ごす選択肢はさすがに無いかな。


「ねぇ、追躡竜(ついじょうりゅう)に使ったハルトの呪紋でノールをまとめて倒せないの?」


「無理だ。すでにボル車? が魔法の影響範囲内だ。撃てば中の人間も皆殺しになるかもしれない」


「そうか。なら、奴らの囲みを突き破ってボル車の救援に入るしかないな」


 俺もアルドの提案に同意だ。

背後からちまちまと奴らを削っていたら、その間に護衛の二人共々、ボル車にいる人たちがやられてしまう。


「……だな。ピリカ、奴らを蹴散らして押し通る。頼むぞ」


「ハルトがそうしたいならピリカはそれでいいよ。」


 俺は【プチピリカシールド】、【ブレイクスルー】を発動させてから、G管を手にピリカと共に奴らの囲みに突撃を始める。

アルドとリコもそれぞれバフ魔法を発動させて、俺と共にノールの群れに切り込んでいく。


 先頭を滑空するピリカが【ピリカビーム】で進路の邪魔になるノールを打ち抜いていく。

【ピリカビーム】を受けたノールがパタパタと倒れて動かなくなる。

俺達はおかげで一度も攻撃することなく、ノールの囲みを突き抜けてボル車まで駆け抜けることができた。

 ピリカが【ピリカビーム】で倒したノールは7匹。

残り45匹。


 ピリカはそのままボル車の屋根の縁に腰かける。

突然現れた4人の乱入者にノール達は動揺したが、数の上ではまだまだ有利と判断したのか、再びボル車を取り囲んでうなり声をあげている。


「ひいぃ!」


 屋根の上にいた弓使いが情けない悲鳴を漏らして尻餅をついた。


「ジタル! もうだめだ! 精霊まで現れた! 俺達はおしまいだぁ!」


 弓使いは、ボル車の進行方向を塞いでいるノールに剣を振るっていた仲間にピリカの出現を知らせる。

おそらく突破口を切り開くつもりだったのだろう。

そのため、剣士と御者は俺達の乱入に気付いていない。

剣士が振り返ってボル車の上に座るピリカを見て声を絞り出す。


「なんだと!? くそっ! これまでか……」


「ひやぁぁ! 死にたくない死にたくない死にたくない……」


 御者の取り乱し方はさらに酷いものだった。

マジでラライエでの精霊の扱いって何なの?

どんだけ恐れられているんだって話だ。


「ちょっと! 助けに来てもらっておいてその物言い…… 失礼にもほどがあるでしょ! ピリカに謝んなさいよ! この子は味方だよ!」


 追いついてきたリコがボル車の屋根に飛び乗って弓使いに食って掛かる。

えっと、お前さ……。

どの口でそんなこと言うわけ?

初めてピリカを見た時の絶望に塗りつぶされたリコの表情……。

スマホに出力して見せてやろうか?

もう突っ込まないけどさ。


「え? 何? どういうことだ?」


 弓使いはピリカを一切恐れずに飛び乗ってきたリコに対して、理解が追いついていない様子だ。


「ピリカは下にいる子の契約精霊だよ!」


「!! 精霊術師がいるのか? じゃぁ、この精霊は敵じゃないのか?」


「さっきからそう言ってるでしょ! そんなところに座ってないで一匹でも敵を倒す!」


 リコはそう言って苦無を超曲射で投げた。

先頭に居たノールの頭に苦無が突き刺さり、そのまま倒れる。


 アルドはボル車の前面に回って、剣士と御者に声をかける。


「大丈夫か? ボル車の足ではノールは振り切れんだろう。加勢するからこのまま奴らを倒し切ってしまおう!」


「助けに来てくれたのは感謝する。いくら精霊術師がいてもたった三人だけじゃこれだけのノールを倒すのは……」


「多分問題ない。お前たちはボル車を守るのに専念してくれ。ノールは俺達で始末する。ハルト! お前もボル車の守りに入ってくれ!」


「はいよ」


 アルドとリコでノールを積極的に削るつもりらしい。

なら、俺とピリカで寄ってくる奴らを順番に始末していくか。


「本当に大丈夫なのか? あんたたちは……」


 アルドとリコが連中の目に見えるように冒険者ギルド証を取り出す。


「!! に……日輪級……。勇者様…… なのですか?」


「今、勇者は別行動中だ。俺達はそのパーティーメンバーだ。そんなわけで心配無用だ! 守りは任せるぞ!」


「承知した! 必ず守り切る!」


 さっきまで死んだ魚と変わらなかった二人の護衛の目に光が戻ってきた。

勇者の威光は絶大ぽい。

御者がボル車の中に声をかける。


「お客さん! もう少しの辛抱です! 全員助かります! 日輪級冒険者が救援に来てくれました!」


 ボル車の中からわぁっ!っと歓喜の声が聞こえてきた。

どいつもこいつもどんだけ勇者好きなんだよ。


 アルドとリコがノールに切り込んでいく。

多分、ノール相手に後れを取らない自信があるんだろうと思うけど、万一の保険はかけておきたい。


「ピリカ、二人を気にしておいてやってくれ。もし、ヤバそうなら援護を頼む」


「ハルトは?」


「俺はここでボル車を守りながら、一匹ずつ順番に始末していく」


「じゃぁ、ピリカもここから魔物をやっつけるね」


「ああ、二人が大丈夫そうならそれでいい」


 ピリカは次々とボル車の屋根から【ピリカビーム】を見舞っていく。

俺も射程に踏み込んできた奴から順番に【フルメタルジャケット】を撃ち込む。

アルドとリコも順調に敵の数を減らしている。

絶対に狙いを外さない飛び道具を使っている分だけ、敵を狩るスピードは俺とピリカの方が若干早い感じがする。


 15分も経過する頃には、全てのノールが倒し尽されていた。


 やっと百話到達です!

百話ブーストとかって……無いですよね?

知ってます。そんなの聞いたことないもん。

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