カタをつける
以前にも触れたが、フレデリカの生国イーエステルでは貴族の子息令嬢は13歳~18歳まで王都にある王立学園に入学する。
前世日本の平安時代では13歳で元服だったようにイーエステルでも仮成人とみなされ、学園では様々な事を学び人脈作りやら社交性を身に付ける。18歳で本当の成人として大人の仲間入りを果たすまでの予行演習って訳だ。
その学園の入学を半年に控えたオーウェル家は入学準備に浮き足立っている。今も入学パーティーに着るドレス選びに余念がない。
「こっちのピンクもいいけどこっちのオレンジもいいわね~」
「プリティーナなら何でも似合うと思うぞ」
「まぁ!お父様ったら~♪」
素顔を隠すために長く伸ばした前髪越しにバカ親子のキャッキャウフフを醒めた目で見る。呼び出しておいて放置とか――どうせ私には何も与える気なんか無いくせに。羨ましがらせる気だろうけどお生憎様だね。コルセットなんて拷問道具着けたくないんで。
学園にも『病弱だから』と入学を断ったらしい。まぁ元々行く気無いんで別に良いんだけど。
「ふん!相変わらず可愛げのない奴だな。無学なお前が学園に入れば恥をかくのは我がオーウェル家なんだからな」
「嫌ですわあなたったら!本当の事を~」
「キャハハハ~」
家庭教師1人もつけなかったのはクソ親父だろうが。っていうか大口開けて笑うのは貴族令嬢としてどうかと思うよ?
「……お話は以上でしたら失礼いたします」
最上級のカーテシーを美しく完璧に決めて部屋を出る。唖然としたマヌケ顔が笑えるわ~。
悲しそうに離れに向かう姿を屋敷の使用人達に見せ、ベッド以外何もない自室から『本当の我が家』に『転移』する。
『おかえり。お疲れさん』
「はぁやれやれ……相変わらずで疲れたけど、これで漸くカタがつくと思えば我慢できるもんだね」
***
5ヶ月後、イーエステルにある伯爵家の1つが爵位と屋敷や領地を国に返還して消えていった。
***
実はオーウェル家は亡くなった母の実家で、母が女当主で父は入婿だったのだ。恐らく母は父の浮気を知っていて、こうなる事を予感していたのかもしれない。
母の血を引き、母と同じ紫紺の瞳を持つフレデリカが13歳で当主になるようにしっかり手配されていたからね。しかもそれまでにフレデリカが病やら事故で死んだ場合は問答無用で国に爵位と領地を返還する様になっているという手の入れよう。
おまけにフレデリカが爵位を継いだら父と離婚して家から叩き出すつもりだったようだ。結構苛烈な性格してたのねママン。
なので私は13歳になって直ぐに爵位を継ぎ、即返爵と離縁の手続きをとったのよ。取り消しや異議申し立てを受け付ける期間が過ぎたから正式に執行されたって訳。
「呼び出された時はバレたのかと焦ったけどねぇ……ボンクラばっかで助かったよ」
『精霊仲間によるとそなたを必死で探しとるそうだぞ』
「まさか馬車で3ヶ月はかかる処に居るとは思わないでしょうね」
元父ダーニウスは伯爵家の三男で、実家の伯爵家は既に長兄が継いでいて息子が2人も居る。元父の入る余地なし。
義母クルエラはビルデー男爵の庶子で、こちらも男爵の息子が継いでいるので戻るに戻れないだろう。
異母妹プリティーナも貴族ではなくなったから学園には通えない。
親子3人で慎ましく生きてくれ。
イーエステルの学園は欧米式(9月始まり)の設定です。
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