異世界転生!?・・・笑えんわ~
よろしくお願いします。
若人がすなる『異世界転生』といふものを……自分がするなんて夢にも思わなかった――!!
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………マジか――。
唐突に前世を思い出してしまった。ごく普通の日本人女性としての記憶を。
前世の私は一般的な家庭に育ち、19でデキ婚。2男1女を育て上げ、5人の孫にも恵まれた。
長年勤めた会社を定年退職し、これからは可愛い曾孫の成長を見守りつつのんびり暮らそうと思っていた矢先――信号無視の車に轢かれての交通事故死。享年66。交通ルールは守りましょうよ、いやホントに。
ため息混じりに窓の外を仰ぎ見たら――夜空に二つの月。
いかにも解りやすい『異世界らしさ』。ありがとうございます。
……美紗ちゃん、お祖母ちゃん『異世界転生』しちゃったよ。しかも貴女がよく話していた『トラック転生』ってやつ?……笑えんわ~。
心の中で一番下の孫に愚痴りつつ、じっと手を見る。――紅葉のような小さなお手手。そう。今の私は幼女なのだ。
姿見で確認したが、ふんわり波打つ肩先まである亜麻色の髪に、ぱっちり二重の紫紺の瞳。マシュマロみたいなぷっくりほっぺに小ちゃなお口。将来が楽しみな美幼女っぷり。
フレデリカ・オーウェル伯爵令嬢、3歳。それが今の私。
両親はよくある政略結婚だったようで、父は私が1歳の時に母が儚くなると、喪が明けぬうちから愛人であった女を後妻にした。しかも私と数ヶ月しか離れていない異母妹付。つまり母が妊娠中に浮気をしたという事。そして異母妹ばかり溺愛し、私を屋敷の離れに押し込んで完全に無関心。
義母は今はまだ嫌味を言うくらいで基本無関心なんだけど、唯一私の味方だった乳母を父に言って解雇したのよねぇ。前世を思い出したのは、優しい乳母が居なくなった寂しさからだったみたい。……笑えんわ~。
なぜ3歳の子供が家庭の事情をここまで知っているのかって?
義母の侍女達が笑いながら話してたからね。子供って意味は解らなくても言われたことは覚えてるって事が身をもって知れたわ。幼児だからと侮るべからず!子供の記憶力恐るべしよ!
しかし、美紗ちゃんから薦められて異世界物のラノベやらマンガを読んでいたから思うけど……使い古されてる境遇だよねぇ。
――さて、状況整理が終わったところで、これからどうするか考えないと。
浮気者の最低親父を教育的指導で矯正してやろうかとも思ったが、如何せん今の私はか弱い幼女。無駄骨を折るのは癪だ。
けれどこのままだと……貴族令嬢としてコルセットに締め付けられながらの狐狸妖怪相手に社交という名のマウント合戦やら最低親父の政略の駒として碌でもない相手に嫁がされる未来しか思い描けない。……笑えんわ~。
どうせなら前世できなかったのんびりスローライフってやつをしてみたい。
うん、そうだ家を出よう。