09
赤く腫れた額に鬱血した頬の鴇宮は、よろよろと顔を上げた。
「ひどいなあ。痛いじゃないですか」
笑う唇の端が切れて、血が流れている。
包丁男は彼女をパンコーナーに引っ張っていくと、
「食わせろ」
「はい?」
「いいから食わせろって言ってんだよ!」
鴇宮はにこっと笑うと、
「えーっと、どうします?何パンがいいですか?」
「カツサンド」
「クリームパンですね、分かりました」
「カツサンドっつってんだろ!死にてえのか糞アマ!」
やりとりをうつ伏せになりながら聞いていた女の子が、
「ねえ、なんかやばくない?」
棚と床のわずかな隙間から覗きこんできて目が合った。
「あのお姉ちゃん死にたいの?」
「やー、あいつは元からああだから。残念な女子なんだ」
と俺は言いつつ、目まぐるしく頭を回転させていた。
籠城された場合、警察が突入してくるまでには時間がかかる。
鴇宮が素直に従ってくれればいいのだが、あいにくそんな希望は最初から捨てたほうが身のためだろう。
「なんでだよお。そんな、俺、こんなつもりじゃ。スーさん、逃げようよ」
情けない声で銃男が言った。
「ほらね。あいつに人殺すなんて無理無理。だって威嚇射撃の一発もしてないしさ」
うろたえる銃男を見つめて航平が言う。
「んだよてめえ、裏切る気か!?」
鴇宮の手からカツサンドを食べさせてもらいながら、物すごい眼光で包丁男は銃男を睨みつける。
ひいっと銃男がすくみあがった。
「だって普通にやばいよ。依頼とかさあ、何かやばいと思ってたんだよ。俺たち、はめられたのかも」
「うっせえうっせえうっせえ!」
と包丁男はわめき散らした。