07
「お前な。なんでそんな能天気なんだ。殺されるかもしれないってのに」
「あいつらには無理だよ」
と、航平は薄く笑う。
今二人は金を懐にしまい、包丁男は鴇宮を後から羽交い絞めにする格好で首に包丁を突きつけ、銃男と何やら話し合っている。
その様子を眺めながら、航平は声をひそめて言った。
「だって肉まんさんの銃、モデルガンじゃん」
俺は思わず声をあげそうになった。
はあ?何だって?
「てゆうか、ガスガンだね。ベレッタM92F。装弾数二十七発。弾丸は6ミリBB弾」
つらつらと説明されて俺は目を白黒させた。
「何で分かるんだよ」
「見りゃあ分かるじゃん」
と歌うように航平は言った。
「まあBB弾でも当たれば痛いし目に当たったら失明だけど。モデルガンってばれたらおしまいだから撃たないと思うよ」
それより問題は包丁さんの方だねえ、と航平は楽しげに呟く。
俺ははっと息を呑み、
「そうだ。気づいたか?あの包丁、最初から血がついて」
「せやな。うちもそれは思っとった。あの包丁男の方がやばいで」
予想外の方向から声が飛んできて、俺は目を剥いた。
棚越しの向こう側から、唇の動きがかすかに漏れ伝わってくる。
注意していなければ聞き取れないくらいの小さな声だった。
「もしかしたら誰か殺してからここへ逃げ込んだんかもしれん。せやからここに立てこもろうとしてるんかも」
えらく関西なまりが入っている。声から推すに、さっきの主婦らしい。
「お母さん、怖いよお。何でもいいから私とお母さんだけは殺さないでって、犯人さんにお願いしてみようよ」
彼女にしがみつく女の子のものらしい声も聞こえてくる。
何つう自己中なガキだ。
しかし、この状況ならば冷静でいられるほうがおかしいのかもしれない。
人助けだ博愛だと何だかんだいっても極限のところでは、人は生存本能に忠実だ。