06
何度も言うが、鴇宮は確かに可愛い。破壊的に可愛い。
だが、常識という人間の基本ツールがまったくもって通用しないのだ。
ある意味、爆弾並みに扱いにくい奴なのだ。
誰か警察呼べ。早く警察来てくれよ。
俺ははらはらしながら心の底から祈った。
「てめえはこっちに来い」
と包丁男は言った。
いや、やめといたほうがいいって。
犯人さん分かってる?こいつ結構頭おかしいよ?
鴇宮は涼やかな微笑を浮かべて、
「てめえとは私のことですか?」
「ああ?」
包丁男の眉根にくっきりと縦しわが刻まれる。
「さっさとこっちにこいって言ってるんだよ、殺すぞ」
「はい。よろしくお願いします」
語尾を明るく弾ませて鴇宮は立ち上がり、靴下で慎重に画鋲の群れを左右にかきわけた。
うつ伏せになっている俺の横を通ったとき、スカートの中は丸見えだったわけで。
こんな状況でも視線は追ってしまうわけで。
そして鴇宮のパンツは白だったわけで。
理性がはっと目を覚まし、俺は隣でだらんと寝転がる航平にささやいた。
「やばいぞ」
「何がー?」
「鴇宮が人質に取られた」
「俺ら全員人質じゃん。まあ警察が何とかしてくれるっしょ」
にかりと笑って、航平は窓の外を指さす。
停まったパトカーから警察官が降りてくるところだった。
こちらを包囲しつつ、忙しげに飛び回っている。
「お前、呼んだのか」
「呼んだよん」
いつの間に、と驚くやら呆れるやらしていると、
「マジで腹減りーぬなんだけど。てかこれいつ終わんのかね?家帰って乃木坂のライブDVD観るつもりなのにさー」
緊迫感の欠片もない様子に、俺は肩を落とした。




