05
包丁男の眼光が、奇矯な言動で一際目立っている航平と、それを押さえつけている俺に容赦なく注がれる。
そして彼は、おもむろに文具棚に近づき、画鋲入れの蓋を開けると、床の上にばら撒いた。
驟雨のような音がして、金色の波が床に広がる。
たっぷり五箱、唖然とする俺たちから、すくみあがった少女と主婦の足元まで、画鋲の帯が撒き終えられた。
包丁男は錆ついた声で、
「お前ら靴を脱いで床に腹ばいになれ」
この床に?!
俺は目を剥いた。
冗談じゃねえ。こんなとこに腹ばいになったら血まみれになるわ。
「それと、これから許可なく発言した奴は撃つ」
と、包丁男は顎先で銃男を示した。
銃男は胸を反らして銃口を四方に向けつつ、どこか誇らしげにしている。
何だそのどや顔は。自分に酔っている匂いがぷんぷんするぞ。
駄目だこりゃ。こいつら相当な馬鹿だ。頭のネジが飛んでる。
銃刀法に守られたこの国で暮らす人々にとって、銃など映画や漫画やゲームでしかお目にかかれない代物だ。
それがこちらに向けられているというだけで、恐怖がまともな思考を妨げる。
指一本で訪れる死という圧倒的な暴力に全ての論理は吹っ飛び、ただ縮こまって生命の危機が過ぎ去ることしか考えられない。
俺たちと主婦と子供は、どちらからともなくお互い顔を見合わせる。
無言のやりとりのなかで、ここは犯人の言うとおり従っておくしかないという結論が導き出された。
俺はそろそろと靴を脱ぎ、そろえて、なるたけ画鋲の散らばっていない部分の床を探してうつ伏せになった。
大儀そうに隣に寝転がった航平の耳元で、
「お前が余計なこと言うからこんなことになったんだろ。いい加減にしろよ」
どうしても黙っていられず、小声で罵った。
「おい、そこのお前」
俺は首を縮めたが、突然指差されたのは鴇宮だった。