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帰り道、俺は右の航平と左の鴇宮に一万円ずつ紙幣を手渡した。
「ほらよ。山分けだ」
「わーい万札万札ー」
と航平は無邪気に喜ぶ。
鴇宮が心配そうに、
「でも、よかったんですか?犯人さんがネットで唆されたことを話したら、口止め料の意味がないんじゃあ」
「大丈夫だよ」
と俺は請け合った。
「どうせあの包丁男は、自分が犯行を唆されたことさえ気づいてない。神の声だの、悪の道に従っただの言うに決まってる」
俺たちさえ黙っていれば、店員に火の粉が及ぶことはない。
きっとそのうち、辞表でも書いてとんずらするつもりだろう。
「つーかさ、どっちかっていうと強盗って俺らじゃね?」
夜空に一万円札を透かして航平が呟く。
「結局犯人は金盗めなかったし。一番の悪役は犯人じゃなくてルカじゃん?」
「そうかもしれないですねー」
と、鴇宮が間の抜けた相づちを打つ。
「榎本君がいっぺん人を殺してみたかっただなんて知りませんでした」
「何言ってんだ。それはただの言葉の綾。だいたい、こっちは命がけで頑張ったんだ。当然の報酬ってやつさ」
と、うそぶく俺は、我ながら悪人面をしていたかもしれない。
「でも、よかったですよ。死人が出なくて済んで」
と言いながら、鴇宮はポケットからいかめしい物体を取り出す。
俺は頬をぴくぴく引きつらせ、
「……鴇宮さん?それはいったい何でしょうか」
「スタンガンです♪」
語尾を弾ませて鴇宮は言った。
「榎本君と花房君がいなかったら、私一人でやらなきゃいけなかったから、もっと手荒な解決になってたかもしれませんねっ」
愛くるしい顔に不似合いな、物騒な言葉が飛び出す。
「ずるい、鴇宮。そんないいもん持ってるんだったら先に言ってよ。俺もモデルガンなんかじゃなくてそっちがよかった」
航平が意味不明な理由で唇を尖らせた。
「でも、じゃあ何でだ?何でわざわざ人質になったんだ?殴られたときも反撃しなかったし。それさえあれば、犯人なんか一撃でのしてやれただろうに」
純粋な疑問を投げかけると、鴇宮はにっこり笑う。
「だって。それじゃあつまんないじゃないですか」
俺は乾いた笑い声を立てた。
やっぱりこいつらの思考回路は計り知れない。
俺には一生理解できない。




