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「遅っせえんだよ、お前は。何分トイレしてたんだよ」
俺は不平を述べた。
「ごめんごめん。豚まんさんの説得とか交渉とか縛り上げとかに手間どってたら、時間かかっちゃって。いやー本物の銃じゃなくてよかったよ。俺の目に狂いはなかったね」
「頭は狂ってるけどな」
「すごいです、花房君。どこで射撃の訓練を受けたんですか」
鴇宮が言うと、航平は照れたように頭をかいて、
「たまたまだよ。俺がそんな技術、持ってるわけないじゃん」
「そうなんですか。ミラクルってやつですねっ」
「鴇宮の演技ほどじゃないけどねー」
航平の言葉に、鴇宮はきょとんとした顔をする。
「何の話ですか?」
航平は大げさな仕草で、
「またまたあ。ちゃんとトイレから聞き耳立ててたんだよ。アカデミー賞主演女優賞あげたいと思ったね、俺は」
鴇宮はますます目を丸くしたまま、航平を見つめている。
全く、どいつもこいつも油断のならない奴らだ。
俺は立ち上がり、主婦とえみかの元へ向かった。
警察官に保護された二人は、安堵の表情を浮かべている。
非日常から解放された彼女らは、ようやくごく普通の親子に見えた。
「ありがとう」
深みのある声が言った。
差し出された手を握ると、温かくてほっとする。
「ほんまどうなることかと思ったけど、あんたらのおかげで助かったわ。今度スーパーで会ったら、特価品おさえといてあげるわな」
そんな報酬は要らねえと思っていると、えみかがくいくいと服の裾を引っ張り、
「結構格好良かったよ、お兄ちゃんたち。ドラマみたいで、えみかわくわくしちゃった」
笑うとえくぼができて、年相応に子どもらしい。
「足、震えてんぞ」
と俺が指さすと、泣き出しそうな顔になった。
「だってね。だって……ちょっとだけ、怖かったから」
えみかは母親に抱きついた。
最初からそうしてろっての。
俺は苦笑まじりに呟く。




