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俺は頭の後ろに手を当てて、
「いや、俺もどうしたらいいのか分からなくて。なんかよく分かんないけど、犯人さんの話聞いてたら、手伝った方がいいのかなって」
顔がひきつる。我ながら下手な芝居だった。
そのとき、鴇宮と目が合った。
彼女の目は先ほどの浮かれたようなものとは一転、氷のように厳しいものに変わっていた。
「それに、いっぺん人を殺してみたかったんですよ」
俺はばらまかれた画鋲の金の反射に目を落とした。
「簡単に人を殺すなんて言うんじゃねえ!殺すぞ!」
と、包丁男は矛盾極まりない発言をした。
「人を殺すっつうのはな、そんなちゃらついた気持ちでできることじゃねえんだよ。へらへら笑ってんじゃねえよ、糞が」
俺は冷静に包丁男を見つめた。距離はまだ遠い。
画鋲の海を飛び越え、反撃してくる包丁をかわして、包丁男を取り押さえられるものかどうか。
「ちょっとちょっと。あんたが下手なこというから、余計に犯人機嫌悪うなったんとちゃうん?ぐだぐだ長引かせてやんと、さっさと終わらせようや」
「終わらせるって、どうするのお母さん?」とえみか。
「そりゃあんた、あの男の子があいつ取り押さえてくれたらそれで解決やんか。ようテレビドラマとかでやってるやろ?私も後から絶対行くから、あの方法でいこ」
何が「あの方法でいこ」だ。
ていうか、あんた絶対加勢しないだろ。
切り込み隊長の俺が切られようが死のうが知ったこっちゃないってことか。鬼かお前は。
ともかく、一対一じゃ圧倒的にリスクが高すぎる。
ここは航平が戻ってくる、もしくは警察が突入してくるまで、誰も危害を加えらないよう少しでも時間を稼ぐしか方法はない。
「俺は導かれたんだよ。心の底から声がするんだ、殺せ、殺せってな」
広げた両手を見つめ、妄想にひたる包丁男。
「そしたらある日、啓示と出会った。俺を脅かした者を倒し、復讐する。その方法を俺は見つけたんだ。悪人の集う場所でな」
「それってどこですか?私も行きたいです!」
鴇宮が目を輝かせている。
包丁男は溜息をつき、芝居がかった仕草で肩をすくめると、
「駄目だ。お前みたいな甘っちょろい奴が近寄れる場所じゃねえ。あそこは危険だ。ど素人がうかつに近寄れば――死ぬぞ」
いい加減聞いてて恥ずかしいんですけど。
中二発言は家に帰ってから存分にやってくれませんか。




