02
「てめえ!何勝手にやってやがる!」
と包丁男が近づいてきて刃の切っ先を振りかざした。
そこに付着した赤黒い液体を見て、喉が引きつった。
血……!
デブの方はレジの中にいた店員と店長に銃を突きつけつつ、
「は、早くしろお」
と急き立てている。
慌てふためく店員(おとなしそうなお兄さん)とは裏腹に、店長(四十代くらいのおっさんだ)はどこか落ちついている。
不意に肩をたたかれ、悲鳴をあげそうになった。
振り向くと、
「こんにちはっ」
うさぎのように両手を耳まで上げた少女が、こちらを見つめていた。
「鴇宮」
声がかすれた。
「偶然ですね榎本君、花房君。取りあえず、ここは言うことを聞いておきましょうか」
予期せぬ知り合いの出現に、普通なら心強く思うところなのだろうが、俺の不安ゲージは一気に増幅した。
鴇宮朱鞠は一年D組のクラスメイトだ。
のみならず、相当な美少女でもある。
だが、いかんせんやることが妙ちくりんで、奇人と言われている。
たまにいませんかね、アイドルみたく殺人的にかわいいんだが、言動がおかしな子。
航平といい、鴇宮といい、強盗犯の神経を逆なでする要素が満載だ。
ここはともかく静かに、嵐が収まるのを待ったほうがいい気がする。
遅ればせながら俺は両手を上にあげた。
降参のポーズをしつつ店内を見回す。
棚を隔てた向こう側には、女の子連れの主婦が同じように不安げな眼差しで周囲を窺っていた。
包丁男はそれで納得したのか、俺たちから離れて出入り口を見張った。
レジから金を取り出させた銃男がそれを受け取ろうとしたとき、二人が揉みあいになった。
どうやら店長が抵抗したらしい。
「店長!」
店員も加勢し、どうにかして銃男を取り押さえようとする。
すぐさま包丁男が飛んで行き、「ぐっ」と呻き声があがった。
腕に包丁を突き刺された店長が、だらだらと青の制服を血に染めていた。