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「んじゃ、ま、うまくいくかどうかは分かんないけど、肉まんは俺が何とかしてみるよ。ルカ君は包丁野郎をお願い」
え、ちょ、と言ってる間に航平はさっと手を上げて、
「犯人さんすいませーん」
包丁男の額に青筋がのたうった。
「俺さっきからションベン行きたくてしょうがないんすよ。マジもらしそうなんですよ。いいですかね?行ってきて」
「それは大変です。幸い、このコンビニにはトイレが設置してありますし、トイレから外へ通じる扉はありません。よかったですね、花房君」
緊張感のかけらもない様子で鴇宮が同調する。
マジで死にたいんだろうか、こいつらは。
「駄目だ。勝手にもらせ」
「んなことしたら店中臭くて下手したらアンモニア中毒になりますよ。気持ち悪くて物も食えなくなっちゃいますよ。
犯人さーん、基本的人権認めてくださいよー。生存権、自由権、トイレ権ってあるでしょ。学校で習いませんでした?」
習ってねえよ。お前は義務教育で何を学んできたんだ。
包丁男は分厚い靴底で棚を蹴り飛ばした。
傾いた棚が倒れて、ガムがばらばらと床に落ち、色とりどりに散らばる。
わあ、と鴇宮が感嘆とも歓喜ともいえない声を出した。
「糞が。てめえら馬鹿にしてんじゃねえよ。ぶっ殺すぞ。むかつくんだよ。喋んじゃねえよ。糞糞糞糞糞くそクソクソクソクソ」
ぶつぶつ呟きながら鴇宮を引っ張りまわしている。
うっかり手を滑らせたり転びでもしたら喉に包丁が突き刺さってジ・エンドだ。
見ている俺はこんなにひやひやしているのに、当の本人はにこにこしているのだから始末に負えない。
「スーさん。お、俺行くよ」
銃男が言った。
「俺もトイレ行きたかったから。ちゃんと見張っとくよ」
「スーさんスーさん呼ぶんじゃねえ!!」
銃男は怯えきっていている。
あの青ざめた顔は演技には見えない。戦意喪失してしまったとみていいだろう。
もしかすると航平なら、うまく丸め込んでくれるかもしれない。
かすかな希望を託し、俺は航平を見つめた。
航平は一瞬目に真剣な光を灯して、頷いた。
「マジっすか?!ありがとうございます。犯人さんめっちゃいい人じゃないですか。俺の膀胱の恩人はあなたでーす!」
ぴょんと勢いをつけて立ち上がると、銃男がこっちにやってくる。
トイレは俺たちが床に伏せている本棚の奥にある。
俺は首をひねって二人がトイレに消えるのを見送った。




