10
「殺すぞデブが。てめえはさっさとポリ公に電話しやがれ!」
「さっきから殺す殺すて、ボキャブラリー貧困やなあ。どうせそんなんできへんやろ。あいつら中途半端やねん」
と主婦が抑えた声でディスった。
包丁男は店内の食物を食いあさっている。
なるほど、コンビニは籠城にはうってつけの場所らしい。
「でもさあ、何かおかしくね?何で肉まんさんは包丁さんの言いなりなわけ?共犯っつうか、手下っぽいよね」と航平。
「それより、何とかしてこの状況を打開しないと、鴇宮が殺される」
青紫色に鬱血している鴇宮の目元を見つめて、俺は真剣に言った。
「ある意味、自業自得って感じはするけどねえ。鴇宮っていつもあんなんじゃん?」
「そうだとしても、目の前でクラスメイト殺されたら寝ざめが悪い」
「ルカ君、かっこいー」
ひゅーひゅーと棒読みで航平が言う。
「えみかね、依頼ってゆうのが気になるの。あいつら、たまたまここを狙ったんじゃなくて、誰かにここを強盗するよう指示されたんじゃないかなあ。でもその前に、包丁の奴が人殺してて、デブはそれを知らなかった、みたいな?」
女の子が淡々と言った。
「事情はどうでもいい。まず肉まんをどうにかしないと。包丁男一人なら、取り押さえるのはそんなに難しくないはずだ。俺ら全員で飛びかかって押さえつければ」
「あかん、あかん。えみかにそんなことさせられへん」と主婦。
「てゆーか、肉まんはほっといていいんじゃね?あいつ完全にびびってるし、俺らが反撃したところで何もできないと思うよ」
「思うよ、じゃ駄目なんだよ。不確定要素がでかすぎる。万一後ろから撃たれでもしたら死ぬだろ。とっくみ合いの最中に加勢されたら面倒だ」
「つまり包丁さんをやるまえに、肉まんを完全に無力化しておきたいってわけだ」
「普通なら下手に行動を起こさない方が安全なんだろうが、鴇宮は生きた爆弾みたいな奴だからな。事がややこしくなる前に俺たちで何とかするしかねえだろ」
我ながら苦々しい顔つきで俺は言った。
「店長さん怪我大丈夫かな。店員もびびってるから使えねえし。実質俺とルカしか戦力なくね?」
「うちもやるで。主婦の底力なめたらあかん」
と力強い声が言った。
ひそかに腕まくりしている。