ギルドマスターのギルド追放~先にしたのはお前だろ
なんで書いちゃったのだろう...
「カーライル、女神の如き美しさと、天使の様な可愛いらしさを兼ね備えた貴方は今日でギルドマスターを辞めて貰います!」
冒険者ギルド本部からの依頼で1年に及んだダンジョン攻略を終え、本部が主催する祝賀会の最後に挨拶をしようと仲間と共に壇上に上がると、突然舞台袖から飛び出して来た俺の部下、アシュリーから追放を宣言された。
「...もういいよ」
突然の事に訳の分からない呟きが出る。
ギルド追放や罷免ってギルド本部の代表とか幹部がするんじゃないの?
俺、一応ギルド本部からマスター認定を受けたギルドマスターだよ?
辺境の街にある小さなギルドだけど...
「あら、イッちゃいそうなくらい官能的な顔ね。
全てを奪われたのはダンジョンのボスだけじゃなかったのね」
余りの事に呆けていると、俺のギルドで1年前からサブマスターを務めている部下の、いや元部下のアシュリーが蕩けた表情で笑った。
「アシュリー仕方ないよ、部下に追放を宣告される位の魅惑的なマスターなんだから」
「ああユーリ...」
アシュリーの後ろから現れたのは王都にある商人ギルドでギルマスを務めているモヤシ男、ユーリ。
奴は父親はこの国の商人ギルド本部代表。
今回のダンジョン攻略では物資の補給を任され多大な利益を得た筈だ。
俺自身は地方の冒険者ギルドマスターとはいえ、冒険者ギルドの方が商人ギルドより立場は上。
この国の商人ギルドに加盟していない店でも、物資は買える訳だし(加盟してる店より少し高いが、品質も高い)。
俺は今回の攻略で全く被害を出す事無くダンジョンコアを手に入れ、国に多大な貢献をもたらしたギルドマスターと称賛されたんだぞ?
国から認められたギルドマスターの俺に追放を宣言した時点で2人共アウトだ。
奴等の評判と共に冒険者ギルドの地位まで落としたな。
「おいカーラ、こりゃ何だ?」
隣に居た俺のギルドに所属する、Sランク冒険者のサザーランドが呆れた顔で呟く。
幼馴染みの奴は昔から俺をカーラと呼ぶ。
女みたいだから止めろと何度言っても改めないから俺も愛称で答える。
「ランちゃん、俺が聞きたいよ」
「その呼び名を止めろ!味方だけじゃなく各階層のダンジョンボスにまで揶揄われたんだぞ!」
目を剥いて身体を震わせるランちゃん。
2メートルを超える強弓戦士だからな。
顔は理想的な兄貴テイストなイケメンだが。
「2人共止めなさい、それよりあの歩く泌尿器科女よ。
全ての性病を患って、爛れた下半身に絶望して発狂したのかしら?」
サザーランドに抱き締められ、息を耳に吹き掛けられて悶絶する俺を睨みつつ、ランちゃんの金的を蹴り上げている。
こいつはサザーランドと同じく俺のギルドメンバーでSランク冒険者、幼馴染みのアナリシス。
黙ってりゃ美貌の女剣士なのに。
「全ての性病か、お前は大丈夫だよな?
俺に伝染してないよな?」
それは心配ご無用だ。
アシュリーと肉体関係どころか偶然でも触れた事すらない。
しかしランちゃん、どうして俺がお前に性病を伝染せるんだ?
とんでもない事を言うな。
「お前こそ大丈夫か?あいつが性病をコンプリートしたのなら、お前の自慢のマグナムが実に心配だ」
「サザーランド、貴方まさかカーライルに...」
剣に手を掛けたアナリシスから立ち上る、凄まじい覇気。
世界最強の剣士アナリシス、彼女の剣は痛みすら感じさせず野郎のイチモツを切り取ってしまうと言う。
この2人は昔から恋人同士で相思相愛。
3年前にダンジョンが見つかり、攻略に乗り出したこの国。
だが失敗続きで、1年前に俺のギルドに依頼が来た。
フリーで活動するサザーランドに俺のギルドへの所属と、ダンジョン攻略をお願いすると快く了解してくれた。
そんなサザーランドが心配で一緒に着いて来たアナリシス。
信頼出来る人物がいない俺との違いが悲しい。
何故かサブマスターは直ぐに辞めてしまう。
『同じ部屋に居たら理性が持ちません』って、なんで?
「馬鹿な事を言うな、俺のマグナムはアナリシスとカーラにしか使わないぞ!」
「...サザーランド」
「アナリシス...」
見つめ合い抱き合う2人。
今なんかサザーランド変な事言わなかった?
こら!みんなサザーランドの股間と俺の尻を見るな!
「すまんアシュリー、居たのか?」
「...ふざけないで」
「は?」
「ふざけないで!
貴方のギルドのサブマスターになってあげた私が、目の中だけじゃなく、全ての中に入れたいあなたに追放を宣言してるのよ?
悔しがるとか無いの?」
何だそりゃ?
「お前の親父さん冒険者ギルドの代表だろ?
良いのか、他にもギルド関係者が居る面前で」
馬鹿らしい振る舞いにギルド代表を務めるアシュリーの親父さんが心配になる。
あいつはどうでも良いが、あの人は良い人だ。
三年前、ソロで冒険者をしていた俺。
ある日、依頼中に怪我(足を挫いた)した俺に冒険者を引退して、ギルドマスターになれるよう計らってくれた。
『本当に冒険者か?』
『そんな...冒険者ギルドより、私の[ショタ]ギルドの方が...』
周りのギルドの代表からそう言われ、ギルドマスター就任が危うかった俺を何とか辺境ながらもマスター認定してくれた。
剣を振る機会は減ったが、やりがいのある仕事で本当に感謝だ。
なかなかギルドメンバーは俺をマスターとして認めてくれなかった。
母親に似過ぎたのが原因かもしれない。
「話を誤魔化さないで、私分かってるのよ!」
「分かってる?」
「攻略中もしょっちゅうダンジョンを離れてばかり!
私を放ったらかしにして素敵な貴方は可愛い服を着て遊び歩いてたんでしょ?」
「アシュリー?」
何でそうなる?
いくら依頼の為冒険者に戻ったとはいえ、本職はギルドマスターだ。
辺境のギルドとはいえ仕事はある。
留守番のメンバーがちゃんと滞りなく運営しているか確認の為に戻っていたんだぞ?
サザーランドとアナリシスが心配して着いて来てくれたが、アシュリーはサブマスターに就任してから一度も俺のギルドに来なかったな。
「気安く呼ばないで、それに引き換えユーリは寂しい私を慰めてくれた。
カーライルが居ない間、楽しかったわね」
「ありがとう、愛しいアシュリーに寂しい思いをさせる可愛いくて我を忘れそうになるカーライルみたいな事、僕には出来ないよ」
あいつら俺達がダンジョン攻略中にナニや、これやら致してたのか。
よくアイツのギルドが無事に運営されていたな。
アシュリーが身に着けている宝石はユーリからの贈り物だろう。
何と身内に甘々なギルドマスター様だ、そりゃああなるわな。
「お金目当てなんかじゃない、私はユーリとの愛に生きる事にしたの。
可愛くて、全てを捧げたくなるカーライルが私の身体を放ったらかしにしたのが悪いのよ」
アシュリー、お前は皆の前で恥ずかしくないのか?
「んな訳あるかよ」
「ノータリン、いい加減にしなさい」
ランちゃんとアナリシスが言い返した、すまん。
「あんた達もカーライルと一緒に消えてたわね。何よ3人並んで繋がっていたの?」
「「はい?」」
サザーランドとアナリシスと俺が?
どうやって?先頭は俺、いやアナリシス...止めよう。
「今、何て言ったの...」
アナリシスがキレた、こいつは昔から男はサザーランド一筋、俺は特別枠だと言っていた。
「何度でも言ってやるわ、その剣でカーライルを嬲る変態剣士が!」
おいアシュリー今なんて言った?
「...貴様何を言っている」
ランちゃんまでキレた。
愛する彼女を変態呼ばわりされりゃキレるわな。
もっともアシュリーの言葉なんか誰もを信じちゃ...
アナリシス、なんで剣と俺の尻を交互に見つめてウットリしてる?
後、お前らも俺の尻を見るな!
「アナリシス止めろ、それは最後のお楽しみだろ?」
ランちゃんがアナリシスを止めたけど、言葉のチョイスおかしくないか?
「そ、そうよ1年前に無理矢理サブマスターを父親から押し付けられただけの癖に、偉そうにしないで!」
おいアナリシス、それを言うな!
確かに誰も成り手が無くて、アシュリーの親父さんが連れて来たんだが。
「仕方ないでしょ?
みんな『堪らない、我慢出来ない』って言うからよ!」
何が堪らないんだ?
「確かに1つの部屋で、ずっと一緒は堪らんな」
ランちゃん何を?
「ええ、私は絶対我慢出来ないわ」
こら貴様ら!
「茶番劇は止めよう、アシュリー行こうか」
「全くね、こんなのに構ってると下半身からいろんな物が流れるわ。
さようならカーライル、私はユーリと行くわね」
「行くって?」
「カーライル、貴方はエロスの女神みたいに美しく可憐なのに最後まで馬鹿ね。
商人ギルドの本部に決まってるじゃない、そしてお父様の冒険者ギルドを私が引き継いで新しい複合ギルドを立ち上げるのよ」
「...おいカーライル、あいつら知らんのか?」
「....サザーランド、どうやらそうみたいだ」
「...本当に脳ミソが無いって恐ろしいわ」
俺達は顔を見合わせる。
いや俺達だけでは無い、アシュリーとユーリ以外の全員が呆気に取られていた。
「アシュリー、お前の父親は貴様を追放するそうだな。
それとユーリ、お前の父親は商人ギルドの代表を罷免されたぞ」
「え?」「誰?」
扉が開き、黒いローブに身を包み、マスクで顔を半分隠した威厳溢れる1人の男が入って来た。
会場の皆は慌てて跪く。
なぜなら男は世界にある全てのギルドを束ねる会長で俺の、
「親父」
「こらカーラちゃん、ちゃんをちゃんと会長と呼べ」
いや思わず言っちゃったけどさ、なんか『ちゃん』が1回増えてない?
「この国の冒険者ギルド本部はアシュリーの追放を。そしてユーリ、お前の父親の罷免は正式に決まったぞ。
発表はまだだが既に他のギルドには通達されておる」
親父は先程と同じ内容を繰り返す。
お猿さん達には大切な事だから二回言わないとね。
「...嘘だ」
「嘘では無い、ギルドから連絡を受けて無いのか?」
受けて無いよね、1年間碌に仕事もしないで、部下に任せっきり。
で、ずっとナニやらしてたみたいだもん。
「嘘だ!追放された眩く可愛いカーライルが哀れでこんな嘘を!」
「いやカーラが哀れとか関係ない。
私もカーラを連れて1年間世界を周りたいとは思うが」
『親父何を言ってる!』
心で叫んだ。
「確かにカーラと世界を...」
「ああ、カーライルと一緒に世界をなんて。
私なら直ぐに早く...」
ラン!アナ!貴様等!!
なぜ皆顔を赤らめる?前傾姿勢を止めろ!
あとヨダレ!!
「...嘘、私が追放?」
お。アシュリーは信じたか?
世界のギルドを束ねる会長が冗談でそんな事言うわけ無いからな。
世界のギルドを敵に回したら、この国の運営すらままならないし。
「サブマスターでありながら1度も任地に赴かず、ユーリの親父は物資を横流ししたり、納入する業者から賄賂で私腹を肥やしていたんだ。
で、2人共処分だと」
仕方ないから説明してやった。
「どうして教えてくれなかったの!」
何故教える必要があるんだ?
「そうだ、お前はギルドマスターでサブマスター、アシュリーの上司だろ!
どうして俺にも教え無いんだ!」
「ユーリ...」
滅茶苦茶だな、勝手に追放を宣言する奴に教える訳ないだろ。
それに今は元サブマスターで元部下だ。
「あのな、カーラはユーリの為に頑張ってくれたんだぜ」
「そうよ、本当なら親の罪で親子共々断罪追放される所を収めて...」
ランちゃんとアナリシスはお馬鹿なユーリに説明した。
俺が親父に頼みユーリは何も知らなかった事、ギルドマスターの地位剥奪と財産没収だけで済ませて新たにギルドの職員からやり直しをしてあげて欲しいと言った事を。
「そんな、お前は俺達を救おうとしてくれたのか、マスターと言うよりマダムみたいな可憐で美しいお前が...」
今何て言った?
「お前に恩人呼ばわりされるのは嫌だ」
「え?」
「ギルマスを追放しようとしたんだ。
それに家から金の出所くらいは知っていただろ。
商売そっちのけで贅沢三昧したお前を許すと思うか?」
「お、カーラがキレた」
「やっぱりね」
「「「「「ヒューヒュー!!」」」」」
サザーランドどアナリシス、そして周りの連中まで踊り狂ってるが、どうでも良い。
「そんな、じゃあ俺はどうなるんだ?
平の職員じゃ今までの生活が...」
「知るか!」
「俺が嫌いなのかカーラ!?」
「好きな訳ねえだろ!」
ユーリは泣き叫び俺にすがりついた。
全員が示し会わせた様にユーリに飛び掛かり...
...おいやり過ぎだ!
剣の柄を尻に突っ込むな!泡吹いてるだろ!
しかし何で嫌いと聞く必要があるんだ?
あと俺はカーライルだ。
奴も一応は生まれながらの商人ギルドの人間だ。
平でも贅沢しなきゃ食っていけるだろ。
どれくらい有能かは知らんが。
「...あのカーライル」
まだこいつが残っていたな。
「なんだ」
「私目が覚めたわ!
やっぱりサブマスターたるものギルマスを支えるべきよね。
貴方が美しく、素敵で、見目麗しいなんて関係無い!
私これから貴方のギルドに着いて行くわ!」
「全ての病気を治してから言え」
「カーライル?」
「目が覚めた?最初から塞がっていたの間違いだろ?
開いていたのは股だけだろ!
追放しといて今更サブマスター?
お前はそこの尻穴が緩んだユーリと繋がってるのがお似合いだ」
「ひ、酷いわ、恩人の娘に何て事を...」
恩人?冒険者ギルド代表のオジさんの事か。
「会長」
「なんだカーラ...イルちゃん」
「冒険者ギルドは何か言ってましたか?」
「馬鹿な娘を押し付けてすまなかった、アシュリーは訓練用の的にする事も考えたが、少しは役に立てたいので犯罪者更正奴隷ギルドの受付嬢にすると言ってたな」
そうか、残念だなアシュリー。
あのギルドは犯罪者の更正の為の物だ。
給料も安く相手は強面揃いだが、まあ女だけに大切には扱われるだろ。
女に飢えて血走ってる連中だがな。
「カーラちゃん、ちゃんは行くからな、ちゃんと後始末は頼む」
親父は部屋を出ていく。
こんな馬鹿に付き合わせて申し訳無い。
いつもより余計に句切るとこおかしくないか?
「嘘、嘘よね?私が受付嬢?奴隷ギルド?
お父様様、嘘、どうして?」
アシュリー...壊れたかな?
冒険者ギルド代表のお嬢様がこいつの拠り所だったからな。
それでも哀れとは思わん、全て自業自得だ。
最後にちゃんと言っとくか。
「おい!アシュリー」
「...カーライル?」
「元サブマスターアシュリー、貴様を俺のギルドから追放させて貰うぞ!」
「嘘、カーラ私が嫌いなの?」
「嫌いに決まってるだろ!」
「ギャャアアヒヒヒー!!」
髪を掻き毟るアシュリー、叫びから完全に壊れた様だ。
奇声を聞き、中に入って来た警備兵に引き摺られて行く。
このまま奴隷ギルド送りだろう。
「ついでにそこで尻から剣を生やして悦んでるのも頼む」
ランちゃんはユーリを指差す、手際よく2人を部屋から連れて行ってくれた。
すっきり解決!
「うし、決まった!」
「カーラ、今それを言うか?」
「ランちゃん、けじめだよ」
「けじめなら奴等が追放を企ててるのに気づいた時にしろよ」
「やだね」
「何故だ?」
「あいつら3年前に俺を戦乙女と勘違いしやがったからだ!」