穴の開いている少年
通らない。
あんまり通らないから、
すべてがどうでも よくなった。
すり抜けていく、
胴体の真ん中に 穴が開いて
すべてがすり抜けていった。
穴が大きすぎて
穴から向こう側の空の景色が見えるくらい、
何もかもが少年にだけすり抜けた。
みんなが見てるもの
みんなが感じるもの
みんなが与えてくれるもの
みんながこれはこれだと思うもの
すべてが通らないから、
穴が開いてるのに通らないから、
その穴は本当に役に立たないから、
だから少年にはもう
どうでも よくなってしまった。
そんな彼には
自分が何者か
とうの昔に
よくわからなくなっていたので、
そんな彼には
もう前に進む力も
立ち上がる気力も
何もかもが出なかった。
ただ ただ
湯葉のように 薄く生きるだけ。
灰汁のように 薄く揺蕩うだけ。
形しか見えない。
そんな彼には形しか見えていない。
絵を描いても何も描けなかった。
形だけ描けた絵は ただの線で
何の意味も 持たせられなかった。
音を紡いでもそれはただの音で
形だけが出た音は
音楽には 何もなれず 繋がらなかった。
少年は あまりに穴に何を入れても
ぽろぽろこぼれていく ものだから
何も入れる気力がなくなってしまったまま
今は4年が経ってしまった。
それでも穴は
塞がらない。
最初は 周りも
色んなものを入れてくれた
だけど彼には
お返しができない
こぼれていくものだから
何も持っては
いられないものだから
周りには何も与えられない。
だから周りの人々も
こいつは空っぽだと みぬいて
そのまま離れて いってしまった。
ある風の強い晩に
穴が開いてるのに
何も風が通らない 少年は
真っ暗な誰もいない夜の小さな公園に
一人でドーム型の遊具にのぼって
立って夜空を眺めてみた。
キラリキラリと
お星さまが光って
ほんのすこしだけ 少年にも風が吹いた。
あまりに あまりにも
ぽっかり空いた穴は塞がらない。
この穴の向こうには
何が見えるのか
自分にはわからなかった。
けっして 鏡じゃ 見えない 向こう。
けっして あったかくなることはない 夜の闇。
これからも穴が塞がることはないのだろう。
空虚なドーナツのまま死ぬのだ。
埋められない穴は
彼の人生に開いた 落とし穴。
いつの間にか 自分で開けた 落とし穴。
夜空の星たち 輝いて
光をキラキラ 少年に
とってもとっても 遠くから
少しでも照らす 夏の夜。
少年の 見えない闇に
ほんのすこし 届いた 光。