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六・世界はバームクーヘンでした

世界観の説明回です。

この世界は、木の年輪のように一つ一つの層に分かれていて、世界は隣り合っているけれど独立して成り立っているらしい。ふむ、平行世界(パラレスワールド)というやつだな。


「とは言え、完全に独立している訳ではなくてね。この…壁になっている部分が薄いところもあって、時折綻びる」


そう説明しながら、年輪の層を滑る帯刀さんの指を食い入るように見つめてしまった。男の人の指だけど、あまりゴツくなくて綺麗な手だな。止水さんと違って刀とか持たないのかな。


「鈴華?分かりにくかったかな?」

「あ、い、いいえ!その…その綻びから、別の世界と繋がったりするってことですよね」

「ああ。理解が早いね。聡明なお嬢さんだ」


実は手に見惚れていたなどとは言えないので、慌てて言い繕った答えが的を射ていたらしい。お褒めの言葉いただきましたー!


「綻びが起きる原因は、『陰の気』と『陽の気』の均衡が極端に崩れた時に起こりやすいことが分かっているんだ。この年輪一つ一つの世界が、それぞれ陰の気、陽の気の均衡を保つことで安定している」

「陰の気と陽の気…陰陽道(おんみょうどう)的な感じですか?」

「陰陽道も知っているのか。なかなか博識だね」


ただのオタクの嗜みです。


「おそらく鈴華は、君の元いた世界から()()()()綻びの穴に落ちてしまったと考えられる。過去にもそういった事例はあるからね」


なるほど次元トンネル的なものですな。異次元への入口としてはポピュラーですよね!


「止水と出会った際、(あやかし)に囲まれていたのは覚えているかな?」

「はい…あの、うじゃうじゃいた妖怪のことですよね」

「ヨウカイ?」


思わず呟いた言葉に、帯刀さんが反応する。そして私の目の前に紙と筆を差し出す。聞き慣れない単語なので字を知りたいらしい。こっちでは「アヤカシ」で妖怪とは言わないのか。私は「妖怪」と書いて渡した。


「ほう…『アヤシ』を重ねるのか。言い得て妙だな」


帯刀さんの話では、この世界はとても綻びの起こりやすい場所らしい。その綻びから、どうやら隣接している世界に棲息しているモノ、妖がよくこちらに流れ込んで来るという。

基本的に人が通過出来るようなサイズのものは滅多にないので、人があちらの世界に行くことは殆どないそう。けれど妖はこちらの質量法則とは違うようで、小さな綻びでも簡単に通過するのだという。


「妖は陰の気のみで出来ているらしくてね。こちらの生物の持つ陽の気に引き寄せられる性質があるとされている。知性を持つモノもいるが野生の獣と変わらない固体が多く、それらは本能の赴くまま陽の気を捕食対象としか見ていない」


ひょえ。じゃあ私は危うく食べられるところだったのか。もしかしてあの牛車はお弁当箱か何かか。


「そういう勝手に入り込んで来た妖どもを、強制的に向こうに送り返すのが俺達の役目なんだよ」


止水さん、刀構えてドヤ顔ですね。ええ、イケメンですけど。

言われてみれば、確か初めて会った時に「不法侵入」とか何とか言ってましたね。


「我々は妖に対処出来る特殊な能力があるのでね。お上から命を受けた『妖取り締まり担当』と言ったところかな」

「帯刀の旦那〜もうちょっと粋な呼び名はないんですか〜」

「止水が好きに付ければいいだろう」

「え?いいんですか!えーと、ええと…『大江戸捜査隠密』!」

「イヤ」


…つばきさん、音速で却下ですか。止水さん凹んでますよ。ええ、そりゃもうベッコリと。



☆★☆



今から167年前。

妖の棲む世界から王の使者と名乗る者がやって来て、その時初めて人類は「異世界」の実在を知った。


それ以前から、どこからともなくやって来る妖の被害に頭を悩ませていたこの世界の各国の長に当たる者達は、その使者と条約を結んだ。


数々の条約の中に、妖は厳しい審査を通過し人と契約を交わし使役されることを条件としなければ、こちらの世界に滞在することを禁ずるものがあった。その手続きを踏まえずに勝手に綻びから流れ出た妖は、強制退去処分としてよい、というもの。

逆に人があちらの世界に行ってしまった場合は、不可抗力として丁重にこちらに戻されることになっている。


「随分と扱いが違うんですね」

「そもそも妖とこちらの生き物では『生きている』ことの常識が違っていてね」


何でも、妖はこちらに来る際にかりそめの実体?のようなものを作るらしい。それがないと、あちらの世界に強制的に引っ張られてしまうそうなのだ。なので、勝手にこちらに来た妖は容赦なく斬り捨てても問題ないらしい。


「俺が切って回った奴らも別に死んだ訳じゃないからな」


まあ血まみれでしたけどね。どう見ても殺人現場(遺体回収後)でしたけどね。

でも、あれだけ血まみれ(に見えるけど、実際は血じゃないらしい)だったにも関わらず、死体らしきモノが一つもなかった理由が分かった。


「それで、そういう流れて来る妖を追い払うのは、生まれつき陽の気が多くて、妖と契約を結べる者だけが出来ることなの」

「それが特殊な能力…ですか」

「そうよ。見て」


そう言ってつばきさんが右手を私の目の前に翳した。


ゆらりと透明な陽炎のようなものが手に絡み付いたと思ったら、フワリと細長いモフモフした生き物が出現した。


かかかかか可愛いいいいい!


フェレットみたいに細長いけど、もっと毛深い。その為、目は隠れて見えなかったけど、小さな鼻がヒクヒク呼吸している。毛並みは薄いグレーで、額の付近に炎のような赤い模様がついている。そしてそれが3匹もいる!


「かまいたち…?」

「あら、鈴華のところにもいたの?」


叩き込まれマンガ知識を総動員して予想を付けてみたのだが、どうやら当たりだったようだ。つばきさんはびっくりしたように目を瞬かせた。


「あ、あの、実際は見たことありませんけど…書物で…そうなのかなあって」

「そうよ。このコが私と契約しているかまいたち。契約している妖は、必ず目立つところにこういった紋があるのよ」

「触っても大丈夫ですか?」


かまいたちと言えば三位一体、3匹が基本ですもんね!

ああ…なんという魅惑のモフモフ。頼む、触れると言ってくれ。


『構ワぬ』

「喋った!」

「少しなら話せるわ。性格も穏やかだから危険はなくてよ。あ、でも尻尾を強く握ると鎌が出るから気を付けてね」


つばきさんの手から、3匹のかまいたちが移動して来て私に一斉に絡み付く。彼らは好奇心が強いのか、頭や顔の周りをフンフンとかぎ回っている。完全に私が構われている。予想以上に柔らかな毛並みが首をサワサワ、ほんのり湿った鼻が冷たく頬を突つくように触れる。何という至福。


「おおい、鈴華。鼻の下伸びてるぞ」


止水さんが呆れたように言って来るけど、これほどの至福。いくらでも伸ばしますとも。


「やっと笑ったね」


そんな帯刀さんの声が聞こえて、そちらに顔を向けると穏やかな笑顔で私を見ていた。

その笑顔が余りにも絵になるので、きっとこれはイベントスチルか何かに使われるに違いない、と根拠不明に確信していた。



説明回はあと1回で終わる…はず…です。

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