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閑話・思惑

閑話は第三者視点で進める予定です。




中庭に面した座敷の一角で、百済帯刀、藤波止水、つばきの三人が眉間に皺を寄せながら顔を突き合わせていた。


「だから、隠形(おんぎょう)の巫女なんじゃねぇの?すっげぇ田舎の山奥にいたとかで今まで見つけられなかったとかさ」

「それはありえないってあんたも知ってるでしょう?隠形の巫女は生まれた瞬間からお(かみ)に存在を認識されるんだから」


面倒くさそうに言う止水に、つばきがピシャリと言い返す。止水は「そりゃそうだけどよ…」と反論を口の中でブツクサ呟いたが、つばきにジロリと睨まれ口を噤んだ。


三人の話題は、魑魅魍魎が率いた牛車の中にいた少女、神戸鈴華のことだった。


この世界は、黒髪、黒い瞳を持つ人間は非常に少ない。そして両方を兼ね備えた者は例外なく特殊な能力を有している。更に、該当する者はほぼ女性で、どんな身分の生まれであっても「隠形の巫女」になることが義務付けられていた。そして全員が国に保護され、管理下に置かれている。


「私が知る巫女の中にはスズカの顔はありませんね」

「帯刀の旦那まで…」

「おや?私の記憶力を疑うのかな?」

「そうじゃねぇですけど…」


帯刀は恐ろしい程の記憶力の持ち主だ。それをよく知っている止水は疑っているつもりはないのだが、どうにも納得が行かない様子で頭を掻きむしった。ただでさえ癖の強い彼の髪が掻き回されて鳥の巣状態になった。


「そうなんだけどさあ、あいつ、俺らでも探れない程『気』を隠せる訳だろ。だったらお上だって見落とすこともあるんじゃねぇのか?」

「確かにそうだけど…」


つばきはじっと自分の手を見下ろした。


ここに集っている人間は「気」を感知することに長けている。気を失っている鈴華を見つけて、どこか怪我を負っているか確認しようと気を探ってみたのだが、全く分からなかったのだ。それはつばきだけでなく、帯刀、止水も同様だった。


「あの様子だと、()()()()から来た風でもねぇよなあ…」


止水は懐から煙管を取り出すと、長い指でクルクルと器用に回した。


「まあ、お上もこの世の監視しかしてないからね。あっちでもなさそうだということは、()()()()()()()から来た…ってとこかな」

「それ以外の場所?帯刀の旦那、心当たりが?」


のんびりと茶を啜りながら呟く帯刀に、止水が詰め寄る。帯刀はそれを宥めながら、湯呑みの茶を全部飲み干してゆっくりと息を吐く。


「城の書物庫でね。記録にあるだけでは四名の記載があったよ。と言っても記録されてないだけで、実際はもう少し多いだろうな。皆言葉が通じず、記録も曖昧なところが多いので資料と言うには程遠い御伽噺や伝奇程度のものだったけどね」

「あの書物庫…全部読んだのかよ」

「まだ全部は読めていないよ。つい近年のは知ってるだけに後回しになっているからね。まあ今年中には読めそうだが」

「お、おう…」


城の書物庫は、開闢以来の記録が保管されていて、膨大な量の記録や書物が積み上げられている。止水は一度だけ覗いたことがあったが、見ただけで頭が痛くなってそのまま退散したのを思い出し、その大半に目を通しているという帯刀に思わず顔を引きつらせた。


「まあ一応言葉は通じるようだし、素直そうなお嬢さんだ。どうとでもなるだろうさ」

「どうとでも…って」

「止めて頂戴、物騒な顔するの」


帯刀の穏やかな微笑みの奥にちらりと黒い影がよぎったのを見て、止水とつばきが剣呑な視線を向ける。しかし帯刀は全く気に留めていないように、いつもと変わらない笑みのまま、空になった湯呑みに手ずから茶を注いだ。


「そろそろ上がる頃じゃないかな。彩椿尼、様子を見て来てくれないかな」

「そうね」


つばきは立ち上がると、湯殿の方へ消えて行った。



なかなかほのぼのしてくれません…

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