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四・流行りものには縁がないと思ってました

2話同時投稿なのでちょっと短めです。


抱きかかえられたまま運ばれて、大きな山門のお寺に到着した。

結構な距離があったと思うんだけど、運んでくれた百済さんは全く疲れた様子はなかったし、一度も抱え直したりすることはおろか、支えている腕が下がって来ることすらなかった。そりゃ肉付きはあんまりよくない方だけどさ。それでも人一人だよ。全然マッチョには見えないのに、どんだけ鍛えてるんだ。


「こちらが湯殿です。何かありましたらこのツツジに聞いてくださいね」

「ありがとう…ございます」


大きなお風呂場に連れて来られたところでようやく降ろされた。そこで待っていたらしい女の子に引き継がれると、三人は「また後で」と言い残すとどこかへ行ってしまった。


ツツジと紹介された女の子は小学生くらいだろうか。おかっぱに切り揃えられたつやつやの髪の色は暗いオレンジ色だ。これくらいなら茶髪の範疇に見えなくもない。けれど、瞳の色は見慣れないピンク色。なまじ美少女なだけに、ぱっちりとした大きな瞳が作り物に見えてしまって、少し怖さを覚えてしまった。


「後で着替えをお持ちしますので、脱いだ着物はこちらのカゴに入れてください」

「はい…どうも…」


自分よりも幼い子供にてきぱきと入浴の支度を整えてもらって、何だか落ち着かない。でも、この血まみれな状態でウロウロしては周囲を汚してしまう。ここは大人しくしておきます。


「こちらの戸の傍に控えていますので、何かあったら声を掛けてくださいませ」


そう言って、ツツジちゃんはぺこりと頭を下げると扉を閉じた。




☆★☆



やっと一人になった私は、さっさと制服を脱ぐことにした。水とは違った粘り気のある液体が纏わりついて気持ちが悪かったのだ。あらためて眺めると、下着まで染みて全身真っ赤だった。おぉう…我ながらグロい。

さっき肩に掛けてくれた百済さんの羽織の裏も、べったりと赤く染みになっている。弁償モノかな。いや、でも向こうから掛けてくれたから…せめてクリーニング代くらいは出すべきだろうか。


取りあえず、今そのことで悩んでいても仕方ない。


私は羽織も準備してくれたカゴに入れた。せめてこれ以上汚れないように、制服に重ねないよう縁に掛けることにした。


制服を脱いだ際にふと気になったので、おそるおそる赤く染まっている自分の手を鼻に近づけた。


「?無臭…?」


血だと思っていたけど、あの血液特有の錆びたような生臭いような匂いがしなかった。作り物の血糊か何かだろうか。

それだったら、撮影かなにかに巻き込まれ…る理由がない。それに、周辺にカメラやスタッフらしき人影は見えなかった。ドッキリを仕掛けるにしろ、こんなどこにでもいる一般人に仕掛けるメリットが分からない。


いくら考えても自分では答えは見つかりそうにない。百済さん達に聞いた方が絶対早い。私はひとまず考えることを放棄して、備え付けてあった手拭いとあまり泡立ちのよくない石鹸を使って、とにかく全身を無心で洗った。


せっせと手桶で湯船からお湯を汲み出し、三回全身を洗って、やっとお湯をかぶっても足元から赤いものが流れなくなった。でも石鹸で髪を洗うもんじゃないな。もうギシギシだよ。


これでお湯を汚す心配がなくなったので、ようやく広い湯船に身を浸す。


ああ…いい香り…檜かな。


少しぬるめのお湯が手足に染み渡る。

あらためて、自分が訳の分からない状況に巻き込まれてガチガチに気を張っていたことに気付いた。


運ばれて来る途中で見た景色は、白壁がずっと続く広い通りだった。背の高い白壁の向こうに、黒い瓦葺きの屋根がチラチラ見えていた。多分あれは平屋の日本家屋。一応地ならしはされているみたいだったけど、舗装されていない土の道で、見渡す限り電柱は確認出来なかった。


何て言うか…どこかで見たような…江戸村?いや、京都なら太秦?


時代劇で見たセットのような建物だった。でも、規模やリアルさはセットとは違う。あれは間違いなく()()だ。


これって…SFとかファンタジーにありがちなタイムスリップ…みたいな?

あれ?でもあんな髪色とか目の色ってヘンだよね…


百済さんは緑の髪に茶色の目。藤波さんはちゃんと見たら紺色の髪に薄い青の目だった。そんでつばきさんは……


一瞬、頭の中で何かが閃いた。


つばきさんって…つばき…お姉ちゃんの推しキャラのつばき様…?


実際にプレイしてないけど、人気ゲームなだけにスチルや二次創作ファンアートをSNS上で何度も目にしている。先程会った三人は確かパッケージに描かれていたメインキャラクターだったはず。二次元の美麗イラストと、実在のリアル人物との差はあるにしろ、雰囲気や色合いで考えるとおそらく間違いないと思う。


これは…もしかして異世界転移とかいうやつなのでは…


思わずクラリとして湯船の縁に慌てて縋り付いたのは、決してのぼせたからではなかった。


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