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三・謎が謎を呼び謎が増えて行く

ストックがあるうちは、毎日0時に更新予定です。

(ただしストックはそんなにありませぬ…)


「この馬鹿!いつも言ってるでしょ!馬鹿じゃなくて馬か?馬の耳か?」

「痛たたたたたたっ!すんません!すんませんって!!」

「これじゃ無事かどうか分からないねぇ」


誰かの言い争ってる声が聞こえる。うるさいな。


「あ、気が付いた。大丈夫?どこか痛いとことかない?」


目を開けると、どどーーんと見事な双丘…何と言うことでしょう。

その丘の…いや、山脈の向こうから、美女がこちらを覗き込んでいる。あれ?私死んだのかな?ここ天国かな?いや、この美女はどちらかというと魔性系…じゃあ地獄?


訳が分からずぼんやりとその美女を見上げ、ようやく自分がその人に膝枕をされていたことに気付いた。後頭部の弾力のある感触と、包み込まれる甘い香り。やはりここは極楽か。


「頭とか打ってない?」


あまりにも反応がない私に不安になったのか、美女は顔を覗き込むように前屈みになって来た。おおふ…立派な山脈巨乳が顔に!顔に!


ふわりと顔を柔らかい布で拭われる。


「あの…ありがとう、ございます」


何となくこの美女は悪い人じゃない、と思った私が返事をすると、明らかにホッとした表情になった。うむ、美女は何をしても美しい。

ようやく余裕が出て来たのか、その美女をじっくりと眺める。まずぽってりとした厚めの唇が目を惹く。口紅とか塗ってなさそうなのに艶があって、はっきり言ってエロい。そして赤というか紫に近い色の髪をキッチリと結い上げていて、心配げにこちらを見る潤んだ瞳は金色だ。何だろう、この現実には有り得ない色の取り合わせは。


「ええと…ここ、は?」


私が起き上がる素振りを見せると、美女が背中に手を当てて起こしてくれる。至れり尽くせりありがとうございます。


起き上がってすぐに、少し離れたところに半壊した箱のようなものが目に入った。箱というか、牛車?

本の中でしか見たことないけど。その車輪が片方が完全に外れている為、斜めになっていた。もしかしたらさっきあれに入ってたんだろうか。

そして牛車よりも強烈なインパクトだったのは、その周囲が凄惨な殺人現場みたいに真っ赤に染まっていたことだった。あちこちに飛び散っているだけでなく、牛車の縁からポタポタと赤い液体が滴って地面に血溜まりを作っていた。ただ、その血の量に反して死体らしきものは全く見当たらなかった。もし周辺が出血量に見合った死屍累々だったら確実にトラウマになっていただろう。


「あなたは怪我はないわね?」

「あ、はい…多分…?」


再度言われて自分で確認しようと体を見下ろす。


なんじゃこりゃあぁぁぁぁ!


そう叫ばなかっただけ偉いと思う。


見下ろした自分の手は、さっき目をやった牛車と同様、真っ赤でドロドロしたものに染まっていた。手だけじゃない。制服が黒いので分かりにくいけど、多分全身血みどろだ。見かけたら即お巡りさんへ通報案件だ。


「じゃ、移動しても大丈夫だな」


また知らない人の声が加わる。柔らかな口調の男の人の声。

顔を上げると、優しそうな笑顔の男の人が私の傍らに膝を付いていた。地味目な和顔だけど整った顔をしている。よく見ればその魅力が伝わる後からイケメンだ。しかしこの人も、濃い緑の髪に色が辛うじてついている薄い茶色の瞳という見慣れない色合いだった。さっき会った笑顔が無邪気な辻斬りがモジャモジャだとすると、この人の髪質はフワフワだ。

そしてこの人の着ている服も着物だ。しかもよく時代劇なんかで見る、同心の装いだ。


え?ひょっとして私、タイムスリップとかした?

同心って確か警察官みたいな人…だよね…。

私、逮捕とかされちゃうの?


全く身に覚えはないけど、あからさまに怪しい血みどろ女子だ。もしかしたらここに倒れていたのを誰かに通報されたのだろうか。


戸惑っている私に、その人は羽織を脱いでふわりと掛けてくれた。そしてその羽織ごと私をヒョイと横抱きに持ち上げた。人生初のお姫様抱っこというやつだ。


「ふぁっ!ちょちょちょ…」

「どこか痛いところはないかな?」


焦る私に、その人は先程と全く変わらぬ様子で訊いて来る。


「ダイジョブ、デス」

「それは良かった」


顔の近さに思わず片言になって固まる私に、その人は更に笑ってスタスタと歩き出した。その動きは全く重力を感じさせない程軽々としている。


「名前を聞いてもいいかな。あ、私は百済帯刀(くだらたてわき)と言う」

「神戸、鈴華、デス」

「スズカ…うん、良く似合う名前だね」

「アリガト、ゴザイマス」


この状況、どうしたらいいんだろう。




☆★☆




「あたしは彩椿尼(さいしゅんに)赤華寺(しゃっかじ)の、見ての通り尼よ。『つばき』って呼ぶ人もいるから、好きに呼んでね、スズカちゃん」


さっき私を膝枕してくれていた美女がそう名乗った。


先程のエロ美女が尼さんですと!?けしからん!けしからんですぞ!!


…いかん、興奮し過ぎた。


その…つばきさんは、確かによく見れば袈裟のようなデザインの着物を着ていた。でも、あきらかにそのたゆんたゆんしたお胸が合わせ目を押し広げてますよね?そして帯はノータオルですよね?むしろそこまでくびれていたらほぼコルセットみたいなもんですよね?

出ているところは自己主張激しく、引っ込むところは清々しい程全力で。すらりとした長身で、ちらりと覗く長い手足は女性らしく華奢でたおやか。同じ人類かな。

こんな美女が尼さんとは、何て勿体無い…いや、マニア的には歓迎なのか…?


「スズカちゃん?」

「あ、いえ」


急に黙り込んだ私の顔を、つばきさんは心配げに覗き込む。すみません、顔よりも谷間に先に目が行きました。ありがとうございます。


「俺は藤波止水(ふじなみしすい)だ。さっきは悪かったな」

「わあ!」


いきなり視界に、私と同様頭から血を浴びたような風体の男の人が入り込んで、思わず声を上げた。

よく見てみれば、先程私を牛車の中から引っ張り出して振り回した辻斬りじゃないか。


「止水、あんたの顔じゃスズカちゃんが怖がるでしょ。普段の顔でもアレなんだから。さっさと清めなさい」

「アレってなんだよ、アレって!」

「大きな声出さない!あんたの声はただでさえ圧が強いんだから!」


つばきさんと…藤波、さん?は何故か私のすぐ脇で言い合いを始めた。この人達は…仲間?なの?

頭に大量の疑問符を浮かべるしかない私に、百済さんは「やれやれ」と軽く溜息をついてから、また私に向かって柔らかな笑みを向けた。


「沢山聞きたいこともあるでしょうね。私達もスズカのことを色々聞きたいのです。でもまずは、その身を清めてからにしましょうか」

「は…はい…」


確かに血みどろのままの尋問は嫌だ。


「これから彩椿尼の赤華寺に向かいます。湯を用意するように先触れは飛ばしてありますから、しばし辛抱してくださいね」

「何からなにまで…」

「ぶわっ!冷てっ!」


突然、藤波さんの大声が響いたと思ったら、彼がずぶ濡れになっていた。頭から水を滴らせ、着物も肌に貼り付いて重そうになっている。ちょっと待って。どっから出した、その大量の水。



日本語は通じるし、着ているものも着物。名前も日本人ぽい。でも、現実では有り得ないような髪色と瞳の色。さっきまで入っていた牛車の中から見た魑魅魍魎は何?そもそも此処はどこ?


つばきさん…つばき…はて?どこかで聞いたような…?


私は、そっと自分の腕をつねって痛いと感じながらも、これが夢なら早く醒めないかなあ…と往生際も悪く、そんなことを考えていたのだった。




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