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六・地下での秘密報告会


「最初は帯刀のヤツが『貴女と鈴華を会わせたら厄介なことになります』とかなんとか言うてな。妾は構わんと言っておったのだがヤツも頑固で」

「あまり深入りさせたくなかったのでございますよ、庵主さま。彼女は元いた世界に帰る身なのですから、その障害になるようなことは少しでも避けようと」

「そんなモノ、妾が全部燃やし尽くして心置きなく帰還出来るように取り計らうと言うたではないか」


何か、ものすごく不穏な発言を耳にした気が。うん、気のせい。気のせいですね。


このお姫様、くれない様はこの赤華寺だけでなく、大江戸内にある主要の尼寺四カ所と、大岩養生所の最高責任者を兼任しているそうだ。養生所というのは私の世界で言うところの総合病院で、大岩養生所というのは幕府直轄の養生所の中でも最大の施設らしい。すごい権力の集中だ。さすが将軍の妹姫。


そしてその全ての場所の地下にここのような部屋を作っているらしい。何の為かと言うと…


「そろそろ自己紹介は終わりましたか?」


私が来た入口とは違う方向から帯刀さんが入って来た。壁にしか見えなかったけど、そこにも入口があったんですね。そしてその後ろから、止水さんと夕顔さんも続いて来る。


「皆さん、ここには入っても大丈夫なんですか?」

「一応庵主さまには信頼されてるからね。もっとも、止水と夕顔はここに彩椿尼が同席していないと入れないようになっているが」


年若いお姫様と男性が密室で二人きりにならないように予防線がしっかり張られているらしい。


「そういうのが面倒で妾は出家したのじゃぞ。気遣いは無用と言うに」

「上様のお心も察してください」

「それが面倒なんじゃ」


帯刀さんに諌められて、くれない様はプウッと頬を膨らませた。大人っぽい顔立ちの美女がそういう子供っぽさを見せる破壊力たるや。とは言え、ここの男性陣にはあまり効果がないようだ。解せぬ。


「で、赤華寺(ここ)に侵入した賊の逃げ込み先は割れたのであろう?」

「西の九間堀(きゅうけんぼり)中央通の『錦乃屋(にしきのや)』でした」


ここは「裏江戸」の中でも特に能力に優れた者達を集めてチームにして、その仕事の方針や作戦を立てる為の場、言わば会議室のようなものだった。

この赤華寺の地下に集うのは、帯刀さん率いる、つばきさん、止水さん、夕顔さんの四人。他の場所にも大体五人前後のチームがいて、その統括の頭をくれない様が行っているらしい。全部で五カ所だから、二十人ちょっとくらい。この大江戸だけで「裏江戸」に所属している人が二百人程いるらしいので、結構な精鋭だ。そう考えると、私はすごい人達に守られてるんだな。


「老舗の呉服問屋じゃな。そんな大店だからこそ妖を率いる者を懐に入れていてもおかしゅうないな…」

「あの店には、隠形の巫女見習いの娘がおります。家が裕福であるため、巫女修行でどこかへ預けることはしていないようです」

「妖を飼っておく隠れ蓑には持って来いか」


ふうん、とくれない様は軽く顎に手を当てて思案顔になる。


「妖を引き連れた女はその錦乃屋の離れに消えました。離れの中の様子が探れないので、巫女見習いはそこにいるのでしょう。それと、離れは一見しては分からないように地下座敷があります。気配の探知は出来ませんが、()()居ますね」


帯刀さんに替わって夕顔さんが報告をする。いつもはゆるいフワフワした喋り方なのに、今は別人のようだ。表情だって、普段の柔らかな印象から凛々しいものへと変化していた。仕事モードというやつだろうか。どっちが本来の夕顔さんなんだろう。兼業の役者姿もどんなものかちょっと興味がわいた。


「その根拠は」

「食事です」


昨日の夜からずっと見張らせているらしいのだけど、母屋から幾つもの膳に乗せられた豪勢な食事と、質素な食事が二膳、離れに運び込まれたらしい。


「豪華な膳の方は、全て違う料理が乗せられていました。ですからそれで一人前でしょう。逃げ込んだ賊の女、巫女見習い、そしてもう一人。少なくとも離れに三人はおります」


食事と共に店の主人も入って行ったが、すぐに出て来たので中で食事をしていたわけではないと言う。膳を下げたり、見張りに立ったりする者は数人いるが、中に常にいるのは三人で間違いないと夕顔さんは言っていた。


「一人は客人。それも随分重要な人物…そう、たとえばどこぞの()()、とかの」


くれない様はそう言って、ゾクリとするような妖艶な笑みを浮かべた。




☆★☆




この大江戸幕府の組織の中に、奉行所というのがあって、町奉行所、寺社奉行所、勘定奉行所の三つがあるそうだ。何か時代劇で聞いたことがある気がする。町奉行所ってのは確か遠山の(ホニャララ)さんとやらがやってたアレですね。市井を守ったり取り締まったりするのが町奉行。通称「表江戸」で、帯刀さんはそこに務めている。

そして対妖専門の「裏江戸」は寺社奉行所の管轄下なのだとか。妖の存在が実在すると確認される以前から、妖絡みの怪異のお祓いとかは神社とかお寺とかで行って来た名残らしい。もっともそれは表向きであって、実質のトップは将軍家であり現将軍の妹にあたるくれない様が取り仕切っているのは暗黙の了解なのだとか。何か、妖との契約とか流入して来た際の対処とか、色々と権力絡みの難しいしがらみがあるんだって。因みに私も任命されている隠形の巫女は、一応独立した組織?らしい。「裏江戸」と繋がり深い割りにそういう扱いなのも難しいしがらみ以下略。


「サクラは妾と間違われて勾引されたんじゃろうな」

「おそらくそうかと。ただ、それにしては赤華寺(ここ)に何の要求もして来ないのは分かりませんね」


この赤華寺にいる尼見習いのサクラちゃんとツツジちゃんは、なんとこのくれない様の影武者なのだと言う。全然タイプが違うのに…と不思議に思ったけど、何でもくれない様は人前に出る時は殆ど御簾の中で、相手からすれば「何となく赤っぽい小柄な女性」くらいの認識しかないらしい。この国にはまだカメラもネットも普及してないからね。直接顔を見られない身分の高い人の外見は、噂レベルの情報しか伝わって来ないのだ。

それで、くれない様が最高責任者をしている尼寺に「何となく赤っぽい小柄な女性」を置いておくことで、誘拐やら暗殺やらを狙う相手を攪乱しているのだとか。顔を知られてないならあまり似ている必要もないのか。それで、初めて顔を見た時に少しサクラちゃんのイメージと被ったのかが判明した。


「それに関しては少々気になる情報がありました。更にあの襲撃があったことでほぼ確定出来たかと」


考え込むくれない様とつばきさんに、帯刀さんが言葉を挟む。


「話してみよ」

「赤華寺で預かっている隠形の巫女の人となりについて、随分と聞いて回っていた者がいた、と」


え?私ですか?




よく時代劇に出て来る「小石川養生所」をちょっと大きくして「大岩養生所」(笑)

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