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三・優秀だけど残念美形


「気の均衡が崩れと綻びを察知することに特化した能力者がいる話もしたかな?」

「詳しいお話はまだでしたけど、そういう方がいるというのは」


「裏江戸」と呼ばれる、妖専門に取り締まる人達には様々な能力があって、それによって役割が決まっているらしい。その中でも止水さんは戦闘特化、つばきさんは戦闘もこなせるけど主に補助と治癒を担当しているそうだ。帯刀さんは何担当ですか?と訊いたら、「その内に追々ね」とうやむやにされた。イメージだと参謀な感じなんだけど。

その能力の中で感知に長けている者が、綻びの発生とそこから流入して来た妖の索敵なんかをしたりしている。人間レーダーか。だいたい綻びと妖流入はワンセットなので、発見したら担当地区の当番戦闘要員に通報が行く。そうやって被害の拡大を日々防いでいるのだ。国境警備隊みたいと思えばいいのかな。

私がこの世界に来てしまった時も、そうやって通報を受けた止水さんが駆け付けたのだ。


「妖は大半が知能低く単独で行動するが、中には知性を持っている固体もいる。陽の気に惹かれてこちらに来たいが陰の気で察知される。だから己の気をどうにかして隠したい」

「…ひょっとして隠形の巫女は妖の気も調整出来るんですか?」

「ご明察」


共にいれば気配を察知されないので、こちらの世界を自由に闊歩出来る。妖にしてみれば、陽の気食べ放題だ。


「そういった理由で、隠形の巫女は妖に狙われやすい。だから綻びを修正する為に現場に赴くのはそれだけ危険が伴う」


そりゃ、妖の出て来る穴を塞ぎに行く訳ですもんね。嫌でも近寄らないとお仕事になりませんしね。

遠隔操作が出来ればいいのだろうけど、どんなに優秀な巫女でも、目視出来ない場所からの調整は不可能なのだそうだ。


「勿論、貴重な能力者である巫女に万一のことがないように、充分な警護は付けさせてもらうよ。ただ…」


そこまで言って、一瞬帯刀さんが言い淀んだ。少し困ったような顔になっている。


「ただ?」

「妖は妖だから判別しやすい。問題は、人間が絡んだ方だね」

「人間が絡む?」


妖は、明らかにこちらの生き物とは違う姿をしていることが多い。なので、帯刀さんが言うには、問答無用で退治してあちらへ送ってしまえばいい。が、その妖の力を悪用しようとする人間が絡むと厄介なのだと。


「人間の欲望の為に利用される妖もいるし、知性の高い妖が人間と手を結ぶ場合もある。だから人間に巫女を攫う目的で近寄られると困る訳だ」

「それは…大分厄介ですね」

「まあ、それを見定めるのは『表』の役目で、『裏』は妖を排除する為だけに動けばいいからね。鈴華は要請のあった場所に行ってくれればいい」


難しいことは考えなくて良さそうだ。

私は、正直ホッとしていた。何せそういう陰謀的なものとは全く無縁だった一般市民だ。悪い人の思惑とかには巻き込まれたくはない。それにいつになるかは分からないけれど、元いた世界に帰る身だ。この世界を掻き回すようなポジションからは離れておきたいし。何の因果かそこそこの能力を持ってはいるようだけど、なるべく穏便な生活を希望します。


「あ、そういえば『巫女』って言ってますけど、黒髪黒目は女性だけなんですか?」

「男もいない訳じゃないよ。ただ、圧倒的に数が少なくて、生まれつき虚弱体質な上に短命でね」


妖と異世界の存在が判明して、通称「裏江戸」が組織されて152年が経つそうだけど、そこから記録されている黒髪、黒目の男性は5人しかいないそうだ。内4人は十歳を迎える前に亡くなり、現在存命している1人は成人を越えてはいるが、生まれてこの方屋敷から出たことがない程の病弱なのだそう。その人も、いつ亡くなってもおかしくない為、お屋敷の離れにお寺が作られているとか…って酷くない?え、そこは病院とか建てましょうよ。

女性の巫女は、現役が全国に38人。十歳から巫女業に就くそうで、見習いが3人いるらしい。最高齢は御年83歳。なるほど。


確率的には三毛猫みたいな感じですかね?黒いけど。




☆★☆




帯刀さんに話を聞いた三日後、私の元に正式に幕府から隠形の巫女としての任が下される書状が届いた。

当分は見習いとしての修行?みたいなのをしつつ、このお寺を拠点に綻びの出た場所に赴いてその場の気を調整するという生活になるそうだ。呼び出しがかからなければ、基本的に今とあまり変わりはない。この辺の便宜は帯刀さんが色々根回ししてくれた、とつばきさんがこそっと教えてくれた。何から何までお手数おかけします…。


そしてその書状とともに、帯刀さんが見知らぬ男性を伴ってやって来た。


「初めましてー鈴華ちゃん。ってか、オレは初めましてじゃないんだけどねー」


誰ですか、この軽そうな御仁は。


「夕顔、鈴華が驚いてるからちゃんと順を追うように」

「はーい。鈴華ちゃん、オレ夕顔。君の護衛兼担当索敵。よっろしくー」


物凄い美形が私に手を振っている。その口調はやたらチャラい。大変残念の気配がするぞ…。


ん?夕顔……って、お姉ちゃんの推しその2か!


「鈴華がこちらに来た翌日から護衛に就かせていたからね。こう見えても優秀な部下だよ」

「こう見えても優秀でーす」


夕顔さんは、男性であることは間違いないんだけど、物凄く綺麗な顔をしている。イケメンっていうより美形って言った方が似合う。白…いや銀色の髪はサラサラの直毛で、艶がハンパない。無造作に後ろで括っているけれど、そのほつれすら計算ずくのように気怠気な美しさを演出している。そして緑色の目は切れ長で、髪と同じ色の長い睫毛が影を落としている。抜けるように白い肌は肌理細かく、うっすらと血色の透ける頬はバラ色と言ってもいい。

三次元なのに、この二次元感はどういうことだ。


しかしその口調はどこまでもチャラく、気の抜けたような緊迫感ゼロの声だ。はい、大変残念美形です。


「どうも…ヨロシクオネガイシマス」

「どうもー」


ニコニコと笑いながら夕顔さんが手を差し伸べて来たので、反射的に握手を交わす。…ええと、いつまで握手してればいいんですか?


「鈴華ちゃんが困ってるから。さっさと手を離しなさい」

「ほーい」


つばきさんが、いつまでも私の手を握り続けている夕顔さんの手をパシリとたたき落とした。結構いい音がしたけれど、夕顔さんはどこ吹く風だ。あまりにも平気そうなので、一瞬寧ろご褒美な方向の人かと邪推した。


「オレはこの辺りの地区の綻びとか、妖の侵入とかあったらすぐ分かるから、姐さんとか止水とかに連絡すんの。で、これからは鈴華ちゃんにも連絡入れるからねー。ついでに、鈴華ちゃんに近付く悪いヤツがいないか見張ってて、いたらすぐにこの()()()()に通報するから」


夕顔さんはそう言いながら、帯刀さんの肩をポンポン叩いた。お願いです、反応に困るようなことを言い出さないでください。


「そこまで年齢は離れていない筈だが?」

「いやぁ、心意気がお父さんでしょー。あ、それともお兄さんの方がいいとか」

「それも遠慮する」


すごい即答ですね。まあ確かに、こんな異世界からの地味女じゃ帯刀さんレベルの妹は務まりませんよね…


「帯刀様の妹君、すごいキツい方なのよ…」


つばきさんが小さく耳打ちしてくれた。フォローありがとうございます…というか、そんなに分かりやすい程気落ちしてたのかな。いかん、感情ダダ漏れはマズい。

そう反省しつつ、心の隅で「帯刀さんには妹さんがいらしゃるー!」と喜々としてメモしている自分もいた。

みんな自分の家族のこととか全然話さないからな。私に遠慮しているのと、何となく聞いてはいけないような雰囲気と半々って空気なのだ。知りたい気持ちはあるけど、無理に聞き出すようなことはしたくない。こうやって少しずつ、自然に分かって行く方がいい。


「だいじょーぶ、だいじょーぶ。オレ、ちゃんと鈴華ちゃん察知出来てるから」


帯刀さんを疑う訳ではないけれど、こんなにフワフワした人で大丈夫なのだろうか。

そんな不安が顔に出ていたのか、緩い口調で夕顔さんがドヤ顔を向けて来た。


「相変わらず能力だけは優秀ねえ」

「姐さんひどくない?オレ、どこでも使える男だよー」

「はいはい、アンタが器用なのは認める」


「まあ不安に見えるだろうが、鈴華を察知出来る能力は大したものなんだよ」


帯刀さん、それ、フォローになってる気がしません…


全く自覚はないけれど、私は異世界から来たこともあってか気のバランスが完璧すぎて、殆ど気配を察知出来ないのだそうだ。つばきさんも人手が足りない時は索敵に回るくらいには気配を読めるそうなのだが、私に関しては姿が見えてないと寺の中のどこにいるのか分からないのだとか。

異世界に来たら能力チートが発生するのは割とお約束だけど、既存のステルス機能がアップしたのか。あんまり嬉しくない。


夕顔さんは、このお寺の敷地くらいだったら私の大体の位置は掴めるらしい。大体かよ…と思ったけど、それが凄いことのように説明されてしまって複雑な気分になる。


やっぱり私、忍者とかにジョブチェンジした方が良くないですかね?



やっとレギュラー予定の人物が出せました。

そして止水さんを牛乳取りに行かせたままになってました…

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