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一・TKGはフリースタイルでいただきましょう


この国は、「葦原日ノ国(あしはらひのくに)」という。首都は大江戸と呼ばれ、大江戸城にはこの国の実質的なトップの将軍がいて、幕政を敷いている。


この世界は、非常に異世界との境界に綻びが出来やすく、隣合わせになっている世界から「(あやかし)」と呼ばれるモノが流れ込んで来る。それらは人間対して悪しきモノである為、対抗出来る能力を持った者達が幕府によって組織されている。


町の安全を守り、人々を取り締まる組織を「表江戸」

人を害する妖を退治し、妖に関わる全てを取り締まる組織を「裏江戸」


大江戸に暮らす人々は、二つの組織をそう呼んでいた。




☆★☆




煮干しで出汁を取った中にザクザクと切った小松菜を入れる。それと同時に充分に温めた網の上にめざしを乗せた。最初は四匹乗せていたが、ちょっと悩んでもう一匹追加で乗せる。多分、この読みは間違ってない。


そう確信しながら、昨日の夕飯の残りの里芋を鍋から器に移していると、勝手口がガラリと開いた。


「鈴華ー、卵持って来てやったぜー」

「おはようございます」


片手にザルを抱えた止水さんがやって来る。そのザルの中には卵が沢山入っていた。


「ありがとうございます!わぁい、卵かけご飯にしよう」

「生みたてだからな。旨いぞ」


止水さんの住んでいる長屋には鶏小屋があるそうで、こうしてよく卵を持って来てくれる。持って来るのは絶対に食事の支度をしている最中で、ちゃっかりそのままご飯を食べて行くのがいつものスタイルだ。

そろそろ来る頃だと思って、追加で多くめざしを焼いておいた私の勝利である。


最初は、尼寺にこうして男性が入り込んで食事までしていいものなのか戸惑ったが、本堂より奥の間の男子禁制の場所に入りさえしなければ問題はないらしい。奥の間は私室があり、基本的にそこで寝泊まりしている。止水さんが入れるのは台所と隣接した座敷、そこに面した中庭までだ。食事はその座敷で食べることになっている。

ちなみに食事も、特に禁忌はないらしい。肉も魚も食べ放題。ネギやニンニクもどんと来い。世界変われば宗教も変わる。ありがたや。


こちらの世界に来て約ひと月。

お世話になっている赤華寺では、今私は朝ごはん担当を申しつかっている。私以外はみんな朝のお務めがあるからだ。だからみんながお務めを行っている間に、私が朝食の準備をする。もともと料理は好きだったし、家では和食中心だったから、火の扱い方さえ慣れてしまえば問題ない。ガスコンロやIHシステムなんてないから火力の調整に苦労したけれど、距離感さえ掴めばこっちのものだ。


めざしの焼き具合を見て、クルリと引っくり返す。おお。良い焼き色。焼けている部分から油が炭の上に落ちて、ジュワリといい音を立てた。


面白いことに、この町には幕府直営の「種火屋」さんという職業があるのだ。この町に住んでいる人間は誰でも無料で利用出来る。まあ、税金の中に含まれているらしいんだけど。

だいたいみんな朝一に種火を貰って、それで一日の炊事や明かりに使う。そして不思議なことに、その火は深夜日付が変わると必ず消えてしまうのだ。道路やトイレみたいな公共施設、養生所や番所以外、一般家庭で深夜に火を使うのは基本的に禁止されている。何でも火事対策だとか。使いたい場合は、有料で種火屋さんから特殊な火を買うそうだ。


「一人一つでもまだ余りますね。他は何にしようかな」


十個近い数の卵がある。手に取ると、まだほんのり暖かい気がした。


「アレ、作ってくれねぇ、かな。その、ほら。甘い茶碗蒸しみたいなヤツ」

「甘い茶碗……ああ、プリンですね!」

「そう!それだ!」


イケメンのめっちゃイイ笑顔いただきましたー!おおう…キラッキラですな。


「蜂蜜はありますけど、牛乳がありませんよ」

「取って来る!朝飯食ったら即行取って来る!!」

「ハイ…ヨロシクオ願イシマス…」


そんなに好きだったんですか、あのプリン。


ちょっと前に卵と牛乳を手に入れて、蜂蜜もあったことからプリンを作ってみたのだ。それが思いの外好評だった。この国は、食材の種類も豊富だし流通もかなり発達しているので食事には苦労しないけど、あまり洋食系は広まってない。なので、プリンも珍しかったようだ。

が、まだ火加減の調整に慣れてなかった頃だったので、スは入るわ舌触りは悪いわで、自分の中では全く納得していない。次はリベンジでなめらかプリンを降臨させるのだ!見ておれ!!


奥から聞こえて来る読経の声が止んだ。朝のお務めが終わった合図だ。


私はそのタイミングで手早く鍋に味噌を溶いた。小皿に取って味見。うむ、完璧。一度で味噌汁の味が決まると、今日一日ツイているような気がする。私流味噌汁占いだ。

焼き上がっためざしを皿に移し、里芋の煮っころがし、漬物を膳に並べていると、つばきさんと、ツツジちゃん、サクラちゃんが顔を出した。


「鈴華ちゃん、いつもありがとう」


つばきさんは本日もけしからん美女です。


「止水さん、おはようございます!わぁ、卵だ!」

「おはようございます。いつもありがとうございます!」


止水さんに挨拶しながら私と手分けしてご飯と味噌汁をよそっているのは、尼見習いのツツジちゃんとサクラちゃん。

ツツジちゃんは、初めて来た日に着替えを手伝ってくれた子だ。暗めのオレンジの髪色にピンク色の目。現在十歳。サクラちゃんは、濃いピンクの髪色に鮮やかな赤い目をしている。十五歳なのだけどツツジちゃんと身長は同じくらい小柄。でも顔立ちは大人っぽい為、アンバランスさが妙に色気がある。

そして二人とも超が付く程美少女である。


「いただきまーす!」


全員揃って手を合わせてご飯をいただく。


うむ、今日も美味しく出来ました。


味噌汁を啜ったあと、早速生みたて卵をTKGにするのだ。茶碗の端でちょっと強めに殻を打ち付ける。こちらの卵は殻が丈夫な気がする。

少し窪ませておいたご飯に、ツルリと卵が乗る。弾力のある白身は米粒の下に入ることなく、色の濃い黄身が支えられて球体に近くなっている。しばしそのフルフル具合を堪能したあと、箸で白身を二、三回切る。そして黄身に箸先でそっと穴を開けてから醤油を垂らす。全部混ぜずに味の違いを楽しむのが私的マストスタイルだ。


止水さんは、ご飯に直接掛けたあと、醤油を回してご飯ごと一気に全部混ぜるタイプ。つばきさんは、小鉢に割り入れてほぐしたあと、少しずつ分けてご飯に掛けるタイプだ。サクラちゃんは小鉢に醤油を入れて割りほぐして、ご飯を食べてから卵液を口に含む、口内合成タイプ。ツツジちゃんは味噌汁に割り入れている。何故こんなにバリエーションがあるんだ。


止水さんはいつものようにガッツリおかわりをして、ほぼ全員同じタイミングで食べ終わる。


食べ終わった食器は各々に水場まで運んでもらって、あとの洗い物までが朝食担当の私の仕事だ。

止水さんは食べ終わるや否や「ちょっとひとっ走り行って来る!」と飛び出して行った。さっき言っていた通り、牛乳を調達しに行くのだろう。有言実行の人だ。


「忙しないわねえ」

「牛乳を持って来てくれるそうですよ。またプリンが食べたいって言ってました。今日、午後に作ってもいいですか?」

「ああ、あの美味しいのね!大歓迎よ!」


つばきさん甘いものお好きですもんね。お酒も嗜むようですが、甘い物を食べてる時の蕩けるような笑顔はスペシャルスチルに採用されている違いないです。ツツジちゃんも嬉しそうにはしゃいでいる。サクラちゃんはあまり感情を表に出さないタイプだけど、初めてのプリンは頬を染めてチマチマと大事そうに食べてましたよね。無邪気天使系とツンデレ委員長系。この寺、最高かな!


ん?これって確か乙女ゲーじゃなかったっけ…?

ま、いいか。


綺麗なお嬢さんは正義なのである。



やっとタイトルの呼び名が出て来ました。

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