一・存在感の薄さが問題です
初投稿です。
よろしくお願いします。
…いくら存在が薄いからって、あんまりじゃない?
神戸鈴華。17歳。高校生。
特徴…黒髪ロング…くらい。
存在感が薄い。地味オタク。よくそう言われるし、否定はしない。
姉と母が筋金入りのゲームオタクとアニメオタクの為、幼い頃からの英才教育の賜物で知識だけはある。ただ、自分から深く興味を持ったジャンルはないので、姉曰く「オタクとは程遠い」らしいのだが、客観的に見れば充分オタクのカテゴリにいるとは思う。
昔から二人組を作れと言われれば偶数なのにあぶれ、給食の配膳は忘れられ、朝礼で貧血を起こして座り込んでも気付かれず、野球観戦中にファールボールがダイレクトに当たった時もそれが跳ね返って当たった方に人が駆け寄って…あ、ヤバい、落ち込んで来た。
誤解のないように言っておくけど、別に苛められてるわけじゃない。先生にも友達にも恵まれてる…と思う。多分。
でも、不思議なことに物心ついた時から存在感が薄くて、気が付くと忘れられていたり、置いて行かれたりすることが多いのだ。いっそ食い逃げが出来るくらいの隠密になれればいいのに、そこまで存在完全消去されてるわけじゃない。ちぇ。
「ちょっとひどくない?」
ここは京都。ただいま修学旅行中。
クラス別行動で、私のクラスは夜間拝観巡りをしていた。北野天満宮をラストに集合して、そこからバスで泊まっているホテルに帰る…予定だった。
私は集合場所の筈だった駐車場の前で呆然としていた。
ポケットからスマホを取り出して時間を確認したが、言われていた集合時間まで5分はあった。しかし、周囲を見回しても同じ制服はおろか、誰も見当たらない。
集合場所に行く前に、近くにいたクラスメイトに「トイレに行って来るね」と言っておいたのだけど…言われた方もちゃんと返事してくれたんだけど…なあ。
普通バスを発車する前に点呼とかするんじゃない?
☆★☆
「ねーねー鈴華ー。修学旅行京都なんでしょー」
神戸京華。私のお姉ちゃん。母譲りの派手顔。ゲームオタク。
一見すると華やかな場所で遊んでそうに見えるけど、本人は超インドア。しかし、その見た目と要領の良さで一般人に擬態出来る。私はこの地味顔と存在感の薄さでほぼ100パーオタク認定される。解せぬ。
因みに私の地味顔は母方の祖母譲りだ。そしてヅカオタだったらしい。濃いオタクの系譜だ。
「リストは?」
「おお、我が妹ながら察しのいいことよ」
明日からの修学旅行に備えて荷物を詰めている私に、満面の作り笑いでにじり寄って来る姉。並の貞子より怖いわ。
何か買って来て欲しい京都限定グッズが欲しいのだろうな、と手を差し出した。伊達に妹やってません。それくらい察しますよ。
姉は大仰にポーズを取りながら、差し出した手の上にメモとお金を置いた。ちょっと待って。この複数人数の諭吉様は何。どんだけ買い占めて来いと。
「修学旅行のコースは決まってるから、全部は無理だよ」
「買えるだけ買って来て」
「はーい。ええと…これ、なんとかかんとかっていうゲームのヤツ?」
「何一つ合ってないし。『大江戸なんちゃら』よ」
どっちもどっちだ。
リストを見ると、今話題になっているゲームのキャラグッズで、どこの店で何のキャラを買って来るかが事細かに書いてあった。しかもランダムガチャ商品もか。そりゃこの予算は納得だわ…
確かクラスの女子も話題にしてたな。残念ながら私は興味のないジャンルなのでついて行けないけど。
「大江戸なのに京都限定なの?」
「そうなのよ!中盤でつばき様の出身が京都だと判明して、過去の因縁で一人京都に向かったのを夕顔くんが追うイベントがあってね。一番興味がなさそうにしてた夕顔くんが誰にも告げずにつばき様を追って行って、伏見稲荷で再会した時に出て来る狐面の…」
「あーはいはい」
リストにも「つばき様」「夕顔くん」という名前が乱舞しているのを確認して、この二人が姉の推しなのね、と認識。ワタシ、覚エタ。
「来月くらいには全スチル集め終わるから、そしたら貸すわよ」
「あんまり乙女ゲーは興味ないなー」
「結構アクションとか戦略とかに重点置かれてるから、冒頭だけでもやってみなよ」
私もゲームはやるけど、好きなのは戦略シミュレーションだ。それを知ってて勧めて来るので、意外と面白いのかもしれない。
「じゃ、よろしくねー。買い物頑張り過ぎて置いて行かれないようにね」
「さすがにそれはないって」
バスが出発する前はちゃんと点呼するし人数数えるもの……
と、思っていた時期が私にもありました。
☆★☆
完全に置いてきぼりになった私は、いつまでもこうしていても仕方ないと歩き出した。
山奥や孤島に置き去りになったわけではない。少し歩けばバス停もあるだろうし、お財布には少々痛いダメージだけどタクシーだってある。
とは言っても、見知らぬ土地で暗い道はさすがに怖い。私はなるべく明るそうな方に向かって歩き出した。途中でコンビニか女の人がいたらバス停の場所を聞こう。
しばらく歩いたものの、何故かさっきから誰ともすれ違わない。そんなに遅くない時間なのに。
京都って、超有名観光地よね?
やけに静かで、車の通りもない。何だろう、この落ち着かない感じ。
半分走るように道を急いでいると、角から影が出て来るのが見えた。着物を着た女の人みたいだ。観光客かな?道聞いても大丈夫かな。いや、むしろ観光客の方が道知ってるか。
「あのーすみませーん」
女の人がこちらを向いた。あれ?
彼女は街灯の下に立っていた。でも、こちらを向いた顔は…
そこには、あるべき筈の顔がなかった。