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銀の鍵  作者: みすみいく
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ピグマリオ

 アレンがアウルに抱いているのと同じ憧憬を抱いている自分を認め、もどかしくても如何することも出来ない自分を見ても居る。アレンを育てることで望む答えを手にすることは出来るのだろうか?!

 純粋。と言う言葉が形を成したような蒼く美しい人形。その透き通る躰の芯に、焰が灯った。


 身内から燃え尽きてしまうものか、或いは、堅牢な自我が構築されて、炎を上げたまま内に秘められるのか。

 手の中で変貌を遂げるしなやかな魂に、我を振り返らせられる。


 宛がわれた10歳以上も年下の夫を、己の主義を貫くために受け容れた女を、愛してしまっているのだと思い至った時から、俺の男としての自我は、夫という器の中に封印するほかは無くなった。


 成すべき事を成すために最も重きを置いて、妻のために生きるほかは無くなったのだ。


 妻は、俺のそんな目論見に気付いていて、夫としての俺を愛している。

 俺はと言うと、円満に見える夫婦関係に、何処か足りない、違うと言う感触に砂を噛む思いだった。


 真に報われぬ痛みを味わっても居る。

 ままならぬ自分を投影して思いが叶えられたなら、俺の溜飲も下がろうというものだった。


 エステルとアレンの事を、誰からか耳に入れられた妻が、珍しく連絡をくれた。定期的な見舞いの時期には遠いが、療養している夏の別荘を訪れた。


 エステルに言付かった花束と薔薇のゼリーを抱えて。

 パリのシェネリンデのテナントで、エステルが手に入れて俺に託したものだ。夢中に成っているボーイフレンドの株を上げるために。


 「綺麗だわ。エステルには私からお礼を言います。有難う、貴方」


 そう言う妻は病を得て、殊更に臈長けて、儚げに成っているのが余計に心を揺さぶる。


 「いいえ。苦情を申し上げる積もり等毛頭無いのよ。貴方にご苦労をお掛けすると…申し訳なく思っておりますの」

 「エステルは良い子だよ。ストラダの後継者である自覚が出来ている。余りに美しい王子にのぼせているだけだよ」

 「貴方がきちんと見て下さっているので、安心していられるの。ただ…少し、可哀想になってしまったの」

 「さも有ろうが…大丈夫。君の娘なのだから」

 「いいえ。貴方の娘だからよ」


 そう言って、妻は微かに笑ってくれた。


 「…ご免なさい。休んでも良いかしら?!」

 「気付かなくて申し訳ない。これで…良いかな?!」


 枕を直してやりながら、手に感じた重みが軽くなったかに思えた。


 「ええ。有難う、貴方」


 白く細い指先が、ひやりと肌に触れて、色褪せた唇が愛しい。


 触れかけて、止めた。

 蒼く血筋が浮き出た手を取って口付けた。


 「おやすみ。出直そう」

 「ええ貴方。わたくしの事はどうぞお気になさらず」


 こうして時を重ねる度に、薄い紗を掛けたように隔たりが広がる気がする。何処まで行っても母親という方が近い妻だと、俺との必要以上の関わりを避ける。


 夫婦で有りながら永遠に交わる事の無い心に、切なさが増すばかりだというのに。


 俺の真実を伝える術を持たない。


 しかも、彼女の心はその紡ぐ言葉に、1つもそぐわぬものは無いのだ。妻としての愛情を持ってくれている。


 何と言えば良い?!

 何をすれば伝わる?!


 愛しているとの告白にも、私もと戻る。

 共に有って欲しいと望めば、永遠にとも。


 だが、隔たりが有るのだ。


 男で有る俺が、女である君を愛しているのだと。

 如何すれば解らせられる?!


 砂が手指の間から、さらさらと零れ落ちて喪われるように、妻が俺の腕をすり抜けて逝ってしまう様な焦燥に、ずっと…捕らわれたままなのだ。

 お読み頂き有難うございました。

 ラルフは実は恐妻家の上に愛妻家だったりするんです。彼女はこんな叔母さんって思ってるし、ラルフは子供扱いって思ってる。その実…伝わると良いわね~

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