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銀の鍵  作者: みすみいく
3/5

羽化

 恐ればかりだった周りも自分と同じように、悩みや痛みを抱えて居るのだと思い至ったことで、自分への評価も変わってくる。勇気を持って踏み出す理想の自分への第一歩。

 誕生会の騒ぎが終わっても、エステルの、何かにつけて俺に関わって来ることが続いていた。何と言うことも無く、そのままにして幾週かが過ぎたある日、大学のカフェテリアで、ルイザに逢った。


 次の講義まで時間があった。スタンドでカフェオレを飲んでいたオレの隣に、何も言わずに腰を下ろしてきたのだ。


 久しぶり…だからだろうか?!ルイザの印象が変わっている気がした。彼女のこんな態度は見たことが無い。


 「アレン。お久しぶり。エステルに自慢されたわ。とても素敵なナイトだったんですってね」


 何だか怒られてる気がするんだけど…俺、何かやったんだろうか?!


 「お身内に不幸があったんだってね。知らなくて…」

 「口実よ」

 「口実?!何の?!」


 彼女は少し首を傾げると、信じ難いというように溜め息を付いた。


 「ご招待を頂いたのに気が乗らなくて、口実を設けてエスケープしましたの」


 意外な表情をまた目にした気がした。不可解が顔に出ていたのだろう、もう一つ溜息を貰ってしまった。


 「旅先でのおしゃべりのお仲間ってだけだもの。貴方も同じでしょ?!」

 「僕は社交辞令の一部だと思っているよ。ガールフレンドの1人だともね。君も、彼女も」


 言うと、ルイザの瞳がチロリと俺を睨む。何でかな?!


 「そうよね…」

 「踏み込みすぎてる?!」


 誤解を招くほど深入りした覚えは無かったからだ。

 彼女の父とは少々有ったが…


 「…何でも無いなら良いのよ」

 「何でも無いなら良い?!」


 まるで恋人か、5人目の姉の様なもの言いが引っかかった。


 「…ご免なさい。お母様が案じておいでなのよ」


 俺が親離れ出来ないのか、母が子離れ出来ないのか…


 「黒の公爵の娘だから招待を受けたんだ。よっぽど信用が無いんだな。アウルにも同じ事を言われた」


 …あの時のアウルは何もかもが俺の印象とは違っていた。まるで別の世界から来たかのような…


 「まぁ…碧の貴公子がおいででしたの?!」

 「…エステルは悪くない相手だと言われたよ。但し、黒の公爵には気を許すな、とね」


 「私の義理の弟なんだ。宜しくね」

 「…ラルフ・ストラダには気を許すな」


 俺との間に一線を引いた以外は、アウルのスタンスは全く変わっていなかった。

 彼は初めから一貫して変わっていない?!


 「…でね!…?!アレン!!」

 

 パチンと夢を破られた様な気がして、突然現実に引き戻された。


 「あ…ごめん。聞いてなかった。何だった?!」


 間の抜けた返事にエステルが睨む。


 「夏期休暇にクルーザーで、出かけませんか?!って」

 「…考えとく」

 「…考えとくって…」


 語尾が震えるのを聞いて漸く頭がエステルに向いた。


 「だってさ。君も同じだと思うけど、休暇に入るのを待って婚約者が現れるかも知れない」

 「…それってずるくない?!」

 「現実だけど?!」

 「君には妹さんが居るから僕程じゃ無いだろうけど、4人の姉は既に嫁いでて、家には僕1人だからさ。母が手ぐすね引いているんだ」


 言い訳にエステルがぷぅと膨れた。


 「その方には待っていて頂けば良いじゃ無いの」

 「放っとけじゃないんだ?!」

 「…貴方は狡くて意地悪だわ」


 結局クルージングに連れ出された。

 例によってラルフが付き添って来ていた。

 仕事も有るだろうに…

 クルーザーには使用人は同乗していなくて、ラルフが操舵する。食事の支度をするとエステルとクラリスがキッチンに降りて行った。


 使い慣れた様子のクルーザーは、余り大きい船では無い。客をもてなす為に設けられて居るわけでは無くて、度々こうして共に楽しむ親子を乗せてきたに違いない。


 冬のスキーウエアと燕尾服しか見たことの無かった俺の目に、グレーのポロシャツに白い麻のバーミューダ、偏光サングラスと言う出で立ちのラルフは、とてつもなく若く見えた。


 蒼い海を白波を立てて進む船を駆る姿は、夜の…黒の公爵には似つかわしくなくも見えた。

 ストライプのカットソーに短パンって子供っぽかったかな…溜め息を付いた俺に振り返り微笑を向けると言った。


 「婚約者は現れなかったのかね?!」

 「エステルは何でも話すんですね」

 

 苦笑するように破顔すると父の顔に成った。


 「妻とは10以上も離れていてね。娘達には私の方が年が近い。しかも、病を得ていて付き合う事が難しい」


 何としても家を絶やす事が無いようにと、周りが配慮して縁組みするのは何処の旧家も同じだろうが、当人にとっては迷惑な話だった。


 「おまけに私は、一族の末弟の末っ子の上に、婿養子だ」

 「大変ですね」


 なのに彼は黒の公爵と言う異名をとる実力者だった。


 「ああ。苦労している。だが、妻は俺の遊びには何も言わん」


 口調ももの言いもがらりと変えて、ラルフは俺に水を向けてきた。計り知れない。


 おたおたしている俺はこうなれるのだろうか?!

 こうなれたら、アウルの傍に居られるのだろうか?!


 「貴方から学ぶ事は多そうだ」

 「何か有ったようだね?!」

 「いいえ。今のままでは駄目だと判っただけです」

 「僕は僕で立って行かねば話にならないと」


 舵に片手を乗せたまま、ラルフが改めたように俺を見る。好奇心にほくそ笑む。


 「俺で良ければ役に立とう。無聊を囲っているのだ」

 「持っているものは何でもくれてやる」


 …俺についていて欲しいと言っていたのも同じ事だ。

 公家と即位したばかりの兄王の後見の必要も有ったというのに。

 

 他に継子の居ないカーライツの未来は、俺が築く以外に無いのだ。


 「有難うございます。」

 「先ずは船舶免許を穫りたいな。気持ち良さそうだ」


 言うと、舵輪の前に俺を導き、舵を握らせた。

 背を抱いて舵に置いた手に手を重ね、パーティーの夜のようなキスをして言った。


 「エステルを望むならここまでだ」

 「僕は彼女の夫には成れませんから」


 そう答えると、今度は深く踏み込んできた。


 「悪い奴だな」

 「エステルには婚約者が現れても待っていて貰うようにと言われたけど?!」


 ラルフが呆れたように笑って言った。


 「頼もしい奴等だ」

 お読み頂き有難うございました。

 ちょっとラルフの年齢が高いことが引っかかるかなぁ…と。高校生のお父さん何だけど、まだ30半ばなんですけどねぇ


 とにかく彼はこのお話の中では重要人物なので暫く出てきます。宜しくお願い致します!

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