襲来の兆し 1
「起きなさい!」
そんな声に俺はベッドから転げ落ちた。いや、布団を引っ剥がされて反動で落ちた。
「いってーな!もっと優しくできないのか!!」
「あんたが悪いのよ! もー、早くしないと遅刻しちゃうじゃない!」
やたら「!」が多い赤髪ポニテの少女は、幼なじみの『如月 未斗』が仁王立ちで「ふん!」とそっぽ向く、お決まりの「ツンデレ」少女だ。
「ほら、早くごはんよ! 早く降りなさい!!」
そう言ってプンプンしながら部屋を出た少女の背を見送り、俺はあぐらをかき腕を組む。
いろいろ言いたいことはある。まず「!」がしつこいこと、「ツンデレ」の「デレ」が見れなかったこと、時計の針が『7:54』だったこと……。だが、そんなことは置いといていい。
なぜなら、その中から選りすぐったこの「決意」が全部解決してくれるから。
「……さて、起きるか」
というわけで目を覚ます。ベタベタな《ツンデレ幼馴染もののギャルゲー》を昨日帰ってから夕飯前までやっていたためか、変な夢を見てしまった。
時計の針は『4:56』と表示されている。ああ、本来は夢と現実が逆なんだよなー、と悲観しながら、ベッドの温もりをなんとか退けて一階キッチンへと足を進めた。
『6:54』
二時間たった今、二階のドアの前にいる。もちろん自室じゃない。
二回ノックし、聞き耳を立てる。しかしなんの反応もない。
三回ノックする。物を投げつける音が、しない。
「起きろ」と言う。「………じゃあ起こして」と返ってきてため息をつく。
「わかった、じゃあ入っていいのか?」と聞く。「………ばっちこい」と返ってきたからドアを開けた。
「……はぁ…」
「ため息、しつれい」
彼女は座り込んでいた、少しはだけたパジャマで。
彼女こそが正真正銘『如月 未斗』本人だ。同い年で、全く表情が変わらず、しかし内面は感情豊かで、家事と早寝早起きが苦手で、抜けている点が多くて、しかし学園一の秀才で、生徒会の書記にして次期会長候補で……
「いいからはやく支度しろ。飯はいつものだからな」
といい早々に出ようとしたが、いつのまにか立っていたミトは、ふり返った俺の背中の服の部分を掴んでいた。
「……いやだ」
直感が警報を発した。
「まだ何も言ってない」
「いーやーだー!」
「まだ何も言ってない」
「いーーやーーーだーーーーー!!」
「まだ何も言ってない」
「NPCかお前は!?」
俺は頭をかく。ああ、最近よくかくからハゲないか心配だ。
「ハゲても一緒にいるよ?」
「心を読むな!!」
……俺は深く、ふかーーーくため息をつき、問う。
「……………で、なんだ?」
「着替えさせて」
………俺はさらに倍、深くため息をついた。一応言おう。こいつは同い年の高校一年生、胸も一般くらい発育がよく、生徒会長に押されるほどの頭と容姿を持つ奴だ。そして––––『準・生活破綻者』だ。