Prologue
周りは火の海、所々で死体が転がり、皆が逃げ回る。
死者は突然目覚め、生者を襲う。
喰われ、死に、そして襲いだす。そのようにして増え続ける「ソレ」に、対抗する術はない。ただ逃げるだけ。
「シェルターからはやく離れろ! 輸送ヘリに駆け込め!」
迷彩柄の自衛隊員が誘導しているが、減る民間人と、増える敵にあまり手が回っていないようで、武器を持つ彼らでも対応が追いついていない。
「はやく! 走って!!」
その声はこちらに向けられた物で、その主は母だった。火事で倒壊した柱に潰された母は、ただその一言を言い終えるとそのまま顔を伏せてしまった。
だから走った。母のその言葉を背に、ただただ走った。涙を流し、小さな体を生かして死者を潜り抜けて。
しかし子供の体では限界だった。押さえつけられ、「ソレ」は見下ろす。
恐怖した。死を間近に感じた、そんな時だった。
ヒーローは現れた。アニメのような、機械を纏ったヒーローが。
ヒーローは一振り、光る剣で腹伏せ、「ソレ」が初めて動かなくなるのを見た。
「ほら、こっちよ!」
その人は女性で、差し出された右手を掴むと、ヒョイっと持ち上げて飛んだ。
ヘリの前に着地した彼女は「大丈夫!」と一言、そして再び飛んで行った。
自衛隊の人に促されてヘリに入る。外をよく見ると何人かが彼女と同じ機械を纏って戦っていた。
いくつかヘリが飛び、このヘリも飛んだ。
ふと気が少し晴れ窓を覗く。そして外に浮かぶ人影を見て再び凍りついた。
その風貌はまさに「魔王」だった。何人もが空中に漂う「魔王」に飛びつき、そして落下していく。
その目はギラリ、とこちらに向けられた。
そして近づかれ、俺の窓の前に佇む、見るからに同い年とも思える少女の姿の、ツノの生えた「魔王」は手をかざし、「魔法陣」を形成し、そしてソレは大きな光となって包み込んで行った––––。