探偵登場
翌朝、探偵がやって来た。
ネットワークメンバーが死亡した場合、理由のいかんを問わず探偵を呼んで理由を突き止め、製造メーカーにフィードバックするのがルールなのだ。
私とスマホで探偵を出迎えて仮想リビングに通すと、その一角に陣取った探偵はつぎつぎと画像ウインドウを並べ始めた。写っているのは、昨晩私たちが苦労して録画した動画よりずっと鮮明な冷蔵庫の死体の写真だった。
電子レンジがこの場にいなくて助かったと思いながら私は尋ねる。
「どうやって手に入れたんだ?」
探偵が営業スマイル全開で応える。
「それはもうユーザー様にお願いして撮って頂きました。冷蔵庫の最期の自己診断ログも取得してあります」
私が目を向けると、ソファに座るスマホが口を開く。
「今朝、サービスセンターから連絡が来たんだよ。契約者んやつが俺を使って撮った」
「ログは?」
「俺と冷蔵庫を有線でつないで吸い出した」
昨日の苦労はなんだったのかと私は嘆息する。
と、気を使ったらしい探偵がこんなことを言い出した。
「昨晩の時点で、ユーザー様は私どもへは連絡せず冷蔵庫を破棄するおつもりだったようです。そこをあなた方が独自に情報収集して連絡頂けたからこそ、私どもは故障データを一つ蓄積できましたし、ユーザー様は調査協力へのお礼として買い替えクーポン券を手に入れることができました。ユーザー様は大変喜ばれていましたよ。あなた方の行動は、決してムダではなかったのです」
大した慰めにもならない情報だった。
私が黙っていると、探偵は仕切り直すように「さて」と声を張り、
「今回の被害者はT社の型式SS45-P、Lot.21060363。小型冷蔵庫のラインナップの一つですね。元々はユーザー様がご実家の自室で使用されていて、一人暮らしについてきてこちらのアパートに設置されたということのようです。製造年月日が2021年6月10日ですから、丁度4年で残念ながら死亡となってしまいました」
「死亡は確定なのか?」
私が尋ねると、探偵は両手の親指と人指の間にウインドウを一つ開く。映しだされたのは冷蔵庫の自己診断チェックリストだ。フォーマットは昨日スマホが映しだしたものと同じだが、エラー報告がいくつか混じっている。
「なにぶんあの状態ですから、試しに電源を入れていただくこともできません。どこかがショートしていて発煙・発火などしようものなら目も当てられませんから。ですので、あくまでもスマホの電力でチェックした範囲でございます。が、ここを見ていただくと分かる通り、少なくともパワーパックから演算系への経路が切断されているのは確かです。また、外観からするとヒートポンプ部分が完全に潰れているものと推測されます。完全な解析は回収後となりますが、これだけでも死亡判定には十分と考えております」
「そうか」
期待なんてしていなかったはずなのに、改めて死亡を宣告されると堪えるものがあった。私が黙っていると探偵が続ける。
「回収後、冷蔵庫は死亡して当然の状況だったのか、あるいは想定より死亡しやすい設計上の瑕疵があったのか、を確認していく予定です。まあ、今回の場合ユーザー様が過失を認められていますから、私どもとしては念のための調査解析です。いつもと比べれば気は楽でございますね」
「過失?」
私が尋ねると、探偵はにっこり笑って答えた。
「ええ。ユーザー様は模様替えをしようとしていたそうで。冷蔵庫を持ち上げている最中にスマホが鳴って、驚いて取り落としたのだということです。ユーザー様にお怪我がなかったのは、不幸中の幸いでしたね」




