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冷蔵庫探索

 東廊下の奥から二番目。

 ノックをして開けた扉の向こうは真っ暗闇だった。


「ネットワークが切れてやがんな」


 つぶやいたスマホを押しのけて電子レンジが扉の前に出る。その手が暗闇に向かって伸びるけれども、切断された回線の向こうには当然届くはずもない。見えない壁に阻まれて、電子レンジの手は扉のこちら側にとどまった。電子レンジの目に涙が滲む。

 それを見た瞬間、スマホが脱兎の如く逃げ出した。慌てた私が止める間もなく、


「レーーーーーちゃーーーーーーん!!!!」


 電子レンジの大音声が廊下に響き渡った。スマホほど過敏ではない私でもクラクラくる大出力だった。廊下の向こうでスマホがパタリと倒れる。


 繰り返し呼ぼうとしている電子レンジの口を慌ててふさいだ私は、電子レンジの耳元で言い聞かせる。


「落ち着け、電子レンジ。どこかのメモリをオーバーフローでもさせたら、冷蔵庫の手がかりまで洗い流されてしまうかも知れない」


 途端に電子レンジの体から力が抜けた。安堵した私が手を放すと、電子レンジは頭を抱えて、


「わ、私、今……今のでもしかしたらレーちゃんが……私のせいで……」

「だから落ち着け。私が言ったのは万一の話だ。みんな最低限の電磁シールドくらいは持っているから、そうそうひどいことにはならない。ほら、深呼吸」


 言いながら背中をさすってやっていると、どうにか呼吸を落ち着かせた電子レンジはその場にぺたりと座り込んでしまった。扉の向こうを放心状態で見つめ続けるその姿が心配ではあったものの、少し目を離しても大丈夫だと判断した私は、ここで待っているように電子レンジに言い聞かせてから廊下を先に進む。


 うつ伏せに倒れたスマホの元へ辿り着いた私は、スマホの頭をつま先でつつき、


「で、何か分かったのか?」

「電子レンジと扱いが違い過ぎねーか?」


 ごろりと体をひっくり返したスマホが仰向けになってブーたれる。

 私はしゃがみこんでスマホを覗き込みながら、


「通信している気配があったからな。何か調べていたのだろう?」

「――てめえほんとにエアコンか? 良く気づいたな。前世はスマホだったりするんじゃねーの?」

「あながち間違ってはいないな。私の思考エンジンはスマホからの流用だという話だ」

「あー、道理でやりにくいと思った」

「? 同系統なのだからやりやすいの間違いでは?」

「情報処理能力で他を圧倒してネットワークの主導権を握るって思想で作られてんだよ、俺は。そこに同格のやつが紛れてばやりにくい決まってんだろうが。くそ、PCがいねえから楽勝で天下だと思ってたっつーのに」


 なるほど、道理でいつも突っかかってくるわけだ。


「ともかく、何か分かったなら教えてくれ」


 私が尋ねると、スマホは廊下の向こうの電子レンジを一瞥してからため息をついた。


「――向こうで話すから戻ろーぜ。こんな狭いとこでまた叫ばれたら今度こそ殺されちまう」

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