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令嬢は腹に据えかねる

よろしくお願いします。

「ウィンドカッター!」


 詠唱と同時に手元から見えない風が飛び出し、的の残骸がひらひらと舞う。


「お見事です。お嬢様。上達しましたね。」


 乾いた拍手をしながら、何の感情もこもっていない声で、的を眺めながら自分の生徒を褒める。


「わかりきったお世辞は結構です!」


 実際にエリザベートがウィンドカッターで切ったのは、紙切れ一枚、それも目と鼻の先の、である。

 上達というほど上手くなってもいない。

 ここ最近はこの魔法士にイライラしっぱなしである。





 なぜ、このような状況になっているのか。

 それは、家庭教師に魔法を練習するのであれば、魔法士を雇う方がよいと言われたことに端を発する。



 家庭教師の言葉を真摯に受けとめたエリザベートは、その日のうちに父がいる書斎に押し掛けた。


「お父様、(わたくし)魔法を勉強したいと思っておりますの。先生を手配してくださらないかしら?」


 目を通していた書類から顔を上げることなく、チリチリと呼び鈴を鳴らした。

 すぐさま、筆頭執事が入ってくる。


「コレの魔法士の先生を探しておけ。」


「はい。かしこまりました。失礼いたします。」


 そう言って、きれいなお辞儀をして流れるように外へ出て行った。


「用が済んだのなら出て行け。」


 ギロリと睨み、顎で扉を指す。


「…失礼します。」


 言われた通り、クルリと扉の方へ体を向け、さっさと部屋を辞す。


(私に興味のない人だから想像はしてたけど、あまり気分のいいものではないわね。でも、一先ずは魔法の先生がゲットできたことだし、良しとしましょう。)






 その数日後、紹介されたのが国の魔法師団に勤めているという魔法士である。


「お嬢様、魔法士の先生が見つかりました。魔法師団に今年主席で入団した方です。」


 庭で本を読みながらくつろいでいると筆頭執事が声をかけてきた。

 その声に本から顔を上げて答える。


「あら、思っていたより早かったわね。ありがとう。それで、いつからご指導いただけるのかしら?」


「はい、明日にでも可能とのことでしたが、その前に顔合わせをされますか?」


「いえ、大丈夫よ。」


「かしこまりました。」




 このやり取りをした翌日、事前に聞かされていた時間通りに魔法士が到着すると、初めての顔合わせを果たした。

 顔合わせは、はっきり言って最悪だった。


 エリザベートが部屋に入ると、あからさまに不愉快だという顔で、こちらをじろじろと見てくる。

 基本的に、貴族は感情を悟られない、ということが大前提である。

 いくら相手が気に喰わないとしても、初対面の、ましてや格上の相手に対してとる態度ではない。

 それだけでなく、令嬢をじろじろと見るなど、品位を疑うレベルである。


 魔法師団を首席で入団したと聞いたが、それで、偉くなったとでも思っているのだろうか。

 あまりの酷さに唖然としつつ、何とか持ち直しソファに腰かける。

 お互いの紹介を済ませ、魔法の先生として応じてもらったお礼を口にする。


「この度は、(わたくし)の要望に応じていただきありがとうございます。」


「別に、俺は師団長に言われたから来ただけ。そもそも、来たくなかったし。この俺が何で令嬢のお遊びに付き合わないといけないんだっての。どうせすぐ飽きるんだから、俺じゃなくてもいいでしょ?」


 魔法士のあまりの言い様に、周りに控えていたメイドたちも不快そうな顔をする。

 エリザベート自身も、記憶が戻ってからというもの、大抵のことでは怒らないが、こればかりはいただけない。

 とはいえ、ここで怒ってはこの魔法士と同じになってしまう。

 首に青筋を浮かべながら、にっこりと微笑んだ。


「そうですか。でも、()は途中で放り出したりはしませんので。」


 どこからか、ヒッという声が聞こえたが、お構いなしにそう答える。


「あ、そう。」


 魔法士はつまらなそうな顔をして、視線をそらした。




 その後、魔法士に魔法を見せてもらったが、若き天才と言われるだけのことはあるようで、すごい、の一言に尽きた。






 魔法士に対して不満はあるが、というより、不満しかないが、お引き取りいただいたところですぐに変えが見つかるかというと、正直難しい。


 何故かというと、魔法士の全体量も少ないうえに、王都にはさらに少ないからである。

 魔法士の大半は国の国境付近にいる者がほとんどだ。

 王都にいる者はその中でも優秀な者だけ。


 そもそも、魔法士になるのはその力で身を立てなければならないほど困っている場合である。

 温暖な気候により、領地が富み、金の入ってくる貴族たちには関係のない話なのだ。

 ゆえに魔法士になるのは、魔法士を代々輩出している名門か、お金があるのに魔法を学びたいという風変わりな人か、貴族の中でも身分の低いものか、のいずれかだ。


 現に、エリザベートの魔法の先生も子爵家の三男坊である。





 このようなわけで、最悪の魔法士とのレッスンが始まった、




 のだが…。



「まずはじめに、魔力を感じろ。」


「魔力……。」


「もやもやしたものだ。あるだろ。なんかこう、ふわふわっとしたドロドロっとしたもんが。」


 このような感じである。

 この三男坊はかなりフィーリングで魔法を使っているらしく、言わんとすることがまるで伝わってこないのだ。

 しかし、逆に言えばフィーリングだけで、主席になったというのだから、魔法の才は恐ろしくあるのだろう。

 まさしく、魔法士は彼にとって天職と言える。


 ただ、今回に限り、そのフィーリングはまったく意味をなさなかった。

 人に教えるのはとことん向いていない。

 彼の説明で理解や共感ができるのは、天性の才能を持ったものだけであろう。






 今まで本を読んでいた時間を使って魔法のレッスンに勤しんだが、大した結果を得られぬまま、早くも三週間が過ぎた。

 もちろん、この間も社交は続いており、参加をしながらである。


 魔法を扱うにあたっての基礎と言える魔力。

 これを感じることができるまでに丸一週間かかり、感じた魔力を体外に放出するだけでも一苦労だった。

 結局、魔力を感じることができるきっかけになったのは、図書館で借りてきたあの魔法書である。

 魔法書に非常に助けられながら、最近はようやく形になり、ロッドを持ちながら数メートル先の物体に辛うじて魔法をぶつけることが可能になった。


 それと、最近変わったことがもう一つ、魔法士の言葉遣いが丁寧語に変化した。

 恐らく、筆頭執事辺りに咎められたのだろう。

 言い方が丁寧になったからと言って、鼻持ちならないのは相変わらずであるが…。


 これほどまで技術が向上しないとなると、エリザベートに魔法の才能はないように思えてくるが、決して才能がないわけではない。


 この世界の住人は生まれた時から、皆一様に魔法を使うことができる才能がある。

 ただ、いきなりできるものでもないので、練習をして身につけていくのだ。


 その練習方法は人それぞれ向き不向きがあるため、未だ教え方のノウハウなどが確立されていない状態である。

 ゆえに、指導者は生徒一人一人に合った教え方をしなければならないのだが、残念ながら、その指導者がポンコツであることがエリザベートの技術向上を見込めない理由と言えるだろう。


とはいえ、そうは思わないエリザベートは悩んでいた。

恋愛ものでよくある最悪な印象からの…というのはありません。




ありがとうございました。

次話は明日投稿予定です。

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