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令嬢は人探しに勤しむ

前の投稿からかなり期間が空きまして申し訳ありません。


 帝国に関する情報を得られず、がっくりと肩を落とす。

 しかし、これだけの書類の束を見るに、冒険者のランクさえ上がればエリザベートの知らない情報もありそうだ。

 そうは言っても、簡単にランクが上がるものでもないので、とりあえず、もう一つ冒険者ギルドに来て、確かめようと思っていたことを聞いてみた。

 そもそも、魔法も体術も満足に使えないのに、ランク上げなんて夢のまた夢状態である。


「書類、見せていただいてありがとうございます。もう一つ、お聞きしたいのですが、よろしいですか?」


「はい、何でしょう。」


「ここに所属して、魔法を使える方はいますか?もし、いらっしゃるようなら、紹介してもらえるとありがたいのですが…。」


「魔法ですか…。申し訳ありませんが、そう言った個人情報をこちらで勝手に開示することはできません。」


 できないと言われ、最後の頼みの綱さえなくなってしまったエリザベートは、誰が見てもわかるくらい、落ち込んだ。

 その様を見て、慌てて受付嬢が訂正する。


「あの、それには続きがありまして、こちらから情報開示はできませんが、ご自分で開示していただく分には問題ありません。つまり、依頼として、ギルドに出されてはいかがですか?」


「依頼?」


 そろそろと視線をあげ首をかしげる。


「はい。依頼です。魔法士を探している旨を依頼としてギルドに張り出します。それを見て、誰か魔法の扱える者が受けてくれれば、エイミさんの目的は達成できるのではないですか?」


 魔法士が見つかるかもしれないと知り、一気に顔に花が咲く。

 そこに水を指すように、申し訳なさそうな顔で受付嬢が続ける。


「ですが、依頼をするにはそれなりにお金が必要です。危険はそれほどないですが、人に教えることのできる技量が必要ですから、だいたいこれぐらいかと…。」


 そう言いながら、パチパチと電卓を弾いていく。

 イコールを押して、出た金額をこちらに見せてくれた。


「銀貨15枚…。」


「えぇ、やはり、高いですよね。一回だけ、様子見としてされるのでしたら、もう少し安くなりますが。」


 見せてくれた電卓の表示には銀貨1枚。

 正直にいうと、銀貨15枚でも払うことは可能である。

 しかし、様子見をしてからの方が良いように思う。

 また、例の魔法士のようでは困るのだ。


 それに、この歳で即金で銀貨15枚を支払うとなると、流石に目立ってしまう。

 目立つことを避けたいエリザベートは、銀貨1枚で依頼を出すことにした。




 受付嬢は早速、クエスト表の作成に取り掛かり、張り出してくれた。

 仕事のできる人である。


 これであとは、受注されるのを待つだけだ。

 ギルドで待っていても、いつ受注されるかわからず、時間がかかることが予想されるので、外に出ることにした。


 ギルドの外に出たが、これと言って特にやりたいことがあるわけでもなく、どうしようかと考えながら歩いていく。

 以前来た際には、ほとんど平民街の中を回れなかったので、この辺一帯を見て回るだけでも楽しそうである。

 そんなことを考えながら歩いていたが、ふと顔を上げると、見覚えのある建物の前まで来ていた。


「あ、ここ…。」


 そこは、エマに案内されて来たことのあった、カフェだった。

 扉の前で、入ろうか少し迷う。


(せっかくここまで来たし、入ろうかな。)


 エマに連れてもらった時と同じように、涼やかな鐘を鳴らしながら中に入った。


 客に気が付いた定員がすぐに席へと案内してくれる。

 連れてきてもらった時は気が付かなかったが、かなり人の入りは良いようで、席もほとんど埋まっている。

 価格帯はエマも言っていたように、少し高め目の設定ではあるが、これだけ人が入っているのを見るに、とても評判がいいのだろう。

 実際、ティーセットは大変美味しかった。


 席に案内してもらい、ティーセットを頼む。

 待っている間、内装を見回す。

 レンガでできた空間をランタンの温かい光が照らし出し、壁には、額縁に入った絵が飾られている。

 テーブルや椅子も質のいいもので、客層も若い人から、年配の人までと幅広い。

 中には、カップルらしき人たちも見受けられた。


 しばらくすると、ティーセットが運ばれてくる。

 本日のメニューは、ストレートティーにアップルパイのようだ。

 案外シンプルである。


 アップルパイを一口食べてみる。

 甘さ控えめで、リンゴ本来の甘酸っぱさを感じることのできるものだった。

 紅茶を口に含むと、ふわりと花のような甘い香りが口の中に広がり、深い味わいである。

 誰もがおいしいと思うであろう、どこか懐かしい、ホッとできる味だ。


 おいしさに浸りながら、一人黙々と平らげる。

 紅茶の最後の一口を飲み終わり、コトリとティーカップをソーサーに戻した。

 すると猫のような身のこなしで、向かいの席に座る者が。

 まるで、食べ終わるのを見計らっていたようなタイミングである。

 少し釣り目の瞳がエリザベートを映すと、にこりと細められる。


「この前、エマと一緒に来てくれた子よね?二度目のご来店ありがとうございます。本日は一人で?」


 向かいに座ったのは、エマの知り合いである、この店の店長だった。


「はい、ここのティーセットとても美味しかったので。」


 エリザベートも、同じように笑顔で返す。


「あら、うれしいこと言ってくれるわ。そういえば、自己紹介がまだだったわね。私、この店で店長をしています、ユーナと言います。よろしく。」


 話しながら、急にかしこまり、自己紹介をしてくれた。


「よろしくお願いします。私、エイミと言います。エマさんには大変お世話になりました。」


「ええ、そうみたいね。…エマからはエイミーちゃんって聞いてたけど、エイミちゃんっていうの?」


「あ、えと、本当はエイミです。でも、エイミーって呼んでください。」


 いきなり、そこを突かれ、びっくりしながらそう答える。


「あぁ、どうせエマのことだから、聞き間違えでもしたんでしょ?あの子本っ当にそそっかしいんだから。」


 あはは、と笑いながら、曖昧にごまかす。


「じゃあ、エイミーちゃん改めてよろしく。」


 右手を出してくるユーナに自分の手を重ねる。

 挨拶が済んだところで、エマの居場所を聞いてみた。

 前々から、もう一度きちんとお礼をしたいと思っていたのだ。


「あー、今ね、あの子王都にいないのよ。帰ってくるのはしばらく先になると思う。どこに行ったかまでは詳しく聞いてないし、いつ帰ってくるかもわからないの。ごめんなさいね、お役に立てなくて。」


 申し訳なさそうの言われ、首を横に振る。


「あ、でも、帰ってきたら、エイミーちゃんがそう言ってたってエマに伝えておくわね。」


「ありがとうございます。」


「どういたしまして。」


 そこへ、店員がやってきて、ユーナの耳元で何かささやく。


「ごめんね、長話に付き合わせちゃって。ちょっと仕事できちゃったから私は裏に戻るけど、また良かったらお店に来てね。サービスしとくから。」


 ユーナは最後にウィンクをして、バックヤードに消える。

 そろそろ出るか、と席を立ち会計をすると、割引されていた。

 ユーナからのサービスらしい。


 外へ出るとそこそこいい時間になっている。

 今からギルドに向かい、受注されているか確認だけしてから、屋敷に戻ろうと、ギルドの方へ歩き出す。


 ギルドに顔を出すと、人でごった返していた。

 どうやら、依頼をこなして帰ってきた人達らしい。

 人の多さに、次からはできるだけ、昼間の人が少ない時間に来ようと思いながら、受付に並ぶ。


 漸く順番が回ってきたので、依頼を受けた人はいるか聞く。

 残念ながら、受注されていなかった。

 依頼の受注は、早いものであればその日に依頼が終了することもあるが、ほとんどは、数日から一週間はクエスト表は張り出されたままであることが多い。

 こればかりは、運に任せるしかない。


 仕方ないので、あきらめて家路につくことにした。

ありがとうございました。

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