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超魔導剣士の逃避行  作者: ジグ
第2章 亡国の魔神
7/10

私の真名

魔神イントミークは私の過去を知っているという。

呼び出された聖堂で語られる魔神の本性とは。

『どうしたの亡国の魔神、以前はもっと強かったはずよ。』


魔神の激しい二刀攻撃により逃げるので精一杯。

私の付与魔法も高いレベルで再現されている。


魔神は右手の十字架を構え、それを横薙ぎに振るう。

6Mほどの魔力の刃が付与された十字架。


防ぐことはできないため、回避する他ない。

前方に飛び込み、十字架の下を潜る。


左手の十字架はすでに振り下ろされていた。


“超能力:緊急回避(アヴォイド)


少々間抜けだが、地面に突っ伏した状態で後方に吸い寄せられる。

左の十字架が地面に突き刺さった瞬間に殺人的な爆風が生じた。


『見下げたものね。”人間の真似事”なんかするために自らの力を封じて。』


魔神は右手の十字架を投擲する。それは鈍重な音とともに私の背後に突き刺さる。


『人間のフリは楽しかった?・・・答えてくれないのね。』


左手の十字架を魔神の眼前に突き立てる。

二本の十字架は空に浮き、私を中心にゆっくりと旋回を始める。


2つの十字架から放たれる極彩色の光線が私を捉えると、

私自身の体も浮かび上がる。


体が疼く、究極魔法を放つときのような、体の奥底からせり上がってくる力が噴火する感覚。


『あなたは本当の姿に還る。』


稲妻に打たれたように体が激しく痙攣すると、視界が真っ暗に染まった。

意識を失った?転移させられた? 意識の異常は認められない。


暗闇の中で、私は何かの存在をぼんやりと感じた。目を細めるとかろうじてそれの輪郭が見える気がした。

あたかも深淵が私を覗き込んでいるようだ。


爛々と輝く4つの目が私を捉えている。

私は恐ろしさで震え上がった。


しかし、同時に私はその深淵の正体を知っている気がした。

それをとても頼もしく思っている。


手を伸ばしてみる。その深淵が私の手を掴み、闇の中に引きずりこむ。



視界が開ける。雪原に、地面に突き刺さった2本の十字架。

そして、魔神。


違和感がある。視点が高い。

手に持っている剣と盾が小さい。


剣を掴んでいる手首を見る、手のひらも。

真っ黒な外殻に、昆虫のような細長い四肢。


「なんだこれは!?」


私が魔神になっている?


『おかえり、ミアルケート。』


「ミアル・・・ケート」


頭が激しく痛む。割れるようだ。

脳裏にいくつもの荒廃した風景と、それと共にあるケルト十字を持った黒い影のイメージを見た。


『あら、案外冷静なのね。』


冷静、いや、混乱している。または事態を飲み込めていない。


「なんのためにこんなことを。」


『まだ思い出していないようね。いずれわかるわ。私たちの使命が。』


「答えになっていない!」


『生贄がいるわ。沢山ね。前の魔神、ジアグは失敗しちゃったみたいだね。』

『でも、殺戮の魔神ミアルケートが復活した今、かの勇者達が相手でも負けないわね。』


「私はそんなものに手を貸す気はないぞ。」


『グロウリーヘイブン聖堂に来て、あなたの過去を教えてアゲル。』


その魔神が転移の姿勢を取った瞬間、私は飛びかかった。

私の体から、敵の魔神と同じようなケルト十字が出現する。


“付与:譬ク辭ア蜑」”


なんだこの未知の魔法は。呪文体系が読み解けない。

が、手に持つ十字架に直視できないほどの赤い光が宿る。


私が何者だろうと生き方は変わらない。魔神をさっさとぶっ潰す。


大きく振りかぶり、叩きつける。


魔神は二本の十字で防ぐも、それは無残にへし折れる。


『くあっ!!』


渾身の一撃により、魔神の右腕を粉砕し、

その衝撃によりクレーターが出来上がる。


『流石に本物相手じゃ分が悪いか・・・。』


魔神は白銀の姿に変身する。

流線型の体が特徴的で、以前の姿とは異なり人に近い形をしており、その外殻は鏡のように辺りを反射している。


『私は”模倣”の魔神イントミーク。覚えておいてね。』

『じゃあ、聖堂で待ってるから。』


私は十字架を横薙ぎに振るい、衝撃波を撃ち出すも、イントミークは転移してしまった。


“模倣”の魔神。”本物相手じゃ分が悪い”。そして、この魔神の体に蓄えられた記憶が告げている。

イントミークが白銀の姿に変える前の姿は(ミアルケート)の姿であることを。


私は小さく肩を震わせて笑っていた。亡国の魔神などと呼ばれていたが、まさか本当に魔神だったなんて。


魔神の体から人間の体に変身する。

人の肉体に収まり切らない力は黒い石として結晶化した。


なるほど、ヘルミナの”ジアグ”や”イントミーク”の持っていた石はこれと同じものだったのか。


へし折ったイントミークの十字架の破片を拾い上げ、ギルド会館に戻った。


「取り逃したよ。」


ギルド会館の受付に破片を納品して、労力に見合わない微々たる報酬を受け取る。

口が滑っても”そのモンスターは魔神だった”などと言うことはできない。


「グロウリーヘイブン聖堂ってどこかわかる?」


受付嬢はイミル国の地図を取り出し、小さく丸をつける。


『ここからしばらく北上したところにある聖堂ですね。

今は使われている様子がなくて、どの宗教の聖堂なのかもはっきりしていないそうです。』


「わかった。ありがとう。」


このギルド会館には長らくお世話になった。

旅支度をして、グロウリーヘイブン聖堂に向けて旅立つ。


地図の指し示す場所は人っ子一人住んでいない辺鄙(へんぴ)な場所だった。

特徴的なものは・・・いや、今のイミルはどこへ行っても雪しかない。


雪、吹雪、雪原、雪山、そして雪、雪、雪。

初めて雪を見る人には新鮮かつ神秘的に映るかもしれないが、私に取っては没個性的で殺風景なものにしか映らない。


眩い魔法の街灯を辿って歩き続ける旅は、楽しむ景色はないしひたすら寒いし、快適とは程遠い。

さらに追い討ちをかけるように、寒いところにはタフなモンスターが多数生息している。


“炎の外套”を起動して暖をとる。


2-3日北上を続ける。究極魔法の影響が少なく、降雪量の少ないツンドラにたどり着く。

短草と、寒々しい空。赤色の植物と緑の植物のコントラストが綺麗だ。


地図ではこの辺りだが・・・縮尺の都合でかなりわかりにくい。


“風王の外套”を起動して空を飛ぶ。

上空から見ても建物らしきものは存在しない。


仕方ない。このまま空を飛びながら探そう。

冷たい空気で頰が切られるように痛む。


呼吸をするだけで鼻の中が凍てつきそうだ。

骨の髄まで凍てついた指先を炎の外套の暖気に当てて解凍しながらグロウリーヘイブン聖堂を探し始めた。


陽が傾いた頃に、聖堂と思われる建物を発見する。

厳かな雰囲気で、人の手が入っていないのか、壁面は苔むして、屋根は崩れ掛かっている。


重い扉を開き、聖堂に入る。


ステンドグラスの奥に夕日が煌めき、床にカラフルな光の絨毯ができていた。


祭壇に腰掛けている少女。

白銀の長い髪に、灰色の眼。白いケープ付きのワンピースを着こなしている。


『こんにちは。ミアルケート。』


「私はレオンハルトだ。」


『その”肉体”はレオンハルトという名前なのね。初めまして、レオンハルトさん。』


クスクスと笑う少女。


『じゃあ・・・私の肉体にはミハと名付けましょう。ミハって呼んでね。』


ミハと名乗る少女はワンピースの裾を持ち上げてうやうやしく礼をする。


「早く本題に入って欲しいんだけど。」


『せっかちな人は嫌われるよ。』


剣を居合抜きの要領で振り抜く。

超能力(アーツ):衝撃刃”。


衝撃波の刃がミハの真横スレスレを飛び、ステンドグラスを割った。

虹色に輝く破片が降り注ぐ。


「最近短気でね。」


少女はやれやれと頭を振る。


『私が話さなくても、あなたの魔神は話したがっているよ。』


青い石を取り出し、こちらに向けると、ポケットにしまっていた黒い石が呼応する。

石を取り出すと、それは微かに振動を始める。


『さあ、解き放って。』


確か、天に掲げるんだったな。

石を天に掲げる。


「何か言わないとダメ?」


『あれは景気付けよ。』


「そう。」


私は魔神の姿に戻る。

あの時のように視界が暗転する。


爛々と輝く4つ目が私に語りかける。


[少し、体を借りてもいいかな?]


「お好きにどうぞ。」


それから意識は聖堂に戻ったが、まるで自分を俯瞰しているような不思議な感覚に陥った。

まるで夢の中で、体が勝手に動く。


眼前には体が鏡のように周囲を反射している魔神イントミークがいた。

変身したのだろう。不思議な反射光で聖堂が神秘的な光に包まれた。


『ミアルケート。私もあなたのことを聞きたいのよ。なぜ人間に味方するようになったのか。』


魔神ミアルケートは、私にもわかるように事の顛末を語り始める。


====================

遥か昔、この星が創造されて間も無く10柱の支配者が産まれた。

神は彼らの誕生と同時に死に、10の支配者はその力を分け合った。


悪逆のジアグ

模倣のイントミーク

殺戮のミアルケート

謀略のコーノイウラ

呪詛のアズーファ

神聖のハルディア

恋慕のアーカイレン

善行のガーディルナ

親愛のニルケルン

祈祷のホーリマイア


10の支配者は創造されて間もない星に秩序と概念を生み出し、

多様な環境を創り出した。


悠久の時を経て、生物が誕生し、さらにまた悠久の時を経ると、

知を繰る生き物が誕生した。


ニルンケルンは、その生物に親愛の概念を与えると、その生物は家族を作ることを覚えた。


それを見た他の支配者達は、想い想いにその生物に自らの概念を分け与えた。


ガーディルナは尽くすことを。

ハルディアは清く生きることを。

アーカイレンは想うことを。

ホーリマイアは信念を持つことを。


人間は社会的な絆を持つ生き物になった。

しかし、人間達は脆弱で善良で、他の生物達の格好の的になってしまった。


見かねた5柱の支配者は続けて自らの概念を分け与える。


ジアグは時に残虐になることを。

イントミークは優れているものを自らに取り込むことを。

ミアルケートは狩猟を。

コーノイウラは強きものを挫く知を。

アズーファは自然を繰る力を。


人間達は他を傷つけ、さらに優れた知を身につけた。

しかし彼らは同時に混乱した。


相反する概念の解釈に苦しみ、他の人間も敵だとする者さえ現れた。

愛とは、憎しみとは、敵とは、味方とは。


自らに害をなす者も敵なのではないか。

他者を傷つける力と知恵は同族に向けられ、それが初めての戦争であった。


善く生きるために授けた力が、彼らを不幸にしたことを支配者達は嘆いた。


これ以上人間達が混乱することを避けるために、支配者達は手出しをするのをやめた。


(中略)


人間達は生活圏を広げ始めた。

彼らは支配者達の領域にも足を踏み入れ始める。


ジアグは何度言って聞かせても領域に入り続ける人間を殺して示した。


人間達は怒り狂い、与えられた概念の全てを駆使してジアグに挑んだ。

見かねたニルケルンは人間とジアグの間に割って入ったが、怒り狂った人間のジアグを殺める呪文を込めた矢に撃たれて(たお)れた。


ジアグ、イントミーク、ミアルケート、コーノイウラ、アズーファは激昂した。

支配者と人間達の戦争はわずか3日で終結し、人間はその数を大きく減らした。


そして、人間達は支配者達を魔神と呼び畏れるようになった。

====================


ミアルケートは私の口を借りて、さらに続ける。


「人間達との争いの後、長い眠りについた。」


「長い眠りから目覚めた後、善き支配者達は皆人間に弄ばれて殺されていた。」


「ジアグは何度も人間達に侵略をするようになっていた。」


「だがある時、人間の中にアーカイレンに似た面影の少女がいた。」


「ああ、愛しいアーカイレン。私は彼女を愛していたのだ。」


ミアルケートと繋がった心で、深く悲しみ嘆いていることが伝わってきた。


「また僕ら支配者との戦いでアーカイレンが死する事を、アーカイレンが支配者の手で屠られる事が耐えられなかった。」


「身寄りのない彼女に結びつき、生きる全てを与えた。殺すための全ての力を。」


「名前のない彼女に、人間達が使っていた言語からいくつか選んで名前をつけた。」


「”あああああ”という名だ。”あ”という言葉は全ての始まりらしい。」


その名前は、私の本名だった。

ミアルケートはくすりと笑って続ける。


「どうにも彼女は気に入らないらしくて、ある日からレオンハルトと名乗った。」


「私は人間に味方しているのではない。愛するアーカイレンの面影を、愛するレオンハルトに味方しているのだ。」


イントミークは頭をあげる。


『その少女のためにジアグを殺すことも厭わなかったというの?』


ジアグ、ヘルミナとオリアクと共に倒した魔神の名のようだ。


「そうだよ。」

「イントミーク、君は今だに人間に復讐する事を使命としているようだけれど、僕は違う。」


「もしその過程でレオンハルトを歯牙にかけようというなら。」


おぞましい殺気が放たれる。

心の中にいる私さえも身動きが取れなくなるような、呪いの籠った殺気だ。


「支配者を皆殺しにしてでも止める。」


イントミークは後退りする。祭壇に体が当たって止まる。


『ミアルケート・・・その子はアーカイレンじゃないんだよ。彼女はもう死んだんだ。』


「知ってるよ。でもこの子は良い子だ。人間が全員邪悪なわけじゃない。」


『じゃあ・・・見せてあげるよ、アーカイレンを殺したときのような人間の本性を!』

『首都インスグリースに来て!』


イントミークは極光とともに消え去った。

心がミアルケートと入れ替わる。


[びっくりしたかい?レオンハルト。]


「本当にびっくりしたよ。」


まさか、私の名付け親が魔神で、さらに自分自身で身につけたと思っていた力さえも与えられたものであったとは。

ずっとずっと、魔神の加護を得て生きていたのだな。


[もし良ければ、今後とも君を護らせてくれないかな。]


「ふふ、死ぬまで護ってね。」


ミアルケートは以前のように、心の奥底へ消え去った。


行こう、イントミークを止めるために、イミル国の首都インスグリースへ。


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