ありきたりの第一話
超魔導剣士レオンハルトは任務の隙に逃亡する。
新しい身分で、お金を稼いで第二の人生を謳歌したい。
しかし、早速差し迫った問題が・・・。
私はこの日を待ちわびていた。
久々の遠方の地での任務。いや、任務は全く楽しみではない。
楽しみなのは、その後の計画だ。
『レオンハルト様、到着致しました。』
レオンハルト、とても男らしい響きで気に入っている。私は女だが。
本名は・・・故あって名乗らない。君がもし私と同じ本名だったら、絶対に名乗りたくないはずだ。
「あぁ。」
剣よし、盾よし、呪符よし、バッグよし。
荷物を確認すると、魔法で作られた馬車を降りた。
とても涼しい短草地帯。大きく深呼吸すると、肺がいっぱいの草の香りで満たされた。
『レオンハルト様、本日は大荷物ですね。』
げげっ、なんか怪しまれてる?
「この近辺で昼食?でも取ろうと思ってな・・・」
露呈するアドリブの弱さ。我ながら情けないが、隠し事は苦手なタチなのだ。
『あまり羽目を外さないでくださいね。では我々はここでお待ちしておりますので。ご武運を。』
護衛に手を振って、任務に取り掛かる。
今日は確か、古代兵器デルタとかいうやつの討伐。
すでに3つの街を焼き払い、7つの討伐隊を消し炭にした。
困り果てたグリニア国はイミル国に援助要請を。そしてイミル国は私に援助要請を。
ちなみに報酬の8割はイミル国が持っていく。
想像を絶する中間搾取だ。恐るべき二次請の現実に打ちひしがれた。
だが、それも今日で終わり。古代兵器デルタを倒した後に私は脱走する!
草が何か重いものに潰されたような形跡がある。それは道のように一直線に繋がっていた。
ついでに異臭を放つ廃液も。
痕跡を追いかけること20分。古代兵器デルタと思わしき六足の機械を発見する。
“赤熱の投擲槍”
魔法で炎の槍を作り出す。まずはお手並み拝見。
炎の槍は一直線に飛翔し、デルタに直撃する。
爆発が起こる。それから1拍おいて爆音が。
デルタは進行する足を止める。こちらの存在に気がついたようだ。
無傷。遠くてよくわからないが、おそらく無傷だろう。
古代兵器特有の”対魔法Ⅲクラス”の防御性能。
赤い光が、デルタの丸い目から私の頭をつなぐ。狙われてる?
私は力強く地面を踏み込むと、”絶冷の氷柱”を発動する。
私とデルタの間に、大樹のような氷の柱が生える。
数秒の間もなく、デルタから放たれた熱線で、爆音と共に氷の柱が抉れ、高熱で溶かされていく。
遅れていたら間違いなく消し炭になっていたことだろう。
“風の外套(移動高速化、跳躍距離増加)”を発動する。強い風が体を軽くする。
魔法の力を借りて一気にデルタへ肉薄する。
“衝撃弾”を放ち、脚を3本弾き飛ばす。
体制を崩したデルタは熱線を放射しながら転倒する。
剣を引き抜き、魔法を発動する。”付与:超熱溶断”
精神を統一し、強く踏み込むと同時に剣を振り上げる。瞬間、剣から真っ赤に輝く閃光が解き放たれ、デルタの巨大な鋼鉄の体を溶断した。
真っ二つになった鋼鉄の塊がズルズルと切断面に沿って崩れていく。
剣を収める。さて、本題はここからだ。
派手に上級魔法をぶっ放し、仕留めたことは向こうにも伝わっているはず。
追っ手を殺さず、監視員と護衛を撒く必要がある。
“風王の外套”を発動する。全身が竜巻に覆われて空高く飛び上がる。
呪符を二枚取り出し、魔力を流し込む。”透明化”と”動物擬態”。
体を透明にする魔法と、透明魔法を看破された場合に働く自分を自然動物に見せかける魔法が入った呪符だ。
炎とか、氷を繰るような自然魔法は超得意分野だが、上記のような変わった特性の魔法は苦手なのだ。
だから、呪符に頼る。
自分の体が透明になることを確認すると、私はひたすら南に飛び去った。
—超魔導剣士の逃避行、開始。
脱走から3日目、グリニア国領内 グリニア城下街。
私は激しい胃の痛みに襲われていた。原因は城下街の至る所に貼られた指名手配書。
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指名手配者:レオンハルト
危険度:EX++
概要:
イミル国の最高戦力、超魔導剣士レオンハルト様がグリニア国で逃亡。
指名手配者は過去に1国を永久凍土に変えた他、魔神を討伐する戦果を上げており、
国及び大陸に甚大な影響を与える可能性があるため、国の管理下に置かれていました。
幸い、指名手配者の人格は良好なもので、好戦性は認められませんが、
発見した場合は直ちに憲兵隊へご一報ください。
以上。
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「もう指名手配されてるし・・・。イデデデ・・・。」
三角帽子を目深に被り、半袖のシャツに着替え、胸当装着する。これでとりあえず指名手配に記されている格好から変装できた。
とりあえず、食料を補給して城下街を出よう・・・。
そそくさと街を出て行きたいが、そもそも食料を補給する金がない。
銀行に行けば使い切れないほど金があるが、私の名を出して金を下ろした瞬間に衛兵に追いかけ回されることになるのは明白。
指名手配とは厄介なものだ。
日雇いのバイトでもするか?ウェイトレスさんとかやってみたいな。
シャツの胸ポケットに何か入っていることに気がついた。
ああ、これがあったか。
ギルド手帳。国や個人から仕事を請け負って報酬を得るバウンティハンターに与えられる手帳だ。
無論、今の手帳の名義は指名手配済みなので、別名で再度登録しよう。
ーギルド会館にて。
『ギルド手帳を拝見いたしますー』
「いや、あの、新しく登録したいんですけど」
『新規のご登録ですね。かしこまりました。ではこちらの用紙に記入の上、お待ちくださいー』
一枚の紙が渡される。
名前、年齢、性別、住所、魔法は使えるか、武器を扱えるか、クラン加入希望、ロール。
とりあえず上から書いていこう。
名前、レオンハルトは使えないよね。レオンにしようか、ハルトにしようか。 “ハルト”っと。
年齢、”17”っと。16にしておこうか?まぁいいや。
性別、”女”っと。
住所、”不定”。
魔法は・・・”使える(自然魔法)”。この書き方でいいのかな?
武器を扱えるか。 片手剣と盾を少し。
クラン加入希望? クランってなによ。 “希望しない”っと
ロール・・・近接系。
ちなみに実年齢は25だ。過去に入手した”不老の妙薬”で17歳の時の姿のままにしている。
受付のお姉さんに用紙を提出する。
『では、加入に際して試験を受けることを義務付けられています。最短で1時間後に試験が行われますがいかが致しますか?』
試験?昔はそんなものを受けた記憶がなかった。
「試験って・・・なにするんですか?」
受付のお姉さんは慣れた説明口調で話し始める。
『はい。具体的には2つの試験がございます。1つは魔力保有量のチェック。こちらは簡単な測定となっております。』
『もう一つは加入試験、闘技場にてダイアウルフを2頭討伐していただきます。』
「じゃあ1時間後に試験を受けます。」
なるほど、しばらくギルドに参加していなかったが、こんなことになっていたのか。と感心する。
昔は用紙を書けばすぐ手帳を発行してもらえたものだ。そのせいで実力のない人が3日ともたず屍になることもあった。
1時間後。魔力の測定。
『ではこちらに手のひらを乗せてください。』
なにやら魔法陣が描かれた真っ黒な紙が台に載せられていた。
そこに手を置けということか。
手のひらを置いた瞬間、紙が真っ白になる。
試験官の顔は真っ青になる。
『少々お待ちください・・・』
何やら他の試験官と相談をしているようだ。
一枚の紙をこちらに渡し、『加入試験にお進みください。』と言った。
紙には”測定不能”と記載されていた。
矢印の指し示す方向に進むと、闘技場の控え室に出た。
負傷して治療を受けているもの、自信に満ち溢れている者。様々な人が控え室で過ごしていた。
『ハルトさん!ハルトさんはいらっしゃいますか?』
試験官と思わしき人に呼ばれる。
「私ですが。」
名前からイメージした性別と異なるのか、手に持っている用紙と私の容姿を何度も確認していた。
『あなたですか。試験を開始します。このまま闘技場に出てください。』
『敵はダイアウルフ2体。移動不能以上のダメージを与えた場合、あなたの勝利です。敗北条件も同様に、あなたが移動不能以上のダメージを負った場合とします。』
『では位置について。』
闘技場に出る。観客はわずか数人程度。
『戦闘開始!』
門が開き、ダイアウルフ2頭が解き放たれる。
お互いに警戒し、背後を取るようにゆっくりと旋回する。
ここで瞬殺した場合、余計な詮索が入るかもしれない。
まずは低等級の魔法で牽制する。
剣を突き出し、呪文を発動する。”低衝撃弾”
剣の先端に小さな衝撃の弾が生成され、ダイアウルフ1頭を目掛けて射出される。
これで相手は気絶する・・・はずだ。
しかし読みが外れた。ダイアウルフに直撃した”低衝撃弾”はダイアウルフの頭部を破裂させ、
あろうことかそのまま胴体を貫通して闘技場の外周壁にまで着弾し、ヒビを入れてしまった。
とてもまずいことをしてしまった気がする。
もし普通に”衝撃弾”を撃っていたらどうなっていたことか・・・。
これで望まぬ注目を浴びることが確定した。さっさともう一体も始末しよう。
“付与:氷の棘”
盾に氷の魔法をエンチャントし、ダイアウルフに背を向ける。
本能的に私に飛びかかるダイアウルフを盾で殴り返した。
付与された魔法が発動し、氷の棘がダイアウルフを貫く。
随分血生臭い展開になってしまった。そそくさと闘技場を抜け出し、控え室の隅に駆け込んだ。
『闘技場の清掃を行います。次の試合までしばらくお待ちください。』
余計なアナウンスのせいで控え室の人の視線が私に集まった。
ともかく、これで合格だろう。
『素晴らしい戦いぶりでした。』
試験官から新しいギルド手帳を受け取ると、逃げるように闘技場から去る。
変な注目を浴びて身バレすることは避けなければ。
しかし、ギルド会館の出口には2人の巨漢が待ち伏せていた。
『試験に合格おめでとう。ハルト君だったかな?』
『我々は有能な若手が誕生することを心より喜んでいる。』
『どうだ?早速仕事をしないか?』
金を得るためにギルドに登録したのだ。
早々に仕事にありつけるのはありがたい。
「何をすればいいんですか?」
『簡単ではない。闘技場でサイクロプスを1頭討伐してほしい。』
サイクロプス。中堅のハンターが徒党を組んで挑戦する相手。
たった今、ハンターになったばかりの者がサイクロプスを狩るのは流石に目立ちすぎる。
「すみません。私の手に負えるものではありません。」
『金貨20枚。スイートルームで3週間は遊べる。馬車を借りれば国境も出られる。』
ここで私は思案する。
断って悪目立ちするのを防ぐか、それとも請け負ってさっさと国を出るか。
流石に新人がサイクロプスを狩った程度で噂話が国境を超えることはないか?
ほとぼりが冷めた頃に活動を再開すれば万事OKか?
『なら、参加するだけで金貨10枚。勝てば20枚。これでどうだ?』
参加するだけで金貨10枚?これは即決だ。
”期待の新人、サイクロプスに挑むも敗北。” 大きな話題にならないし、金ももらえる。
「わかった。それなら受けるよ。」
『OK, ハンターならそうこなくっちゃな。急な話で悪いが今晩9時から頼むぜ。』
ひとまず宿に戻ろう。
自分の指名手配書の横で食べる夕食は非常にマズかった。
とにかく、サイクロプスに負けたらとっとと街を出て・・・どこへ行こうか。
地図を広げてみる。
グリニア城下街を街道沿いに南下すると、霊峰オークトノスがある。
オークトノス・・・そうだ。あのヘタレ賢者が隠居している山だったはずだ。
ヘタレ賢者オリアク。回復魔法と人を呪うことが世界で最も得意な大賢者。
私とヘルミナとオリアク。魔神を討伐した時に一緒にPTを組んだ仲だ。
あの後、私が”超魔導剣士”と呼ばれるようになったのと同じように、”呪王”とかいう偉そうな称号を授かったと聞いた。
ヘルミナにも会いに行ってみようか?とりあえず優先はオリアクだ。
魔法に優れたあいつなら逃亡生活の手助けになるアイデアの1つや2つひり出してくれるはずだ。
あいつはヘタレだが役に立つ。
そろそろ8時20分だ。闘技場に行かなければ。
ーギルド会館 闘技場
控え室まで聞こえてくる歓声。どうやらこの街の娯楽は夜の闘技場のようであった。
血生臭い闘争と、賭博がグリニア城下街の夜を盛り上げる。
外から何やら聞こえてくる。
『Ladies and gentlemen。本日のメインディッシュの始まりだ。』
『北門!捕らえたてホヤホヤの歩く災害、サイクロプス!』
ドッと歓声が上がる。鞭の音とともに、サイクロプスの怒号も。
『南門!本日ハンター登録した新人ハンター!しかし侮るな、新人ながら強烈な魔法を披露してくれた”大型”新人だ!』
闘技場の門の前に立つ。3Mほどもあるサイクロプスの青い巨体が見える。
『さて、みんな賭けたか!? なんだこれは!サイクロプスに8割、新人ハンターに2割の投票だ。
新人ハンターが勝ったら大儲けだな2割のギャンブラー!』
『じゃあ行くぜ!試合開始!』
門が開く。本日2回目の闘技場。
サイクロプスは私よりも、他の”何か”が気になっているようで、しきりに威嚇行動を繰り返していた。
まずこちらの相手をしてもらわなければ負けようがない。
“火球” を発動。 拳くらいの大きさの火球がサイクロプスの腹部に直撃し、小さな爆発を起こす。
『おおーっと!ここでファイアボール炸裂!しかしそんな低級魔法ではサイクロプスを怒らせるだけだ!』
明らかに裂傷と火傷が見て取れるが、まあいいだろう。
サイクロプスは私を視認し、吼える。
巨大な足で迫り、摑みかかろうとしたところを股下をくぐり抜ける。
そのまま走って距離を取る。
『このまま逃げ続けようというのか新米くん!』
サイクロプス渾身の右ブローをくぐり抜け、続く左ブローを盾で防ぐも、弾き飛ばされる。
激しく壁に衝突する。
『新米くん健闘虚しく即敗退か!?』
トドメの一撃を刺される準備をしていたところ、サイクロプスは何故か闘技場の東門へ歩み寄る。
『何だあれは?』
東門がいつの間にか解放され、そこにはボロを着た少女が立ちすくんでいた。
胸には香水瓶がぶら下がったペンダント。
この香り、挑発剤か。
開戦直後、私に目もくれずしきりに威嚇行動をしていたのもこれが原因のようだ。
とにかく、身バレだとか金だとかそれどころじゃない。
あの少女を助けるんだ。
“風の外套”、”固体化結界”。
私は飛ぶように少女とサイクロプスの間に割り込む。
少女を抱えて、東門から西門まで駆ける。西門付近に少女を置き、シャトルランのごとく反転してサイクロプスに体当たりをかます。
サイクロプスの左ブローを固体化結界が無効化し、右ブローを盾で弾き返す。
体勢を崩したサイクロプスの右足、左足と流れるように腱を断つ。
しかし、腕力だけで上体を起こしたサイクロプスは腕を地面に引きずりながら振り回した。
不意の一撃に体勢を崩すが、剣を地面に突き立てて吹き飛ばされるのを防ぐ。
再び腕力のみで移動し、少女に迫るサイクロプス。
「ええい、ままよ!」
“衝撃弾” を発動する。衝撃の砲弾がサイクロプスに着弾すると、その巨大な図体を軽々と吹き飛ばす。
吹き飛ばされたサイクロプスは闘技場の壁と観客席の一部を破壊して沈黙する。
しばしの静寂の後、決着を見届けた観客は一斉に歓声をあげる。
少女に詰めより、尋ねる。
「誰に連れてこられた!」
少女が指を指した先には、レオンハルト付きの護衛兵。つまり古代兵器デルタを討伐した際の付き添いの兵士がいた。
賞金の金貨20枚を受け取り、護衛兵を人影のない場所までつまみだすと、胸ぐらを掴み上げて詰問する。
「あんな少女を囮に使って、何のつもり?」
『レオンハルト様こそ、身分を偽ってまで何をしていらっしゃるのですか?』
『グリニアでのレオンハルト様の脱走、同時期に現れた凄腕の新米ハンター。容姿はそっくり。』
『3年レオンハルト様に仕えて参りました。あなたのことは大方理解しているつもりです。』
『現にあなたは今、身分を偽ることも忘れて私に詰問している。全て私の計画通りです。さぁ戻りましょうレオンハルト様。』
幼い命を、私をつり出すためだけに危険に晒したこの男に私は激昂する。
「そんなことのためにあの子を囮にしたというのか!」
『あなたは立場を理解していない。魔神を討伐したり、国を凍らせるような力を持った方が誰にも管理されずに世界を闊歩するなど!』
護衛兵が最後まで言葉を言い切る前に眼前にたぐり寄せる。
「追うのは自由だが戻るつもりはない!また人の命を使って私を釣るような真似をしたらその首を胴体から切り離してやる。」
掴んだ胸ぐらを離し、軽く威圧してから宿に戻る。
途中、依頼主が賛辞を送ってくれたが、素直に喜ぶ気にはなれなかった。
超魔導剣士などと呼ばれるようになってから、毅然とした立ち振る舞いや言動が求められた。
国の言いなりになったり、性格を偽って暮らすことはこの上ない苦痛だった。
やっと解放され、超魔導剣士然とした態度も取らずに済むようになったと思ったのに台無しだ。
ー翌朝
早朝から馬車を雇い、霊峰オークトノスに向けて出発する。
さもなくば、昨晩闘技場を盛り上げた一夜のヒーローとして宿屋で足止めを食らうこと必至だからだ。
今日はあのヘタレ賢者を思いっきりからかってやろう。




