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06.魔法を見せて下さい

「魔力というのは、<魔血(まけつ)>という血と同じ循環型の液体で、初めは凝固した___つまり管に詰まった状態。それが高揚感などの感情変化で液体化し、循環し出している魔血を魔力素といいます。

 まだ話の途中ですが、マスターも一度はあるんじゃ無いですか? 有り余る高揚感というのは」


 そう聞かれると、少し心当たりがあることに気がついた。

 今日、半端なく抑えきれない喜びというか、昂りを発散するまで動きまくってたな。たしかに、気分は高揚しているという事で間違いはない。


「……ある」


 俺が太ももを掻きながらそう言うと、エレンちゃんはさらに早口で言い出した。


「その有り余る力が、魔力素なんです。昂りを発散し冷静になれば、さっきできていたことが出来なくなっていたってこともあるでしょう? それは、魔力素が循環をやめ、凝固したからなんです」

「……ふーん」

「それでですね___」


 俺はその言葉を遮った。


「今から話すとこ悪いけど、その何たらかんたらどーのこーのってなる魔力素は結局何になるの? というか、何処にあるの?」


 今から話すところ悪いと思うが、流石に長そうだったから、せめて理解しようと端折ることを願った。


 今日は疲れ切って早く寝れると踏んだのだが、未だ寝られない身体。身体は疲れているのに頭が冴えて眠れない。

 俺は毛布で身体を巻くと、壁にもたれかかった。


「んで、どうなのそこんところ」


 冷える爪先をもじもじと合わせる。


「そうですね……。説明を端折ることになりますが、いいですか? マスター」

「おーけー」


 軽く天井を見上げる。


「了解しました。___魔力素が循環する管というのは、血管と同様で「魔血管」といい、それが存在しています。その魔血管の場所は「神経」と隣接した場所に、神経よりも少し小さく存在しています」


 端折り過ぎたのがいけないのか?

 何とか理解しようとしたが、何というかあり得ないに尽きる言葉だ。


 なんだよ魔血管って。神経より小さい? それが管で血があって循環してるなら、血の勢いで破裂するわ。


 そんな、ツッコミたくなる気持ちを抑えつつ、話が終わるまで黙って待った。


「つまりですね、私が伝えたい事は身体の重要伝達部位であり、体全体にあるということです。次に魔力ですが、端折ると体外放出状態の魔力素の事を魔力といいます。その魔力で肉体強化や魔法が出せます」


 うん、信じられん。

 なら確かめてやろう。


 布団をマントのように羽織ると、俺はエレンちゃんの下まで言って問いた。


「なぁ、エレンちゃん」

「はい、なんですか? あ、話はこれで終わりですよ」


 エレンちゃんは後ろに手を組んでフラリと足取り軽く下がる。


「わかった。それを踏まえての話だ」

「わかりました」


 その声を耳に留めながら、ふと上を見上げれば時計の針に目がいった。

 時計の時間は21時を指しており、話を始めてから1時間近く経っている事に少し驚きながら頬を掻いて、逡巡。


「えっとな、その魔法とやら見せてくれよ」


 魔法なんてない。そう、ないのだ。それが在る、出来るというならやってみな。


 俺はそう少し嘲笑いながら行った。


「……わかりました___実演したほうが分かりやすいですからね」


 エレンちゃんはそんな悠夜を見て「見てて下さい」と深く息をつき、黙々と言葉を紡ぎ出した。


「我、(ひょう)を操る」


(ひょう)のカケラ」


 そう言葉を口にした途端、空中に仄かに青い文字がエレンちゃんを中心に円を描いて現れる。


「事象となり」


 その文字達は、次にエレンちゃんを中心に回り出した。


「顕現せよ」


 そして、文字は動きを止め、強く発光する。


氷塊(アイス)


 最後にそう唱えた瞬間、現れた文字は霧散し、その代わりに氷が目の前に現れた。


 冷気は重さで下にゆっくりと降りて行く。それから感じる冷気は「本当に冷たかった」。


 おいおい、嘘だろ……。


 掌台の大きな氷だが、そんなものはさっきまでなかった。なにより、空中に浮いていることが信じられない。


「これが魔法です」


 自信満々にそう言われた。

 確かにあっと驚くような光景。


「マスター、信用してもらえましたか?」

「あー、んー、ごめん全然」


 手も張り付く感じ、冷たくて硬い。跳ね返ってくる音も本物の氷のようで、いや、これが魔法で創り上げられた氷なんだろうけど……。


「マスター、私に何ができたら信用してくれますか?」


 手に取った掌台の氷で、観察しながら弄んでいるとエレンちゃんがそう言ってきた。

 それに「んー」と吃ったのは言わずもがなか。


「じゃあ、この木刀にしよう」


 俺は、タネが仕掛けてられなさそうな木刀を手にしてそう言った。


「この木刀にその魔法とやらで、柄を残した刃の部分に"水"と"火"の(やいば)でも作ってくれ」


 そう言った悠夜は、剣先を天に刺す。


 魔法ならそういう事はできるだろう。ゲームだって炎剣と水刃剣とか。でもそれって、現実じゃあ不可能だ。


 特にでいうなら、火はマッチ棒で何とかなるが水は絶対無理だ。大体、火を半分残して水も半分残すなんて不可能。水なんて、剣に半分だけ纏わせるとか物理法則もおかしい話になる。炎なんて、火のついていない柄に向かって上ってくる。


 その他諸々不可能だ。


「良いですよ、お安い御用です」


 なのに、全く見当違いの返事。



 そして気がつけば___



 ___そこには燃え盛る火と宙に浮く水を纏った剣があった。


「え、は?」


 剣先の炎は少し熱量があり、手を伸ばすが熱さに手を引いた。なにより頬が少し熱い。柄の部分は熱く無いのに。

 反対に、水の方を触ってみると、確かに水だった。

 触る時も水の膜があるとかじゃなくて、風呂に入る時みたいにスッと入る。それに、少ない水量で近くに炎があるのに、一向に蒸発する素振りどころか熱くもならない。ずっと冷たい。


「ヤッバ」


 眼に映る"それら"は間違いなく目の前に起こっている。ありえない現象がそこに二つも起きている。


「どうです? マスター」


 俺は、呆れたというよりも、今から疲れそうな事を予期した時の顔をした。


「なんか、こういう非現実イベントってラノベのようだな」


 はぁ……。


「分かった、ある程度前向きに考えてやる事にしようか」


 あんなのを見て魔法が嘘だなんてあり得ない。ならば有ると、否、在るのだと定義するしかない。少し、いや、我ながら早い決断だが、つまりだ。俺は信じる以外出来なくなっている。寧ろワクワクしている。だってそれが本当におこった「事」で、誰も知らない未知だからだ。


 ただ、それに加えてもう一つ気になることがある。


「でだが、信じるにつき、一つ聞きたいんだエレンちゃん。君は一体何者なんだ?」


 エレンちゃんはそれに間を作る訳でもなく、言い篭るでもなく、普通に___どちらかと言えば即答で___笑顔で答えた。


「エレンとお呼びくださいマスター。マスター、私は魔力生命体。今は(・・)あなたにしか見えないだけの生き物です」

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