ー 6 ー 再探索
「これより、緊急ダンジョン対策会議を開きます」
長いソファーに、長い机。
そして、それぞれの地位を持つ者達が位置について、その高い声を聞いていた。
しかし、その机の上に用意されていたのは書類のみならず___緑色の液体___ポーションが人数分置かれていた。
「で、一体何が起きたんだ。ダンジョンの事だ、ある程度の無茶振りは聞こう」
そう、総理___奥田一馬総理大臣___が前置きとして発言し、その言葉を聞いた防衛大臣___菊野陽子防衛大臣___が変わるようにして発言した。
「今日昼頃、ダンジョンに潜っていた自衛隊員全15名が帰還致しました」
報告書をチラリと見つつ、前を向いて。
トントンと椅子の膝置きを叩く一人に目を向ける。
「それがどうした」
革張りの椅子の膝置きを淡々と叩きながら毛利財務大臣___毛利安利財務大臣___が怠そうに言った。
最近あった不祥事の追求による議論、連日の仕事量、特にダンジョン系の出費、後始末。諸々な事に疲れているのだろう。
そんな財務大臣を片目に、報告文を読み上げる防衛大臣。
「今回の探索で一人身元不明の人物を救助しました」
「ん? ダンジョンでか?」
総理は少し身を乗り出すようにして問う。
「はい、そしてまたこれが厄介な説明になるのですが___」
それから5時間が経っていた。
「はぁ……。また仕事が増える」
「心の声が出てますよ毛利財務大臣」
「いいだろ別に。もう、いや」
全てからの瓶。
カラ瓶は、それぞれの人の姿を歪めながらも映し出していた。その中で一つ、悶々と黙りこくる空気の中で口を動かした者がいた。
「では、以上でよろしいですね」
その総理の言葉を聞いて、菊野防衛大臣は片手でめくっていた書類をパサリと閉じる。
「はい。ある程度の方針も決定しましたし」
「皆さんも、異論はありませんね」
それに各々頭を縦に振る。毛利財務大臣だけは少し嫌そうであったが、異論はないようだ。
「これで、緊急会議を終了致します」
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「ではこれより、8階層救出任務に向かう。準備はいいか」
視界に収まりきらない30人程の隊員。
それぞれ一斉に声を荒げる。
もうやる事は終わっている。後は中に入るだけの仕事だ。しかし、慎重さを欠けば何もかもが崩れてしまう。計画というものはとても緻密で繊細なものだからだ。
「では、行くぞ」
目標階層は8階層。
だが、俺たちの現段階でのレベルは100と少し。これでは確実に失敗する。
だから、ここは彼女の出番であった。
「ねぇ、私はとどめを刺さない程度に魔物を殺せばいいの?」
「ああ、手筈通りで頼む」
「おっけー。そういうの慣れてるからいいよ。……でも、30人規模か。みんなの為だと思ってがんばろ」
「頼む」
俺たちの足取りは滞りなく、順調に進んでいった。
今回は救助という名目上急がなければならないから、足早に進んでいる。そのお陰でもある。
ある程度の魔物無視するというのも手だからだ。
そうして5階層に到着した。
扉は依然としてしまっている。
「確か、復活している、だったか」
「うん、2回検証したから間違いないよ」
大きな扉。
俺はその扉の前に立ち、軽く押す。
すると、ゴゴゴゴと開き始めた。
「でだが、ボスは誰なんだ」
最後に気になり聞いてみる。道中でも言ってくれなかったから、少々気が狂っている。
あとワンピースが足りないもどかしい気持ちが先走るのだ。
「見たらわかるよ」
彼女はそう言って中へと入っていく。
中は前と変わって暗かった。だが、彼女が歩いていくにつれて壁掛けの松明が火を灯していっていた。
「さーて、トドメは刺さない様に……か。行ってきます」
まだ、全隊員が入る前のことである。
気づけば彼女はそう行って暴風を荒げ起こしながら走った。と思えばどさどさっと何か重たいものが落ちる音が前方から聞こえてきた。
「おーい、早く来てー。ちょっとミスったから死ぬかも知んない」
そんな言葉に実感という気持ちすら湧かなかった。只々、何が起こったのかよく分からない。
実際、俺たちはまだそのボスの姿を確認していないから、倒されたのかも分からない。
「早くー」
しかし、彼女がそういうのなら、そうなのだろう。
彼女は、強力な助っ人だ。軽く体力測定をしたが、尋常じゃない力を保持していた。やはり、8階層というのは伊達ではないようだ。
「ぜ、全隊員、突撃!」
剣を引き抜き、声を響かせる。
タタタタと高速で足を動かせば背後からも同じように足音が聞こえてくる。
「目標は弱体化、トドメを刺すぞ!」
そして、見えたその姿は___
「鬼……?」
背後の隊員の邪魔にならないよう飛び越えながら、下を見た時のこと。その苦しみに喘ぐ、奇妙な面をした筋骨隆々の生き物がいた。8mはある。
「黒鬼、って勝手に呼んでる。見掛け倒しだよ。さ、全員一回は刺してるし、全員に力が振り分けられるでしょ。隊長、首搔っ攫っちゃって」
そう、彼女に背中を押されるようにして、俺は戦ってもいない、得体の知れないバケモノの首を切り落とした。その瞬間、視界がぐわんと歪んだ。
「なんだ、これは……」
いや、これは前にも経験した事がある。
「レベルアップし過ぎか」
後ろに目をやれば同じように倒れかけの隊員が。島も辛そうな面持ちでだが、立っていた。
となれば、コイツは相当に強い魔物だったという事。……それにしても30当分か。一気に一人3レベルくらい上がったのだろう。
もしこれを一人で倒したのなら10レベル上がるくらいの経験値を得られていたということか。
「じゃ、行こうか。コイツの肉は美味しくないし毒素含んでるから要らないよ」
「食べた事があるのか?」
「当たり前だよ? 食料が無いって言ってんじゃん」
それも、そうか。
だが、毒素を含んでいるということは、誰かその毒にあったのか。
まぁなんにせよ、解体する時間はない。
「さぁ、先を急ぐぞ」
そうして俺たちはこれまた順調に進んでいった。
これは一重に、破格の力を持った人が一人でもいるおかげだろう。
俺たちのレベルは面白いほど伸びていく。
現在の6階層にして128位は感覚として覚えている。
もう6階層での狩りは個人でもできる強さだ。この階層は4階層のものよりも更に広いし、魔物の多さも違うから、発見もしやすい。
だから、やりやすい階層でもあった。
「えーと、こっちだよ」
しかし、これは7階層へと向かう道中での話だ。目的の場所は、まだ着かないらしい。
彼女が言っていた広さというのは、何と無く感じ取れた。
それから4日経って、漸く階段が見つかった。只々歩くだけというのも大変である。
この時、既に平均レベルが134であった。
ここまでの急速な、レベルアップは彼女の力だけじゃなく、素材を剥ぎ取らず効率よく魔物を倒していたからだろう。
「7階層到着。……遠いね」
「そうだな。だが、お前が頼りだ」
「そうね」
それからの事。端的に言えばレベルは170前半の域まで達していた。しかし、力はあれど体力、精神、諸々の身体的疲労が士気を落としていた。
実に8日。
まるで遭難したみたいに歩き回った。だが、これでも完璧なナビがあったからすぐに辿り着けた。もしこの案内してくれる人物がいなければ、今頃はとも思う。
まぁ、そんな無計画、無鉄砲に歩き回るつもりも無いが。
それかれ漸く8階層に着いた。軒並み上がった身体能力のお陰か、気分はすごく軽かった。
「ここから、どれくらい歩く?」
がしかし、身体は今も鞭を打って動いている、謂わば根性立ちをしていることに変わりはない。
そもそも、ダンジョンで休める場所などないのだから、完全な休憩もできていない。急ぐ用事もあるし、仕方がないといえば仕方がないのだが、他の隊員も見る限りではへとへとだ。過去何度かしたサバイバル訓練でも、こうはならなかった。
それは、最低限の眠りはつけたからだろう。
だが、今回はダンジョンだ。休む暇もない。その一番の要因は森の生き物とは違い、確実な敵が存在している事。
疲労の原因は多々ある。
だから、生存者の健康レベルなど、必要最低限度の検査をしたら、このダンジョンの中に東京の区画があるというから、その建物の中で一度休むべきだろう。
そうでもしないと、身体が持たなそうだ。
そして、彼女はポツリという。
「そうね……。走ったら5日、4日くらい」
「そうか……」
遠い。
考えないでおこうとは思っていたが、遠い。
道のりが険し過ぎて遠すぎる。
景色も、何処と無く暗い。雲が漂い、太陽を隠しているからか、それとも、この階層がそうなのか。
「後4日、頑張るぞ!」
それに応えるのはボチボチという感じだ。もう喋る事さえ億劫なのだろう。
それから、4日経った。
先ず、敵の強さが前階層のものよりも格段に向上していた。狡猾さも増え、怪我人も出た。彼女が少し強いという魔物だ。俺たちも彼女の力に近づいたとは言え、同等、それ以下の戦いになってしまう。
彼女のいう通り強かった。
しかし、それはあくまでも評価であり想定の範囲内でもある。だから、地道にレベリングする事にした。この階層で無茶をしていけない。しかし、ゆっくりもしていられない。救助時に俺たちが弱かったら意味がない。
だから、鍛える。
そうして眠れない日々が続いていく。目の下には色が濃い隈が出来ており、瞼は少しばかり落ちている。疲労度が凄まじい。
だが、漸く見えてきた。
「本当に、あったとは」
普通にあり得ないと思っていた。
ダンジョン内にアスファルト。崩れて倒れた瓦礫の山。窓ガラスが割れていたり、半壊していたり。
街灯やコンビニの電気は、電気が通っていない為、暗かった。しかし、中の物が片っ端からなくなっているという状態だと言うことは見受けられる。
ダンジョンに飲み込まれたというのは確かだと。
それにしてもだ。2つ異変というか気味の悪い現象が起きていたりもする。
不思議な木の根の様なものがアスファルトを破壊して伸びていたり、ぬちゃりとしたオレンジ色の粘着液が伸びる様にしてビルとビル、家と家などに付着している事。
他にも血溜まりや腐臭が漂っているのだが、こっちのほうがインパクトが強すぎる。
何があったか気になって仕方がない。
しかし、と、ふぅと息を吐く。
救助が最優先だ。私情は二番手。
そんなことを考えながら辺りを警戒しつつ見渡していると、彼女は腰に手を当てて言った。
「じゃあ、案内するよ。みんなの所に」




