ー 5 ー 思出話
あっち行ったりこっち行ったりで忙しくなりまして、投稿が遅くなりもうしわけございません
俺たちは想定した敵、今回では米軍を発見したとして膝をついてしゃがみ込み、手に持つ小銃を構える。
肩と脇あたりにしっかりと挟み込み、衝撃を吸収するようにして……。
「射撃用意……今!」
ダダダ
火薬が弾け、発砲音だけが耳に残る。
そして、実弾じゃ無いけど音と微かな煙が出るところから、想定訓練なんだなと思い出す。
取り敢えず構えて打った。する事はした。
周りからも同じような発砲音が鳴り響く。ここは交戦区域という判断らしい。まぁ、背の高い草が生い茂る大地だ、隠れながら敵地に潜り込むには最適の環境でもある。
だから、想定としてはいい感じだ。
「命中確認。速やかにポイントを変更するぞ」
それにしても、コイツ。小隊長に選ばれたと思ったらこうしてヒットアンドアウェイばかり、こうも打って直ぐに進行ポイントを変えられたらたまったもんじゃ無い。寧ろ進まない。
「はぁ」
でも、小隊長として選ばれたのはコイツだ。だから、ある程度従わなければならない。
しかし、不平不満を俺は何処と無く感じていた。
「なぁ、何回進行ポイントを変えるんだ」
というか言ってしまった。
すると、彼はこう言う。
「目的のポイントは変わってない、安心しろ」
「いや、そうじゃないっ。お前のその変に怯えた戦法じゃあ進まねぇんだよ」
よく言えば慎重な戦法かも知れない。だが、俺からすれば怖がっているようにしか見えない。寧ろ無駄な事ばかりしているようにしか見えない。
「……仕方ないだろ。無鉄砲に突き進むだけじゃ見つかってしまう」
「いやいや、移動ばかりじゃ見つかるだろ逆に」
「その確率はほんの僅かだ。それに一定ポイントばかりだと、発砲音で位置と進行方向がバレる」
「それもそれで2、3回でさ、限度ってのがあるだろ。こっちだってへたへたなんだよ」
俺はこの男に後ろを確認させる。
どうせまともに周りを見ていないんだ、少しは反省しろ。
「知っているさ。だが、実戦でそんな甘ったれたこと言っていたら、敵軍に殺されてしまうぞ」
そんな男の言葉にイラっとした。
「あのなぁっ、自衛隊なんて自国の住民を守る何でも救急隊以外の何者でもないんだよ! こんな訓練、正直、意味、ない、だろ……」
しかし、その言葉の選択は間違っていると気付いたのはこの後すぐだった。
でかい怒気を感じる。握られた拳はプルプルと震えていた。
「貴官は……お前はいつもそうだな。……なぁ、お前は、金輪際何もないと本当に思ってるのか? それならお前は阿保だ」
「誰が阿保だ___」
しかし、その荒らげる声を静かな声が沈黙へと変えた。しかし、その静けさに含まれる怒り。
それが余計に耳に響いた。
「俺は何も間違っていないっ。確率は0じゃない。1%はあるんだ。だったらその1%に備えるのが、自衛隊員、いや、仕事をする筋ってものだろっ。もし……それが無理ならやめたほうがいい。いや、寧ろ___」
彼は言った。
「辞めてしまえ」
「っ、こんの野郎!!」
こんな所で仲間割れ。
今じゃ考えられない事だ。それに、その時俺が先輩を殴ったとしても、先輩は一度も殴って来なかった。
あれは、舐めていたのか優しさのかはしらない。しかし、それがあの時余計にムカついた要因であった。
「はぁ……はぁ……」
初めて顔面に打ち込めた拳はすごく痛かった。それに対して男は無関心に言った。
「気は済んだか? 癇癪男」
「……そうかよ」
俺は取り押さえられていたが、威勢良く叫んでやった。
「そんなに俺が嫌いなのかよ煽る言葉ばかりさ、ウザいんだよ! 殴ってきたり、する事に何でもかんでもケチつけやがって!!」
お前なんてな。
「一回死ねや!!」
「……」
やはりこの時ばかりは自分はまだ子供なのだと痛感させられた。これだけは言うまいと思っていた言葉を、感情のままに吐き出してしまったから。
「そうか……」
「そう言う態度がムカつくんだよ! 冷静気取ってなんなんだ、それがカッコいいとか思ってんのか? なぁ! てめぇはなぁ! 何でもかんでもに自分の理想を押し付けすぎなんだよ!!」
よし言ってやった。そう思えた。
「そうか……」
しかし、男は無関心に言った。
いや、少しばかり悲しそうな面影が目に映ったが、気にも留めなかった。
「悪かった……」
そんな事どうだっていいからだ。
目を落として、それでも俺を見つめるその視線に、俺は……。
滅茶苦茶ムカついた。
「……後2階…層だ、頑……張るぞ……」
先輩から発破をかけられる。しかし、皆んな疲れ果てていた。急がなければならない事は皆重々承知。しかし、身体がついて来ていないのだ。
「先輩、少し休憩でもしないと帰って遅くなるっす。それに、先輩もっす。少し休憩を挟もうっすよ」
「え、ぁ……」
すると、先輩は気を失うようにして前に倒れた。
今日は米軍との演習訓練。
とことんやり合う、キツイ訓練。
「お前が俺の隣にいるとはな」
「それはお互い様だ」
ある程度間隔は空けている。そして、目の前に碧眼の米兵が構えを取る。
《駄弁る暇があるなら早く来いよ!》
「if you have time to talk Come quickly!」
俺はある程度なら英語を話すことができる。が、故にばっちし聞こえて来た。
「なぁ、俺とお前、仲良く会話してるように見えるんだってさ」
駄弁るなんてふざけた事抜かしやがって。
「別にいいんじゃないか?」
しかし、こいつは別にいいらしい。
ま、俺は。
「ごめんだね」
なんでこんな奴と仲良ししなきゃならねーんだ。死んでもごめんだ。
《やる気がねーのか?》
「How do you feel about it?」
そうしてイライラを溜めていると、米兵は煽るようにして手をヒョイヒョイしながら、喋りかけてくる。
どうやら、さっさと戦いたいらしい。
《米兵さんは血の気の多い事で》
「おん? NO NO……。あー、The American soldier was very hot-blooded」
ま、俺も丁度ぶちのめしたかったところだし。
《舐めてんのか?》
「Are you licking?」
「オーイエスイエス」
すると米兵は憤りを感じたのか、顔を赤くしてこう言った。
《その言葉、後悔するぞ》
「……You'll regret your words」
そうかい。
「オーイエスイエス」
《ぶっ殺してやる》
「……give someone a good beating」
こうして煽る俺だが、余裕がなきゃしない。少しだが小心者だからな、俺は。
「お前、相手をその気にさせてどうするつもりだ、演習だぞ」
すると、呆れた風に話しかけてくる男。
「知ったこっちゃねーよ。こっちはお前と仲良しごっこして楽しい子って思われてることに腹が立ってんだよ。こっちこそ、フルボッコにしてやる」
俺はこれでも、組手は得意なんだ。だから煽る。
煽った上で嘲笑ってやる。
「you're___」
《お前を殺す、だって? 子供かお前は》
「kill、だって? You are a child」
地に伏した米兵。一瞬何が起きたか分からないみたいな顔をして惚けていたが、次の瞬間には足払いをしながら起き上がる。
「よっわ」
「っ……バカにスルナ」
ほー。
「喋れるんだ、日本語」
「すこし、ダケな」
「そうかい」
その後の組手はほぼ完封勝利を決めてやった。土埃がまい、身体中が土だらけ。それでも傷は少なかった。
そんな組手の訓練があった午後、夕方の話である。
「You're the one who made a fool of us《お前か。俺たちを馬鹿にしたってやつは》」
絡まれた。
実は夕食を摂る最中の話である。
今日は合同訓練で、食堂にはある程度の米兵も寄ってくる。まぁ、そこまではわかる。
しかし、今日の夕飯、カツカレーを食べようとしたところで見つかり、こうして裏路地まで連れてこられたという現状というのは些かどうかとも思う。経緯はどうであれ、食事中のお誘いはマナー違反だ。
原因は俺だと思うが。
でも、これに限って言えば俺の挑発の前に一言言われたんだ。
「I'm not making a fool of you. You see, I've made a fool of you.《俺は馬鹿にしてないよ。てか寧ろ、そっちが馬鹿にしてきたんだけど》」
すると、仲間の方が本当か? と、昼間の奴に言葉をかけた。
そして、ふぅ。と息を吐く。
胸はこれでもかというほど鳴り響いている。脚も幾分か震えている。しかし、声だけは堂々としている風に装った。
こんな俺を見るだけでわかるが、俺の心には余裕がない。そりゃそうだと、もしバカにするやつがいるのなら言ってやりたい。
外国人だ。骨格や体質もあっちの方がいい。身長も高ければ筋肉も凄いし。それも4人に囲まれて。
ひたりと冷や汗が垂れる。この後の展開は、言葉をミスするだけでバトルだ。路地裏に、夜。四人の外国人。良くあるシチュエーション。ボコられる所だろう。
となったら、ここは大人しく謝って半殺しから三発程度に収めてもらおうか。やっぱり本能に寄り添って、怯えるべきなのかもしれないし。小心者だし、気持ちには素直な方がいいだろう。
だけども、そうなると、俺のプライドが意味をなさなくなる。現に、俺のプライドに障った態度をしてきたからぶっつぶした。そして、それが災いとして、こういう、状況を作った。
んー、難しいところである。
「言ってないらしいが」
「《んなわけ無いわ、阿保。言ったから言い返しただけじゃ》No thanks, Abo.I only gave him for what I said……って日本語喋れるんかよ」
なんか馬鹿な事を言いだしたと思ったら流暢な日本語が耳に入ってくる。
ん? と疑問符を作りつつ俺は言葉を返す。
「はぁ……。で、なんだよ。どーせ、リンチ目的だろ?」
「リンチなんて、そんな。報復だよ。こんなコテンパンにやられた仲間がいて、それも米国の地位を下げるような発言もあったらしいじゃ無いか」
すると俺の右にいる大男……全員そうだがずば抜けて高いやつとは打って変わって後ろの奴がそうほざく。
「なーに、一人の発言如き国には影響せんわ。逆にお前だよ、お前の発言に俺は貶されたんだよ……って、長引きそうだなぁ。……なぁ、俺、腹が減ってんだよ。ケリはさっさとつけようぜ」
まぁどうせこうなることは予想してた。
というか、報復の時点でやる気満々なのは良くわかっていた。
じゃあ後は覚悟だけということで、今溜まったから、威勢良く拳を作り、腰を落とした。
「なんだそのへなちょこな構えわ」
「……そのへなちょこな構えにお前らはやられたんだよ」
そして、直ぐ殴り合いは始まった___
「まじっすか、39度はあるっすよ、これ……」
倒れた先輩の額はとても熱かった。
俺自身も暑いのだが、これは発熱の方だ。
俺は確認の後、10分休憩の時間を設けて直ぐに出口へと向かった。
「あと2時間っす、頑張るっすよー」
大柄な先輩抱えて。
「はぁ、はぁ……。どうだ、へなちょこに負ける気分は?」
へっ、へへ。
「は? 何言ってんだよ。お前が完膚なきまでに叩き潰されてんだよ。馬鹿なことは言うな」
違う、違うんだ。
「リンチで嬲って完全な勝ち試合だったくせによー、一人ノックアウトじゃねーか」
そう、こんな悪条件でも俺は一人、一人だけ叩き潰すことができた。初手のタイミングだけだったが、何とかノルマは達成していた。
「ああ、そう言えばそうか。……じゃあ敵討ちにもう一回___」
「いい加減にしろ、集団で殴り合うなど外道だ」
「お、お前……」
何だろう。この、漫画とか出てきそうなシチュエーションは。
その男はとても冷たい目をしていた。
「その手を離せ。かっこが悪いぞ」
「ソーリー、ノットスピークジャパニーズ」
「……さっきまでのは見ていた」
「ちっ、そうかよ」
なんだよ、態々参戦しないでくれていたのか。
「初めてお前は正しい判断をしたな」
「俺は大体正しい判断しかしない」
「けっ」
そうかよ。
「で、何しにきたんだ」
まぁ、決まってるだろう。
この状況。
「仲裁にきた」
「おいおい、こっちは報復が完了していない。邪魔をしないでくれ」
「すまんな、こちらの兵は一人居なくなるだけ大打撃なんだ」
「ん? ああそうか。小国だもんな、ここは」
「いやいや、小国だからこそ個々が強いぞ。そっちの数だけの兵士より」
「……おいおい、煽らないでくれ」
「煽ってないさ。ここの兵士の数は少ないが、個々は強い。団結すれば、さらにな」
「おーい、なーに茶番劇繰り広げてんだよ」
なげーよ、そんな探り合いみたいな会話。
「注文の多い奴だ」
「誰もお前に頼んだなんかないよ、阿保」
そして男はゆっくりと歩き出す。
じゃりじゃりと土を踏みこんで、堂々と。それでいて威圧的に。
「その手を放してもらおうか」
「悪いな、仲間が一人やられたもんで。これが終わったら放すから」
「死体蹴りは嫌いだ」
男は、俺の髪を掴む米兵を強く睨んだと思えば、勢いよく顔を掴んだと思えば、勢いよく足を払って地面にドスッと踏み込んみ、弧を描くように力強く後ろに倒した。
「すまない、手荒な真似になってしまった」
パッパッパと手の埃を払うように叩く。
それにしても、この男が俺に悪いと思うとは。今回は感謝してるし、俺も少し素直になってやるか。
「……いや、いい。今回に限っては助かった」
「……何を言っている。俺は米兵に向かって言ってるんだ」
そうかい。
釣れない奴だ。
「さ、帰るぞ」
ボロボロの身体。支給された軍服は訓練での縺れや破れ以外のものもたくさん出来ていた。どうしたものか。と思いつつ、ゆっくりと立って、歩みを進める。
「……いやいや、待てよ。こんな事されてただで済むと思ってるのか、なぁ」
すると、倒れた男は目をかっと見開いて、のっそりと起き上がって言った。
そして試合は第二ラウンドへと向かう___
___筈だった。
「お前ら! 何をしている!!」
「え……真田少尉! 何故ここに……」
そう言葉を発して直ぐに察しがついた。
「お前か……」
「俺は喧嘩ごとは嫌いな性分でな」
ちっ。
「真田少尉。只今、制裁という行為で米兵が日本兵に4人がかりで暴行を加えていた所に私が遭遇しました」
綺麗に足を揃えて、帽子を被って、それでいてピシッとした敬礼姿勢。
マジで嫌い、こいつ。
「そうか……。詳しい事情は後で聞こう。はぁ、報告しなければならないのか、これを」
少尉は憂鬱そうにこの有様を見つめる。
「了解した。貴官の行いは十分なものである。しかし、事情聴取をしたい。きてくれるか」
「了解いたしました」
その後、こってりたら叱られたのは言うまでもない。
怒声が今でも脳に反響する。
キンキンと鼓膜も破れそうだったし、何より怖かった。上の人らが5人くらいで、それで隣にさっきの4人がいて。
怖かった。
そんな俺たちを傍から立って見ていた男は、ただの傍観者として見ていた。たしかにこの件は俺に否がある。しかし、なぜかムカついた。
何というか、上から目線な気がした。親、というよりも別の、何か一つ上の人。上司……とは違う。
何というのか、そう。部活の先輩見たいで、仲間だけど、教えるけど、上の奴。みたいな言葉にし難いものだった。
しかし、それが余計にムカついた。
そんな帰り道。
「はぁ、散々だった……」
まだキンキンする耳をほじってふぅーと指先に息を吹きかける。
「お前が悪い。後処理はしてやったんだ、後はお前自身だ」
やはり、何処か上から目線。
だけど、やはり男はこっちを見ず、前を見て歩いていた。
そんな男を見た俺は、皮肉交じりにこう言った。
「あ、り、が、と、う、が、ざ、い、ま、す、せ、ん、ぱ、いっ」
「どういたしまして後輩」
「つまんな」
「何だ後輩君。先輩に向かってその口の聞き方は」
「あー、うぜー」
「皆んな! 着いたっす!! お疲れ様っすよー! さ、後はここを越えるだけっす!!」
背後から疲れたという声が多数聞こえる。
また、それは俺も同じ。
でも、漸く着いた。
そんな気持ちを強く持って目の前の不思議なゲートを目の前に、足早に向かって通ると、スゥーっと見える景色が一瞬で変わっていた。
ここまで実に6日間であった。
明日の22:00に投稿しますのでよろしくお願いします




