08.陽光の玉鋼
鍛冶屋へ行ってお話しした。ただそれだけのお話し。
「理由をお伺いしても?」
空気的には話はここでおしまい。するとしてもほかの鍛冶屋のほうでもしてもらう、つまり分担で行こうと考えていた。というか、話を聞いている限りではこちらのほうが得策というか、メリットばかりだ。
だけれども、すべてを担いたいと言っているのが相手の主張であり、聞くべき話でもある。
「ええとですね、私がいうのはなんですけど、他の鍛冶屋より腕はいいんです」
赤田さんは自信満々とはいかないものの、核心を突くように言った。
そういえば、高城さんが勧めてくれた時も、ここを即決でだったらしいし、売られていた武器、防具を見る限りでもその腕はなんとなくでもわかる。値段もその結果に追随する証拠でもあるか。
だからまぁ、その言葉に偽りは少ないと思う。
値段の偽り、他可能性はないわけではないが、赤田さんの汗のかきようや、鍛冶場いた人の真剣なまなざしを思い返す限りでは、信じようとは思う。
「これでも自負はしてます。それで、家で扱いたいわけというのは単純に」
加工技術と興味、と。
俺は「そうですか」と相槌を打って、腰をソファーの背もたれに据える。
「家の加工技術は代々継承してきた方法でして……少し前までは金具や包丁をつくっていました」
その名も「赤田包丁」。高い鋭利性を持ち、軽さと頑丈さを売りにしていたらしい。金具などは、一般用品とかの金具じゃなくて、公共建築物とかの特殊系の金具を作っていたとのこと。
そして、この加工技術はもともと刀や鎧などで使用していた技術で、今まで継承してきた技術らしく、あの鍛冶場で打っていた人はお弟子さん3号であった。
実績は国宝級刀剣の修復作業を。
「費用に関しては、こちらの要望ですので各種4割引きで扱わさせていただきます」
四割ってすごいな。あの一億円の武器が6千万で買えるのか。あちら側の主張であってもいくらなんでも割引すぎにもおもえるが……。
「あのすいません。一応聞いておきたいんですけど武器を作るとしたらいくらくらいになりますか」
素朴で重要な質問。
お金の問題。
それに赤田さんはすぐに答えてくれた。
「通常の値段は、武器なら最低2千……8百万ほど。防具だと最低2千万からですかね」
高い。俺の月給を普通に超えている。それにこれが最低であるのなら、なおさらか。
それで、この値段から4割引き。武器が最低1千万で防具が5百万。とってもおいしい話だ。
むしろこんなにおいしい話はないのではないだろうか。
「取り掛かりの期間は早く見積もらせてもらっても2週間そこらになりますが」
「完成予定は」
「運よくこの金属についてわかれば、武器なら2週間。防具でしたら……2週間と半週ですね。これにかんしてはなんとも」
そりゃ、期間については仕方がない。ゲームみたいにばんばん素材と金を消費して、ハンマーで三回叩くだけでは作れない。
「こちらとしては、この条件で扱わさせていただければ幸いなのですが。……5割、いや6割で扱わさせてください」
「それは流石に引きすぎだと思いますよ」
狭山さんは口挟む。
「皆さん、どうしますか。私は、ここまで言ってくれているのならと思うのですが」
確かに、悪い条件でもない。どちらかと言えばいい。
デメリットは期間が不確定要素を多分に含んでいる事だが、これはどこに言っても変わらないだろう。だから、分担的に作業をしてもらうとしても同じ事をしている訳だから、もしかしたらこれはデメリットではなく必然的期間だな。
だとしたら妥当。
そう考えたらこの条件、メリットばかりか。
相手側もそれを主張してくれている。ここは案に乗っている方が利口であるし、妥当的で正当性もあるから拒否する理由すらない。
「僕も、いいと思います」
俺は横に目を向けながら挙手する。
「んー、でも、そうか……」
「影宮さんは、どうします?」
山田さんは少し小さな声で影宮さんに声をかけた。
「どうって、んー、そうだなぁ。これは本当に好条件での話だと思うよ。これぞまさしく___」
WIN-WINな関係、だからな。
お互い徳を積む訳だから。
「どうでしょう」
赤田さんは少し粗めの息で問いかける。これは行けそうだ。
そう踏んでのことか。
「私もお願いしたいです」
川端さんは薄く生えた髭をなぞる。
「んー、川端さんもか。……それならもう決まったも同然だよな。過半数超えたし」
「ですね」
影宮さん、山田さんともに了承した。
「ありがとうございます」
それから話は進んでいった。
滞りもなく、お互いの案を交えて。それも相手はこの道のプロだというのだから、俺たちみたいな浅知恵持ちの話とは格が違う。
そうして話を進めた結果、凡その話は決まった。
この金属による武器を6個。
少し長めの剣。が一つ。
短剣。が一つ。
矛先が少し大きめの槍。が一つ。
鎌。が二つ。
斧を戦闘用に改良したバトルアックス。が一つ。
金属に余りがあれば2本ほど短剣の製造を。
防具は予想では作れないらしい、この内容だと。
要員としては鎌の大きさが問題なのだ。鎌は遠心力を使い、低筋力で殺す武器。故に自然と刃の部分は大きい。現在の武器も大きいと言えば大きい、だからこれがノーマルなんだから、割り切る外ない。
そういう事。
最後に値段だが。
元値が長剣が6700万。4割引きが4020万。
槍は5860万。が3516万。
鎌は6950万。が4170万。
バトルアックスは6600万。が3960万。
短剣が3000万。が1800万。
ということになった。一応、3回払いまでならいいらしい。まぁ、ここまでの好条件を提示してくれているんだ。そんな無下にする訳じゃないし、3回払いがオッケーとなった所で、落ち着きどころは確保できた。
もし、これが一括だったらこの話は少し延期することになったし、実行しても生活がキリキリになるし。
ここまでの好条件は本当にありがたい。
こうして、大方の話は決まり、後は任せる事になった。
「お話しする所はこれくらいですかね」
「そうですね」
かれこれ2時間くらい話し合った。少し有意義な時間でもあって、楽しかった。
少しばかり昔を思い出した時は少し参ったが、それも直ぐに切り替えたので問題ない。
赤田さんは机に置いていた書類とボールペン、メモ帳をファイルに直すと居住まいを正した。
「一先ずはこの話で進めます。一応、作成段階に着いた時には連絡を入れさせてもらいますのでよろしくお願いします」
「はい、了解しました」
こうして俺たちは冒険者専用鍛冶屋<國光>を後にした。
それからと言うもの、階層での素材集めに奔走した。
レベル上げは置いておいて、兎に角お金の為に。だからといって命を疎かにするつもりはなく、しっかりと命大事に動いている。
相手もなまじ強いから油断なんて出来ないし。
何より、身体的な強さと言うよりも頭的な強さというとが二階層では印象強い。
狡猾で、連携のとれた強さ。シルバーウルフはそれを群れという形で巧く作り上げている。
だから、少々面倒であった。
そんな中のこと。
俺のレベルが遂に上がったのだ。
これでlv2。
そして驚いた事が一つ増えた。著しく成長した身体能力については理解していたつもりだったのだが、まさかスキルの能力までも向上しているとは思っていなかった。
特に変化があったのは索敵スキル、アリージメントサーチ。
範囲と詳細内容が明確な感覚として得られるようになった。目の前には何がいるかとか、後ろでは魔物が襲いに来ているとか。
革新的だ。
だけれども、大きな変化でありまだ序盤だという事についても考えさせられる事でもあった。今の最高階層が9階層。高々2階層。そしてこれくらいのレベルでは強いと言えるのだろうかという、疑問を。
ただ、それは考えて分かる事でもないので、実感するまではある程度考えないでおこうと思った。俺はただ命を大事に、強くなって階層を登って金を得る事を軸にすればいい。
そしてまた、変化は俺だけじゃない。
リアルな経験値が溜まってきたのだろう。班のメンバーの動きは昔とは比べ物にはならないほどに洗練された……までとは言わないものの、ある程度の無駄がなく、勢いのある戦闘の仕方をしている。
そりゃ毎日魔物と相手していればよりいい選択もできるだろう。
仕事でもそう。
どんな職種でも同じだが、例を挙げてコンビニなんかやっていれば、何となくわかる。手際や接客の質も上がる。
コンビニに限った事じゃないがな。
そんな日々を繰り返していれば俺以外のメンバーもレベルが上がる。lv56相当か。
確実に力を付けてきている。困難はまだまだ立ちはだかっているが、危機という形で襲われることは大幅に減少していた。そりゃそうだ。というものだがな。
それともう一つ。漸くと言うわけではないが、他の班も2階層に上がってきているのを確認した。
遅くないか? と思ったが、俺たちが変に早いだけであってあれが普通なのだと、二階層の魔物といい勝負をしているところを見て思った。やはり、無理に進むべきではなかったと、今度からは準備万端で行こうと肝に命じた。
さて。
かれこれ2ヶ月が経とうとしていた。
日付はもう11月。枯葉がチラチラと降ってくる季節だ。寒くもなるし、炬燵が漸くその本領を発揮する期間でもある。
「はぁ……うー寒い」
白い吐息は少し暖かく、直ぐに冷たくなる。
掌はほんのり温かくなるも直ぐに冷める。
「嶋崎さん寒がりなんですね。意外ですよ」
川端さんは小さく笑って自分の手を擦り合わせる。
「まあ、それは私も同じことなんですが」
そんな会話をしつつ、顔を上げて目の前の建物に目を向ける。それは相も変わらず威風があり、堂々と佇んでいる。黒色の艶のある瓦屋根、木造との色味のマッチ。だが、中はちゃんと工場のようにきっちりとした設備もある。
チラ見ではあったがそうだった。
俺たちは前と同じように受付の場所へ向かった。
昨夜、一本の電話が届いたのだ。武器が完成したと言う電話を。
「いらっしゃいませ。……あ、嶋崎さん。お待ちしておりました。親父さんを呼んできますので前回の部屋の方でお待ち下さい」
そう言うことなので前と同じようにさらに奥にある立て看板へ歩いて行き、中に入ってソファーに座る。
「お飲物をお持ちいたした」
と同時に奥のドアが開いて、受付の女性がお茶を持ってきてくれた。
「親父さんはもう少しで来ますのでお待ち下さい」
「これはどうも」
受付の女性はお盆を胸に抱えて、再び奥のスタッフオンリーの部屋へ戻っていく。
俺はそんな彼女が出ていったところを見計らってお茶を啜る。
緑茶だ。程良い渋みと甘みが、お茶の風味といい美味しい。鼻が詰まってないからよく分かる。
ずずす
と音は聞こえるも、他の音が聞こえない。
それは誰も話そうとしていないからであって、別に緊張をしているわけでも暇にしているわけでもない。
少しばかり楽しみなのだ。
それから数分して___
「お待たせいたしました」
ドアが開いたかと思えば次は声と、カチャリカチャリと金属同士が音を鳴らすような音が聞こえてくる。
そしてそれは、別に不審者とかそう言う類の人ではなく、この鍛冶屋國光の主人、赤田さんであるから別に驚きも警戒もしていない。
当たり前だけど。
「いえ、全然」
俺はそういって、武器が並べられのを待った。一個一個装飾の行き届いた綺麗で強そうな雰囲気がある。
「ふぅ。早速ですがお越しいただいてありがとうございます。そしてこちらが、完成した武器です」
そこに並べられた各種武器。
白く輝き、純白のその惹き込むような色合いは、幾ばくかの畏怖を齎していた。
「それで、手にとってもらったらわかってもらえると思いますが、原石と打って変わってとても軽いです」
言われて長剣を手にとってみると確かに軽かった。蛍光灯の光にテラテラと金属反射しながら、その鋭利さも理解する。
そして、それに続けられた一言に感嘆の息が漏れた。
「そしてこの軽さ。これは陽光の玉鋼。これが、私が作り上げた最高傑作の金属武器です」




