07.冒険者専用鍛冶屋<國光>
前回までのあらすじ
「薬草クエストやりません? 高給ですよ」
「(百五十万っ。それも薬草クエストって序盤のクエストで?)是非やります!」
結果全然なく、途方にくれて諦めたいたら水の音が聞こえてきたので休憩がてら向かうとそこには、薬草が沢山生えていた。
そうして薬草回収後、川端さんたちと合流した。
あの休憩後、俺たちは集合地点で待っていた。
開けた草原だ、魔物に見つからないような場所でも、こっちにやってくる人影はよくわかった。
「すいません……6つほどとって終わりました」
「そうですか……」
そして到着早々苦笑いというか疲労感のある表情の川端さんたち。本気で見つからないのは俺も同感だ。
それに、俺たちなんてあの湖に出るまで一つも見つからなかったんだ、羨ましい。
ま、でも予定数は集まった。
「安心して下さい、ありますよ、ほら」
「……嶋崎さん、リアルラック高すぎません?」
山田さん、そんな事ないです。
ダンジョンの手前の全過程を見てもリアルラックが良いなんて言えない……。
そう卑下するつもりはないが、でも、身に覚えのない運をそこに出さないで欲しいとは思う。
……まぁそれも、集まったから良いとするけど。
「取り敢えず、ここで休みませんか? 僕ちょっと疲れちゃいまして」
「そうですね、私も、お願いしてよろしいですか」
そういうことで、この水辺で集合した後に休憩することとなった。その時の食事はあいも変わらずカロリーメイトと、健康的で早くておいしいものだった。
それで、ということもなかった。特に何かが起こる事もなく、魔物も現れない。
なんというか不自然であるが、害はないので文句もない。そんな感じで改めて周りを見てみると、チラホラと大き目の石ころが転がっていることに気がついた。
銀色……よりも白く濁っていて、反射する輝きが強い。色味で言えば、大理石っぽくて金属っぽいなにか。
「皆さん、これ売れると思います?」
手にとってみると重たいことがわかった。片手でズッシリとした重さ。……まぁ筋力があるから実際は只の石ころと大差ない重さなのだけれど。
そんな俺の問いに、皆さんは思案顔で石ころを見つめる。
「……多分、売れると思いますよ? 魔石が売れるなら、珍妙なものでも売れるかと」
と、川端さんは言う。
「んー、僕も右に同じ」
「じゃあ左に同じ」
「それなら私は右に同じで」
何ボケかましてるんだこの人ら。
「取り敢えず持って帰りますか」
「ええ。幸い、バックには余裕がありますからね」
そこそこ辺りに落ちている。
だからこそ簡単に集まった。中々、中々にだ。
重たい。
少々身体が後ろに傾きそうなくらいだ。魔物の素材は上に詰めているといえ、押し潰すくらいにパンパンに入っている。
「お、おもてぇ」
「よく持てますね。僕なんてこれでも無理ですよ」
それは下に少し入ってるなって分かる程度の量。それを山田さんは手にとって立ち上がろうとするが「ぐぬぬぬ」と唸りながら、こけた。
「嘘でしょ、山田さん」
「影宮さん、嘘じゃないです」
レベル30で重たいって、相当に筋力が足りていないって事なのだが……。でも、山田さんの戦いぶりは、うん……ないって訳じゃないんだよなぁ。
ま、それもまた後日話そう。
懐中時計を見つめると、それは19時を指していた。
「じゃあみなさん、帰りましょうか」
重たい腰を持ち上げて、ふぅと息をついて、ようやっと伸びた脚は気持ちが良かった。
「そうですね」
<=== 冒険者協会本部 ===>
「こ、これを、何処で……?」
「水のほとり、ですかね」
あの後3時間かけて戻って直ぐに協会本部に向かって査定をしてもらった。
狩った魔物の量も適当なので、報酬金も適当であった。だが、それに加えてクエスト報酬というものがある。そう、薬草クエだ。あの鬼畜の。
50本150万、一本3万円。割にあってるのかあってないのか分からない微妙な値段設定。難易度は鬼畜だった。
そしてどうやら、こんなに見つかると思っていなかったらしい。そもそもが、低層にある薬草というのは実験などの為に先行冒険者……自衛隊の方々が乱獲して希少的価値が高かった。つまり、そこら辺に生えていた薬草が無くなっていたということ。
だから高城さんも言い出しにくかったらしかった。だが、受付嬢にも凡そのノルマというのが低いながらも設定されているらしいのだ。
それが最低取れて、漸く給料の最低賃金を獲得できると。
中々に厳しい世界だそうだ。
話は戻るが中々に見つからないものをよくもまぁこんなに見つけてきたね、と驚いていた。寧ろ驚愕していた。
そしてまた、もう一つ驚いていたものがあった。
それがこの石。
俺たちはどうやら、レアポイントを引き当てていたのだった。
「これ、本当に見つからないものなのよ。それも自然生成って……上層では採掘以外取れないの」
「へー」
「一個の石が重たいから10キロ単位での金額なんだけど、これ合わせたら120kgもあったわ」
それで。
「お値段のほどは」
態々希少希少だといって、10キロ単位ともいって、120kgと勿体ぶりながら言ったのだ。相当の価値は目の前に存在しているだろう。
これでお金が入ったら装備でも買うか。
などと夢想していたころ、高城さんは「それよりも」と、提案をしてきた。
「これって売ったら確かに高く付くけど本当にレアなのよ。確かに売ってくれたら研究が捗るから嬉しいけど、是非助言させて頂戴」
「はあ……? どうぞ」
すると高城さんはメモ用紙に鉛筆でさーっと文字を書いていった。
『【10kg 250万】【250万×12=3000万】』
「売ります」
即決である。
「ちょちょ、待って待って。話聞いて。……これは売った額になるんだけど、提案って言うのが武具についてよ。武具については下手に話したらこみいっちゃうから省くけど、鍛冶屋で打ってもらったらどうかしら」
鍛冶屋……。あー、前に言ってたな、鍛冶屋がオープンするとかなんとか。
でも、それって気になるのがお値段のほどなんだよな。
「勿論、考えてることは分かるわよ。お金よね。……まぁ、蓋のない言い方をすれば高いわ。けど、長期的な目で見れば安く付く」
「はぁーん。そんなにか」
要するにパソコンと同じってことだ。
冒険者をやっててわかったのは武具の大切さ。現代において言えばそれは必需であり、当たり前。冒険者もまた、武具があって当たり前。
スペックが高ければ買い替えることも無ければ、修理にだって滅多に出すこともない。
手入れや扱い方で変わってはくるが、それも稀。普通に使っていれば問題ない。
何が言いたいかというのは、それはスペックの重要性。スペックが高いということはロードも早ければさまざまな機能もついている。
武具だって、いいやつ買えば長期に渡って使えるくらい強度があったり、工夫があったり。
要するに、良い物を買えば安い物を買うより安く付くというこの世の恨めしき実態があるということ。
「でも、どんなものを作ったらいいんですかね」
「そうね、先ずは武器かしら。次に胸当て、膝当て、鉄靴。それくらいで十分だし、120kgなら5人分でギリギリ使い切る事になる。兎に角、武器は変えた方が楽よ」
<=== 冒険者専門鍛冶屋<國光 ===>
という事で来ちゃいました鍛冶屋。
あの後猛烈にプッシュされて、皆さんと話した後了承したら直ぐに予約の電話を出してくれた。
予約って言うほどいないだろう……と思ってたが、上層にいる先行隊の人たちが時々使ってるらしい。
軍事部の方では手が回らないとかなんとかかんとか。
そして、高城さんはメモ用紙さっと書き留めた。
『明日の昼12時頃なら空いてるからその時に素材を持って、製造の話をしてね。場所はここ』
「冒険者専門鍛冶屋國光」
どどん! と威風堂々の佇まい。
現代というより江戸。和風感が強く残る作りで、大きい。石垣で周りを大きく囲っており、ドアのない空間の中に入れば熱気のせいか空気が熱く、赤色の光を放っている場所を見れば、ひょろっとした人がタオルを頭に巻いて鉄を打っていた。
カンカンと火花を散らして、汗を垂らして丹精込めて力強く打っていた。
赤いそれは引き伸ばされ、冷やされると黒く変色して、また加熱される。
鍛冶屋というのはその熱さのせいで失明すると聞くが、それは体で感じて納得した。
熱い。
だが、それよりも明確に気になったのは鍛冶屋の受付場所が分からないという事と、人の少なさ。いや、少ないとかのレベルじゃなくて、目の前の人一人だけが、そこで打っていたのだ。
「あのー! すいません!」
だから聞こうと思って声をかけるが、金属を叩く音が阻害して聞こえなかったのか、聞き耳すら立てられた感じもしなかった。ので、より大きな声で語りかけた。すると、カンカンと只管に強く叩かれていた音は、一度止まった。
「受付場所はここじゃなくて左奥の所です」
「あ、はい。これはどうも」
必要な事は言った。そう言外に言ったようにカンカンっと、また鉄を叩き出していた。
それにしても、ここじゃなくて奥だったとは。紛らわしい。
目の前にある立てかけ看板に目を向けながら暖簾を上げると、そこは商品棚があった、その中に武器や防具、値札が置かれていた。
「いらっしゃい、何かお探しで?」
そう声を掛けてくれたのは若い女の方だった。艶のある黒髪と、線の細い身体。華奢でいて、顔が少し小さくて、大人の艶めかしさもありつつ可愛さがあって。綺麗な笑顔で接客する雰囲気には好印象があった。というかドストライクです。
「あー、えと、昨日予約させてもらった嶋崎です」
それでも、キラキラと置かれている店内の物品に目移りしつつ、そう答えると「少々お待ちください」と言って一段くらいの段差の所にある奥の畳部屋に登っていった。
「かっこいいなぁ」
「なにか、良いものでもありましたか?」
山田さんが見つめる先は二刀の、短い剣。所謂双剣。
青春男子なら一度は憧れる高速アタッカー専用武器。確かにそれには浪漫があって、ゲームでも爽快感のあるものだ。
山田さんは手にとって見せて、シュシュと風を切らせる。
すると、余計に嬉しそうに笑顔を作って「買いたいなぁ」と言葉を漏らした。が、残念。それは1800万と、悲しい現実がそこにあった。
そんな夢を打ち砕く値段は、全てに当てはまっていた。狭山さんなんて「うそっ」と驚愕するほどの値段のものがあったり。例えばそれが1億円とかね。
下手な車よりも高い。
そうして各々お金のインフレを肌に感じていると、奥の部屋から「お待たせしました」と急ぎで走って来た。
「確認を取れましたので、ここを、出てもらって左奥のもう一つ立て看板のある部屋に入ってもらって、大丈夫です。親父さんを呼んできますので、その部屋で寛ぎながらお待ち下さい」
という事らしく、転々と職を移動している気分で再び奥にあった立て看板のドアの前に着く。
部屋の中は窓から見えるが、結構オシャレな作りで到底鍛冶屋とは思えなかった。持て成し、綺麗さ、どうなのだろうか。分からないが、別に嫌いでもない。
コンコンと取り敢えずノックしてから部屋に入ると、観葉植物や、高そうな長いソファー。アンティーク調の机があった。
なんとも、やはり鍛冶屋にきた雰囲気はそこになく、言うなれば商談をしに来た時くらいに緊張するもので、ソワソワしていた。
ただ、寛いでおいてくれという事なのでずっと立って居るのも変な話だろう。
俺たちは先導されるままに、ソファーの横の方に素材の入ったバックを置いて、長いソファーに座った。
長いだけあって、流石だ。5人とも座れた。それに少し余裕がある。
それから、無言が続いた。何かを話すお題もなければ、話す勇気もなかった。
ただ、いつ来るのかと身構えることだけが、今でから、行動であった。
「いやぁ、すいません。お待たせしました」
「いえ、全然」
ガチャリと、奥のスタッフオンリーな部屋から出て来たのはツナギを着た男性……ざ、おっさんだった。
筋肉があるのはツナギからでもわかるくらいガタイが良く、肌が茶色かった。髭はなく、40代くらいの雰囲気。
煤けた頬と、垂れる汗は鍛治中の所を急いで来たためだろう。
「粗茶ですが」
親父さんという方が来てから数分。止まらない汗を拭いて「すいませんね」と息を整えているのを待っていると、受付にいた方がお盆にお茶を持ってきてくれた。
「すいません、ありがとうございます」
それから、直ぐのこと。漸く親父さんが息を整え終えたらしい。
「お待たせしました。私の名前は赤田國光と申します。よろしくお願いします」
「嶋崎です。よろしくお願いします」
簡素ながら、こちらも、お返しに言葉を返す。
「……では、早速ですけど、素材の方をお見せいただけますか」
「そうですね、これです」
俺は立ち上がると纏めて赤田さんの隣に置いた。120kgもあるから、下手に机の上に置かないのだ。
それから俺が席に着くと「拝見させていただきます」と言って、バックを開いて石を手に取った。
「重たいですね、これはかなり」
「珍しい鉱石らしいです」
確か名前は<白玉鉱石>。白玉さんが採掘して研究して、名付けられた。そんな感じだった。
「ふん……」
そう赤田さんは唸る。
「どうしたんですか?」
「そうですね。少々、作製に時間が掛かるかもしれません」
それはどうやら、どうしようもないことだった。
そりゃあそうだと言えるもので、こんな鉱石の取り扱いなど知らないも同然ということだった。
そんなもの、当たり前だ。希少品だし、取り扱うことなんてそうそう無いものだし、ダンジョン産となれば今までの鉱石と変わる部分もあるだろうし。配合とかも、調べなきゃならないそうだし。なにより、この鉱石の性質が分かっていない。
研究している人などから情報を聞いてやってくれるらしいが、鍛冶屋の方でも調査はするのだと。百聞は一見にしかずというもので、少しばかりこの鉱石を使用していいかと聞かれたので、少しならいいと了承する事にした。
ただ、それでも作業に取り掛かる事になるのは最低3週間。ほかの製造注文があるので、最悪1、2ヶ月程。
それも5人分となれば、長期的な製造待ちになる。
鍛冶というのは早々早く出来るものでは無いことは重々承知しているが、流石にこれは面倒である。
そんな時に、親父さんは落ち着いた声色で言った。
「これを、ウチに任せてくれませんか。出来るだけ早く取り掛からせていただくつもりですし、お安くします」
因みに、自衛隊の武器は工場量産型の武器です。質を求めるなら、小さいながらある鍛冶屋でという感じです。




