06.クエスト: 薬草採集
10/14 薄水色の表現を薄緑色に誤字修正しました。
10/18 ゴーレム戦の取りやめ
今日この日。
31日のレベリング期間を超えた今この時。漸くにして二階層へのレベル基準に達した。
だから、今から向かう。
それぞれ、強い意志の目を持ってその階層までの道のりを歩く。草を強く踏み込み、風を軽く受ける。顔の熱は軽く撫でられ奪われて、乾く目に瞼を閉じて。
全員心の高揚感に打ち震えている。
この代わり映えしない景色と、その魔物。バリエーションのなさ。着々と身につけて行く力に喜びながらも、何れそれは変わらない己。慣れてしまえば何も変わらない「それ」でしかないそれに、同列となる仲間がいて、見下すものが無いものの、それで成り立っている。
力というのはそういうものだ。
持っていればなんてこと無いものであり、持って仕舞えば失望するもの。だが、持たなければ欲望する代物。
途中に出くわす魔物だって、思いっきり蹴り込めば即死。
それくらいのレベルをここで地道に上げてきた。
でも、レベリングとは凄く地味なものであったりする。
高みを目指す為に下層で只管闘って経験を得る。
それは当たり前。だが、当たり前のようだが、次のレベルがたしかに見えるその時は苦痛でしか無い。
届きそうも無いのだ。あのレベルに。焼き付けられたあの脅威に。
だから、前みたいに好奇心とかで進む馬鹿を仕出かそうと思わなかった。釘を刺されていたこともあるが、何より、凡そレベルを上げないといけないと言う、確固とした固定概念が染み付いてしまったこともある。
本当にあの時は死にかけたからだ。寧ろ、lv10平均で6頭も狩れたのはアドレナリンというよりも奇跡だったのだろう。逆に狩られてもおかしくなかった。
そんな、トラウマじみたこの階段の先の世界。
各々目を配って、頷いて、100段、その先へと歩みを進める。歩く事で少しずつ暗くなる階段。視覚的な足場はない。
だけど、感覚的にはそこにあった。
そうして歩けば、光が射し込んでくる。前と同じ景色。
俺は一歩躊躇うが、再び脚を伸ばす。
「さぁ、行きましょう」
lv1嶋崎、頑張れば何とかなるを信じる。
前に来と時と変わらないlv1。少し捉えられなくなる瞬間のある世界だが、まだ行けるはずなんだ。
「はい」
後方から同意の声が聞こえた。
それを聞き入れて、最後の一段を踏みいでる。
眩しい光。
緑色の草原。
広がる木々。
靡く風。
咲く花達。
再び戻ってきた。人外魔境。
「二階層。リベンジだ」
<===冒険者協会本部 ===>
これは昨日の出来事である。
「はい。これが明細書ね」
「ありがとうございます」
いつものように素材を渡し、換金してもらう。日々の換金に31枚の明細書。
月給3156万。
内訳された31枚の明細金額がそこにあった。
冒険者、流石。
と、思わず褒める言葉を思い付く。それに、一階層だけで3000万だ。二階層に行ったら倍額は行けそうな気がする。
「あの高城さん。明日二階層に行くんですけど、何か準備した方が良いものってありますか?」
高城さん。この受付嬢さんだ。
セミロングの髪。黒めの茶けた髪色が特徴的。大きな瞳は女性の魅力を引き立たせている。そんな女性。
で、何故名前呼びなのかというと、いつもよく換金させてもらっている常連に、ずっと受付嬢さんと呼ばれるのも何処か嫌だったらしい。職務上、最近のコンビニのようにコミュニケーションを重視の接客が要求されているのか、それとも個人的なものなのかは知らないがそう言うこと。
高城さんは少し「んー」と唸るも、直ぐに答えた。
「やっぱり、武具の新調を視野に入れることかしら。レベルもそうだけど、レベルと同価値なのは武具だし」
武具の新調か……。
「武具の新調って大体どれくらい掛かります? お金的な方で」
すると「わかったちょっと待ってて」という言葉を置いて足早に奥のドアに入っていって、それからきっかり5分後、資料となる紙を見せてくれた。
「物によるけど、二階層となると大体一部位辺り350万のものを視野に入れた方が良いわ」
「さ、三百五十万……」
このタダで買った装備の満額が350万だってのに、一部位350万……。
頭、首、胴、腰、肩、腕、手、脚、足。
最大9品、3150万円って俺の今の月給……。
少し暗めの顔。それにあははと苦笑いな高城さん。
「高いのは仕方ないわよ。だって、買う人がそこまでいないもの。気になるお値段は、本実装される来年まで待つしかないわね」
そう言えば、冒険者の本実装とかあったな……。俺たち先行待遇者なだっけ。
そう考えに浸ろうとした時、高城さんは「あ、そうそう」と言った。
「最近、冒険者用の鍛冶屋がオープンするのよ。軽く15店舗、それぞれ5人の職人が配属されてるわ」
高城さんは続ける。
「それでね、お陰様で、態々こちらで製造を頼みに行かなくて済むようになったのよ。こんなにめでたい事はないわっ」
そう言って、ふんっと鼻息をしているところを傍らに、読みを得た紙を返すと突き返される。受け取っておけという事らしい。
んー、それにしても3000万。少なく見積もっても、俺の武具は5個はつけるから1500万くらいか。高いなぁ……。
「はぁ……」
「なーに溜息ついちゃってるのよ」
「あー、いえ。新調を視野に入れたらとんでもないなと思いまして」
だってさ、最低1500万なんて使えない。使いたくない。借金があるし、なんてったって俺は下層国民だ。最安値の家が買えるじゃあないかという考えに辿り着く。
「それが冒険者のジレンマなのよね……」と、高城さんは言う。
まぁ、そうなのかもしれないと、俺も思う。使えば壊れる。買えば減る。時が経てば風化する。
そんなものだもんな、物って。
はぁ、儚い。儚すぎるよお金。
「あ、そうだ嶋崎君。お金に困ってるならいい話があるんだけど聞かない?」
「いい話……ですか」
それは唆られる話だ。どんなものか気になる___
<=== 現在 《東京ダンジョン【二階層】》===>
それは初実装という試み。
クエストである。
クエストとはよく名の知れた依頼話の事。
そしてこれも変わらない。依頼話だ。
クリア報酬は150万。
内容は二階層の森に群生している【治癒薬草】を50本程摘んできてほしいと言うもの。
たかが薬草、簡単そうじゃん。
と、初めて見た人は考えると思う。ああ、実際俺もそうだった。
だけど___
「こうも見分けが付かないとは思いもよらなかった」
参考資料を片手に生えてる草を注視する。だが、どれもこれもそっくり過ぎて分からない。寧ろ、これが全部そうだと言ってもらえた方が助かる。
けど、そうも上手くいかないんだよなぁ。
「嶋崎さん、見つかりました?」
「いえ、影宮さんは?」
「こっちも全然……って、後ろ!」
「え、またかよ……っ!」
そしてこの依頼。もう一つ難点がある。
「エンカウント早すぎるわ!」
抜き去った剣のまま、シルバーウルフをぶつ切りにする。
そう。このダンジョンの、森というのはちとばかし、草原よりも難易度が上がる。
先ず足場。一階層とは比べものにならないほど木が生い茂って、足元は根が太く張っている。
二つ目に魔物のエンカウント率の高さ。5分もしたらすぐに出くわす。それもシルバーウルフ。
鼻が良いせいだろう。直ぐに嗅ぎつけてきては、俺がぶった斬るを繰り返しており、お陰様でこの1時間10頭は素材と化してやった。
「はぁ……。こんな薬草集めってめんどくさかったっけ」
カサカサと揺れる木の葉。それは俺を嘲笑ってるようだ。日の光もその木の葉でカットされてる。
半端なく暗い。
「俺も同意です。ゲームなら薬草というのは一つで採取どころも決まってますからね。見分けをつけるスキルなんて必要ないけど、こうも人目に頼るとなると……」
影宮さん。俺もそれに同意です。
「「はぁ……」」
川端さんたちは、どうなんだろうか。
そう思った。
この二階層にて、初探索として受けたクエストで、効率化の為に2:3で分担してみたのだが採れているのだろうか。それであるのなら羨ましい。
あー、もしそうなのであれば、探索をしてもしても薬草ではなく木が群生していて、探せど探せど見つからなくて少々苛立っている俺たちの不遇さを分け与えて上げたい。
本当に開けた場所が見当たらない。辛い。
一層の事、この木ごと切り裂いてやろう……か。
俺はそれで閃いた。
「影宮さん、分かりました!」
「え? 何がです」
「少し下がってて下さい」
影宮さんは「はぁ?」と不思議そうにしながら三歩ほど下がった。俺はそれを確認して剣を抜きながらスキルを発動させる。
「空気圧縮斬」
空気圧縮を利用して、刃を発生させる。鋭利な空気の刃は、あの山の木ですら切断する程。
さぁ、道よ切り開け!
「えと嶋崎さん」
「さぁ! どうぞ!」
「あ、あの嶋崎さん?」
「さぁ!」
「あの、何を」
「さぁ!」
「あー……。もし、もしですよ。もし、何かしたのであれば……壮大に何も始まってないですよ」
「さぁ……」
分かってましたよ、ええ。
放った瞬間に分かってましたよ、放ったの俺だもん。
結局、空気の刃は軽く木を傷つけただけで留まった。つまり、この木だけで強度がノーマルな木の何倍の強度を持っていることとなる。あの山以上の硬さだ。
失望した。
肩は自然と落ちる。
そんな俺の肩に手を置いたのは影宮さんだった。
「嶋崎さん。チートは使えないんです」
影宮さ___んぷ
顔を声のする方に向ければ指が待っていた。典型的ないたづらだった。
「はは、さ、元気出して行きましょ。まだ1時間ですよ」
「……はぁ、そうですね」
俺は慰められながら光の薄い森へと、再び歩みを進める。
「そうだ。爆破させよう」
「嶋崎さんっ」
「はぁ……」
壮大に何も始まらないで第二階層が、こうして始まったのだった。
……という訳にもいかず、というか、そんな悠長な事を考えている訳にもいかない状況。
実はクエストにはもう一つ内容があった。
それは、このクエストが期限付きという事。
血眼で探す事に変わりはない。
この探すと言う思考に変わりはない。
あー退屈だ。
そして多忙だ。
滅茶苦茶疲れる。
神経が凄く削がれる。
「嶋崎さん、ポイント変えてみます?」
スキルを使おうと考えてから3時間後のこと。お昼時間に近づいた頃、影宮さんがふと呟いた。
んー、そうだよなぁ。こんなに探して無いんだから、ポイント変えるべきか。
「そうですね、無さそうですし」
という事で、この苦労も止む無く終了。つまりは無。そして、このポイントには薬草がなかったと言う事で脳内地図にはペケだ。
このクエスト期間は3日だが、無事に見つかるのか。二手に分かれてるがそれは虱潰しに動く俺たちには関係ない話だ。兎に角探すしか出来ない。
それでも俺たちには休憩も必要だ。俺は森から出たら昼休憩にしようと話を持ちかける。それに影宮さんも了承して、とぼとぼと一緒に森から出ようと帰路に着く。
その時、その道の事だ。
「水の音?」
小さくだが、俺たちが草を歩く音の他に水の流れる音が聞こえた。
「水……? 嶋崎さん聞こえるんですか?」
「え、はい。こっちなんですけど……行きます? いや___」
水場と言えば何かがありそうだ。と思うのだが、そこに待ち受けるは魔物か、それとも薬草か。
どちらにせよ、ゲームならという発想の二人は意気投合した。
「「行きましょう」」
そして、それは功を奏した。
根を跨ぎ、木々を掻き分けて道のない道を歩いていく。そして、水の音はより大きく鮮明に変わっていった。それは、半信半疑な影宮さんも聞こえるほどの。
光は明るい。
ここからでも分かる、開けた場所だ。
もしかしたら薬草が見つかるかも。
俺たちは期待に胸を膨らませて、その先に躍り出る。
「うおっ。よ、よしゃ! あ、ある!」
唐突に大声を上げたのは影宮さんだった。
30mくらい開けた、大きな空間だ。真ん中に川の水が溜まった池があって、そこに貯める川が北側から流れていた。
草は疎らに、コケのある岩や川を泳ぐ魚も居る。
そして、水辺と言えば魔物が水を飲みに来るイメージで警戒していたが、幸い魔物が居ない。
ラッキーだ。
それに、その疎らな草というのは影宮さんがはしゃいだ事を頷けるもの。クエストの薬草だった。
このポイントに三時間以上。水の泡に成りかけた苦労。だがそれは戻ってきた。
生い茂る訳でもなく疎らにだが、それは確かに、そこに生えている。緑色で確かにそこにある。
いちいち取りに行くのも面倒だ。と考えたが、そのカケラすら無かったほんの数分前よりもマシだと、せっせと摘んでいく。
そうして腰を痛め始めた今、素材用バッグがパンパンになる程摘んでいた。
「いやぁ、大収穫大収穫」
「ですね。さっきまでが嘘みたいです」
そこにあった岩に腰を落ち着け、腰を労わる。それだけで若干の腰の痛さが緩和された。
ただ、手が草臭いのが難点で、次は鼻が辛くなってきた。
「嶋崎さん、丁度良いですしここで昼にしませんか」
といいつつ、もうそこにある池で手を洗う影宮さん。準備万端らしい。
「そうしましょうか」
俺も手が臭くて鼻がもげそうだったので、岩から降りて岩で手を洗う。水は透き通る程に綺麗だった。そして底が深いのか、奥は青かった。
池の水はピチャピチャと音を立てながら、薄緑色に変色しつつ、元の透明な色に戻っていく。
もしや、アレが回復薬の色か……?
「ま、いっか……。影宮さん。ここでゆっくりするということで。時間はいつでもいいですよ」
俺は手をタオルで拭きながらそう言う。
「分かりました」
ふぅー、これで帰れる。後は合流するだけか。
再び岩に腰を落ち着ける。
そうしてぐぅと鳴る腹をさすりながらカロリーメイトを取り出した。
「頂きます」
その寛ぎのひと時を過ごして。




