02.目標レベル
30/9/27 鑑定額とダンジョン税に軽く触れる修正
30/9/27 スライムの表現方法を変更しました
俺たちはダンジョンに入って直ぐ、10分の距離にてエンカウントした。
それは一階層でメジャーな魔物、ゴブリンとだ。
緑色の、薄く太陽光を反射する体皮。天下にいても分かる青白い眼光。黄色いギザギザした二本の八重歯。
前までは軽くしか見ていなかったが、こうしてしっかり見てみると凶悪な顔をしているゴブリン。
皆、携えた武器を抜刀する。
今回の戦闘はウォーミングアップという事でゆっくり攻め入る。
それでも、慎重という意識だけを置いた普通の接近であるが。
よし、行こう。
「川端さん」
俺は合図をだす。
すると、川端さんは背中に背負った鉄の盾を構えて走った。
「はぁああ!!」
川端さんは素早く足を運び草を蹴って、走りは徐々に速くなって行く。その突撃は遂にゴブリンへ届き、体当たりをした。
「ふんっ!」
パンッと湿った硬質な音。
「ギャッ、アシャッァア」
川端さんは盾でぶつかったあと、シールドバッシュ___体当たりとともに盾を突き出す攻撃___でゴブリンをその体当たりと鉄の盾の重量で勢いよく跳ね飛ばした。
軽く宙を舞うゴブリン。
2秒程の滞空。
その後、地面に尻餅をつき、手に持っていた鉈はトサッと草の上に軽い音を鳴らした。この時ゴブリンは、ほぼ無防備を晒した事となった。
それでも、よろめきつつも立ち上がるゴブリンは、醜悪に染め直した顔で青白い眼光の光をより強める。獰猛な目つきに加えて鋭い牙を見せつけてくる。「シャァア」と小さく声を張って___
爪を目立たせるように立てて、鳴いた。
「ギャシャアア!!」
威嚇。
そんな所を、影宮さんが二番手としてその場を駆けた。
影宮さんはスピーダー。つまり翻弄して始末するスピードアタッカー。サイスの先端でチマチマと刺したり、切断部で素早く切断することもできる。
そんなサイスはとても効率のいい武器である。特に魔物素材の場合質が求められる為、下手な剣とかで傷つけて殺すと皮が傷ついたり、傷ついた面がギザギザになったりする。
反面、サイスは切り口が綺麗だ。そしてなにより、うまくいけば一狩り。こうした確実かつ、質を高められる為に理に適っていると言える。それが班に二人居るのだから、素材の質に関して心配はない。下処理さえ上手くすれば。
そんな事を考えていると影宮さんとゴブリンの30m程の幅は、あっという間に縮められていた。
草を踏みにじり、一歩一歩飛ぶようにして軽快に突き進む。鎌を横持ちから振り切る為の体勢に変えて。
そうして飛びかかり、サイスで切り裂く。
ゴブリンは、そう思い鉈を振るった。
だが、音は無かった。
そう。
鉈とサイスの硬質な音は鳴らなかった。
目の前に迫っていた黒い影が薄く消え、そこには無かった、居なかった。
それに気付いた頃には血がポタリポタリと確かに溢れていく。
ピュッと切断された血管から血が飛び出でる。
吹っ飛んだ右腕。
紅く染め上げられる草。
「ギィイシャァアア!!!」
絶叫が走る。
耳につくような、苦しみを嘆く叫びが。
だが影宮さんは手を休めない。否、今がチャンスだからこそ手を止めない。寧ろ、より動けないよう四肢を素早く刈り取っていた。
切り飛ばされた腕……脚……血はより多量に吹き荒れて、どんどんと草を侵食していく。
それに伴い叫びは少しずつ小さく、火が鎮火されるように勢いを失っていた。
そして四肢を全て切り飛ばした所で、山田さんがその首の上にサイスの鋭く尖った刃先を突き立てた。
深々と、土まで刺さるサイスはゴブリンの小首をも切断する。ゴロリと頭は転げ、肢体はその場に放置される。
「お疲れさまです」
俺はそんな労いの言葉を掛けて、魔物の死体の解体に向かった。
素材は新鮮さが一番だ。
バッグパックからナイフを取り出して身体の首筋から、無くなった足首までかけて薄く刃を入れる。
スーッと入る筋。それを反対側も同じように切り裂く。その時だが、滑り止め手袋を付けているとはいえ、血はネチャリと手に付着しナイフを滑らせた。
少しイライラする。
だがまぁ、それは仕方ない。処理をするにあったては。
それにしてもだ。これはいつやっても気分的になれない。魔物を殺す事に関しては山の時点で慣れていたが、解体はやっぱり。
だから、牛や豚の加工をしている人は偉大なんだなと、俺は今回も思うわけだ。
切れ込みが入ったのを確認してから鞘にナイフを収める。そして、手でバリッと皮と肉を剥がし、皮を素材として剥ぎ取った。
この時、肉が付いていると肉の腐食や素材の劣化に繋がるから、しっかりと肉は落とさなければならない。
それを2枚とも、綺麗に剥がしてから水を軽く掛けて血を流す。そうすればゴブリンの皮の出来上がりだ。
これ一枚5万円。
次に離れた顔を手に取る。ゴブリンの大きなギザギザした八重歯。これが素材だ。
……ゴブリン素材ではこの二つ位しか素材にならないが。
歯茎に刃を突き立て2個えぐり取る。この時、ギザギザしたところで手を切る事さえ注意すれば問題ない。する事はこれで終わりだ。
この黄色い牙一個1万5000円。
回収した素材は水で濯いでから水を切って素材用バックパックにいれる。
こうした狩りで1匹につき計13万円。ゴブリンの皮が二枚に牙二本だ。所要時間は慣れて来たおかげで8分といった所。そして、これを山分けするから一人二万六千円。ペース配分で言えば順当な額といった所。
ふぅと息を吐き汗を拭いて立ち上がる。
残った肉と頭。これは何にも使えない。
だから放置する。放置しておいても他の魔物が食べるから腐臭とか考えなくて良い。
悠夜は軽く手を濡らして、手拭き用のタオルで手を拭けば、素材用バッグに少しの重みを感じつつ、再び魔物とエンカウントしにいった。
兎に角、今回の目標は班のみんなが平均的にレベル15に到達してもらう事。
現在トップは川端さんlv13。
次に狭山さんでlv6。
山田さんと影宮さんは共にlv5。
そして俺だがlv1だ。
理由は分からない……訳ではない。俺の見解では、素の身体能力が高いから、そこに換算する能力値も高くなる。つまり、必要経験値が未知数で高い数値を求められていることになっているという事だ。
因みに、俺がlv1だから弱いという訳じゃなくて、どちらかと言えば、再び川端さんと差が開いていたりする。川端さんの成長率から鑑みるにlv35相当だ。
それで、lv15が目標というのは、取り敢えずの目標で意味はない。
「はぁああ!」
だから、兎に角今は___
「ギシャァアア!!」
狩るだけ。
「狭山さん!」
「ていやぁ!!」
お金とかもそうだが___
「せいっ!」
レベルの為にも___
「オラァ!!」
ひたすらに。
「はぁはぁ……」
全体的に疲労の色が見え始めた頃。大体3時間に突入した所だ。水分補給はあれど身体的に休める時間を作ってない為、レベルが上がっているといっても疲れはくる。
それに、お腹的にも休まなければならない時間だ。
「この辺りで昼食休憩にしましょうか」
休憩のポイントとして、広く開けた場所が一番いい。一班五人なので全方向見渡せるから、奇襲される確率が低い。そう、あの3ヶ月の講習で教えてもらった。
パンパンに膨れた俺の持ってきた素材袋。それをドサっと少し乱雑ではあるものの置いて、腰をその場に落とした。
「嶋崎さん。次は私が素材を集めますね」
そんな俺を見て、狭山さんが言った。
「はい。分かりました」
素材集めはローテーション式だ。初めの人のバッグがパンパンになったら次の人が剥ぎ取り、回収の番が変わる。そして、全員のバックの荷物が膨れれば、その日の探索は終了という事になる。
俺はバッグパックからペットボトル2本とタオルを取り出す。一本は、キャップ部分が少し赤黒く、もう一つは持ち手のところが赤かった。
俺はキャップが赤い方を手に取り、手に水を掛け、タオルで両手を拭く。こうでもしないと血が汚いし、臭いし不衛生だ。
さっきまでよりも多量に水を使ったからすぐに汚れてしまったタオルだが、仕方ないと割り切って中に直し、もう一つのペットボトルで水分を補給する。
「はぁ……」
ペットボトルを地面におけば、悠夜は両手を後ろに着いた。
大体三時間。ここまで、27匹のゴブリン他魔物討伐時間。金額に変換すれば最低買取額87万円。そこに鑑定額とダンジョン税とかいう税により二割額、17万4000円減って69万6000円か。
今回の素材内訳___
ゴブリン 13万 5匹
スライム 1万 12体
キノコメル 2万 10体
ゴブリンの金額が高い理由として、一階層で一番使える素材だからだ。数に関しては、メジャーといっても周知が成されているだけで、数が多いわけでもない。それに、経験値も俺の見通しではあまり美味しくないことがわかっている。
だから、経験値が多そうな水溶生物スライムを多く狩った。
スライムと言えばドロリとしている形状で、ペチャリとしているが、どうもこのダンジョン。予想外に等しい形状の固形型であった。どう形作っているのかはわからない。
だが、スライムはそれよりももっと面白いところがある。それは力尽きると十円飴の大きさまで萎むところ。
そしてこれが素材である。
持ってきた瓶。これ一本満タンで12万。
内容物は微量の強酸が含まれた水溶液だ。萎んだスライムを割ればこれが少量出てくる。ただし、注意事項としてその水溶液には触らないことである。俺は指紋が溶けかけたのでその重要性を理解している。
最後にキノコメル。
動く口と牙のあるキノコだ。大して強くないが、傘から放出される胞子は微量の毒性があり、吸い込めば一時的な呼吸困難や目眩が起きる。また、これが素材である。そしてこれがまた面白い。
石板を鉄板代わりに敷き、傘を切り取ってそこに置く。そこにライターなどで火をつけると傘は燃えていきものの3分で粉末になるのだ。取れるものこそ微量だが、たしかに採取ができる。
そんな事を、取り出した黄色の粉が入った試験管のようなものを見つめて考えていると、思い出したかのように思った。
カロリーメイト食お。
さっきついでで取り出したカロリーメイトの封を開ける。すると、ふわりと香ばしい甘いレーズンの香りが鼻を刺激した。
サク
その音と食感だけでお腹が満たされ、あっという間に食べ終わる。もう一つ。
サクッ
残ったのは封だけ。最後に水を飲めば、腹が膨れて食事終了。昼にしてはおやつ感を拭えないのは仕方ない。
「所で、昨日言っていた見せたいものってなんだったんですか?」
川端さんは乾パンを片手に、聞いてきた。
「ああ、そうですね」
見せたいものがある。俺はこの日の前日にそれを伝えていた。
「僕が前々から言っていたスキルについてです」
俺は3ヶ月間悩んでいた。あの程度の力であーだこーだとなったせいである。
スキルについてなんか話せば再び、いざこざ起きるのではないのかという、いや、爆弾的なまでの話だ。余計頭を悩ました。
だけど、どう考えてもいつか使うという可能性の方が高かったりしていた。やはりそれは、その力の使い方を知っていて尚且つ所持しているからだ。使わないという事の方がどちらかと言えばおかしい。
かと言って見せるのもどうか。
そうした悩みの末辿り着いた考えは、この人たちにだけには伝えること。理由は、一番近い共同者だから。
「黙っていても、持っているからには使う場面があると思うので見せたいと思います」
それに、3ヶ月だけではあるがそれなりの時間を共にしてきた仲。早めの決断を下す必要があったが、少し長い仲間であるという点を利用して、口外させない事も考えて。
そして、今から見せるのは、一番映える魔法。所謂ネタ魔法。
「青火」「灯れ」「その輝きで」
スペルが霧散すると、ボアッと一瞬青い火が燃え上がった。
この魔法はこれだけだ。でも、それだけでもこの力の異常性に気づく。
「すっ、すげぇ。火魔法とか……えぇすご」
「っ……」
「何だろ、青い火の魔法? 火の派生?」
「嶋崎さんはほんと何でも出来ますね……」
目の前で起こった事に目を丸くして驚きつつ、若干2名、察しのいい発言が驚きとともに溢れる。
「えー、何といいますか……僕は長期的にですが階層を登る内で手に入れたとかの辻褄を考えていまして」
俺は言い篭りながら続けた。
「これは魔法スキルの火魔法で他にも色々ありますが、そういう事になります。……大丈夫ですよね」
そんな、決心をつけたのに意見を委ねる自分は、やはり不安を抱えているのだと再確認した。そもそも、話さないと話が拗れる話なんだろうが。
やっぱり、話す事には終始抵抗があった。
少しの沈黙に狭山さんが口を開く。
「ええ、口外はしません。と言いますか、先々月の時点で約束しましたので」
そういう狭山さんは何処か腑に落ちない顔をしつつも、言ってくれた。それに首を縦に振る皆さんも約束するという事。
「ありがとうございます」
俺はこの時、少しホッとした。




