01.ダンジョン活動再始動
30/9/24 武具についての加筆修正をしました
8月の猛暑が髪の毛を茶色に染める季節。珠のような汗が頬や額から浮かび上がり、気温に思考が揺らぐ。そんな、37度をキープするここ最近にして、漸くダンジョンに潜る許可が下りた。
それは3ヶ月の訓練を終えた昨日、このどうしようもない暑さが始まった今日だ。
手で生温い風を仰ぎ、涼しくもないのに目を細め、その時に目に入った汗がしみるのを我慢しつつ、俺は防具を身につける。
太陽熱に熱される胸の鉄板は無駄に光を乱反射して、少々鬱陶しい。他にも鉄小手、鉄の膝当て、革のグリーブ。俺の場合は軽装がいいので軽い防御力の物を着けている。どれもダンジョン産の鉱石を使った防具だ。
因みにだが、これをゲンナマで買おうなんてしたらいけない金額の物ばかりである。
抽選冒険者特別待遇、其の二程度に書かれていた事で、税込350万までの武具購入金は国が負担するとの事であった。まさに特別待遇。
だから地味に軽装にしつつ、良い素材の物を買った。例で言えばこの革グリーブだ。3階層でとれる魔物の皮を鞣して作った代物らしい。柔軟性、強度申し分がないものである。
そうした防具装着は、髪の毛が汗に束ねられると共に終えた。
熱されたドアノブを曲げて、階段を下りる。壊れたエアコンのせいで暑さに悶えていたが、この直射日光がより著しく思考を低下させた。
「あちー。溶ける」
ギンギラ燦々、ガンガンと太陽は地上にあるもの全てを照りつける。俺は、それが嫌いで近くの屋根下にできた小さな影に隠れて歩く事にした。
ここ3ヶ月。異様な建築速度で建物は再建されていった。それは、前のような近代的なものではなく、娯楽施設二割、住宅地五割、飲食店三割といった所。
この瓦屋根は京都を少しインスパイアしたのか、昔を感じさせる風情のある和だった。
渋谷109とかスカイツリーもないから、それはそれで東京の感じがなくてショックだった。
アスファルトもしっかりと固まっており、信号も整備されて、冷気を放つコンビニも営業。車も人もたった3ヶ月なのに行き交う。
ヒトの開拓技術は半端がない。
ヒトの開拓技術と言えば、外国の方でもダンジョン攻略に手をつけ始めたらしい。日本を習ってのことで、混乱はあるものの素早く冒険者制度を適用。そして輸入ではダンジョンの出土品を高く買っているらしい。需要と供給だ。
それからトボトボ30分歩いた所で足を止める。ヒンヤリとした冷気と自動ドアの快適さに歩みを進め中に入る。そして辺りを一瞥するがそこには、誰もいなかった。
「まだかなぁ」
所で、俺は何を待っているのかというと川端さん達である。明日……つまり今日からダンジョンが解禁されるので、冒険者協会本部を集合地点に決めて集合したのちダンジョンに向かうためだ。
相変わらずの柔らかいソファ。身が沈む。うちの安いベッドやソファとは大違い。
少しぼーっとした後、蒸せる背中に背負ったバックパックを下ろす。そしてチャックを開けて鞘に収まった剣と十本の短剣の身を、少しだけ出して確認する事にした。
刃は俺の顔を綺麗に映す。刃毀れはない。……昨日配布されたものだから当たり前だが。
他にも、とバックパックの中を再度軽く確認する。
中身は懐中電灯に換えの電池が60本。
砥石、タオルが2枚。
4日分の携帯食料、主にカロリーメイトを主とした腹の膨れるものだ。
水のペットボトルが10本。予備にもう10本。
救急セット。
小型の採取用の剣と鎌、斧。空の瓶が3本ずつ。
ライター5本とマッチ2箱。乾いた薪が2巻。
計総量は推定20kg。中々に大きい。
そこに加えて素材を入れるバックを2個持つので、背負う量がとても多い。
だから、こういう時こそダンジョンもので有名なマジックバックとやらがほしい。あの二次元にしかないものが、この現実にあればどれだけ助かることやら。
詰め込んだものに間違いないのでチャックを閉める。
「……まだかなぁ」
オサレな時計に目を向ければ9時前。集合は9時15分だから、無難な時間だけど早く来すぎたか。
暇に思いスマホを取り出す
そして、昔書いたスレの記事を見返すために6ちゃんねるを開くとそこには、ダンジョンの記事がダッと並んでいた。ある意味壮観である。
だがその中で異様に注目度の高い記事があった。
【未来人の予想的中。魔法があるらしい】
思わず吹いた。
「これはまた今度にしよう」
読みたい衝動に駆られるも、自身の撒いた種が咲いた事に喜ぶも、800スレの文字がこのたかがしれた時間で読めないと暗示させる。だからカチャと携帯の電源を落としバックの小さなポケットに放り込んだ。
それから5分程度時間が進むと、背後に一瞬の温い熱気を感じた。
「おはようございます、嶋崎さん」
「おはようございます狭山さん」
10分前行動中々やりますね。
「嶋崎さんはやはり軽装ですか?」
「ええ、僕の場合はゴツゴツしてますと動き難くて。アレは嫌な思い出です」
7月の甲冑が脱げなくなった事件。
今でも気恥ずかしい。
そう頬を少し赤らめながら狭山さんの服装を見ると、それなりに防御を固めている事に気がついた。
鉄のグリーブとか、それが顕著に現れている。ただ、全身鉄防具とかではなく、所々省いているものがある。例えば俺みたいに背中と胸だけの鉄板。腰は、ナイフなどの小型の武器を収められる鞘のあるベルトだけ。
「強そうですね」
「そうですかね?」
狭山さんは自分の手を裏返したりして、装備を見るために視線を動かしてみていた。
と、そこにまた生ぬるい空気と冷気が交換される。
「おはようございます」
「おはよー」
「よ、よろしくお願いします」
正に三者三様である。
「おはようございます」
「おはようございます、皆さん」
そう声を返しながら振り返った時、俺は度肝をぬかれた。
「か、影宮さん。黒いですね」
「ええ、どうっすか?」
よく言えば死神。悪く言えば厨二スタイル。
染色した黒のグリーブに、黒の腰鎧。黒色の腰巻。黒色の薄い生地の外套。十字架のネックレス。
やべぇ、影宮さんのスタイルってこんなだっけ。
「そんな軽装で大丈夫なんですか?」
ダンジョン産の革装備といえど、鉱石防具には勝てない。全身暑そうなスタイルで、防御面は大丈夫なのか、動けるのか少し微妙なところ。
「はい。俺サイスなんで、重いと思うように動かないんですよ。だから軽ければ軽いほどトリッキーに攻められます」
「あー、了解です」
スルーしよう。俺はこのまま話を続ければ厨二病の闇に引き込まれそうという予感を抱いたので、直ぐに話を振った。
「山田さん。本当に重くても行けるんですか?」
同武器なのに、対極的な二人だ。
山田さんは全身甲冑。もういっそのことロボットみたいに暑苦しい格好をしていた。なにより、全身甲冑なんて動けなくないか? と俺は思う。
のだが……。
「僕がしっかりと命を刈り取る為に、近接でも無事でいる方法ですし、昨日の段階で決まってましたから」
「そ、そうですか。……でも、体力奪われません?」
「んー……まぁレベルアップで筋力が上がればなんて事無いと思いますよ」
そうそう。レベルアップについて最近解明というか、少しだけ分かったことがあるらしい。それは、パラメータの向上である。
つまり、筋力、防御力、思考力他何種かの身体的能力が向上するということ。まぁそれぐらい知ってるて言える話なのだが、それが間違いないという事で世界に情報が広がったということでもある。ダンジョン先進国だけに、世界との共有は一役かっていた。
「川端さんは無難なところですね」
「ええ。資本通りですね。中々いい組み合わせが分からなかったという事もありますけど」
川端さんは無難な線を貫いた防具である。
斧と言えば重騎士のようなものを連想するが、それは中々動きにくかったりするから、近接で予想される攻撃部位を必要最低限守るようにしてつけられていた。
革のグリーブ。腰鎧。三角の胸プレート。肩の鎧に革の膝当て。ヘルム。
最後に、背中の盾をあわせれば、無難に守りをこなしながらも攻撃できる。
「では、皆さん揃ったので少し早いですが作戦チェックといきましょうか」
「「「「はい」」」」
作戦。といっても、行動指針を主に記す話だ。例えばあなたは守って、あなたは攻撃で〜みたいな。
そして、昨日の段階での話は___
川端さんは【守盾/攻者】
盾で攻撃を受けつつ、斧で反撃。
山田さんは【一撃】
重装備で突撃し、一撃で仕留める。
狭山さんは【急所】
槍で脚、腕の稼働を不可能にする。
影宮さんは【翻弄】
素早い動きで連撃を与える。
そして僕は【崩し】
硬直状態を崩す。
この行動指針で、レベルを上げを中心に動く。
「これで大丈夫ですね」
それぞれ頷く。
「分かりました。そういう事で宜しくお願いします。……では行きましょうか」
外に出ると科学の偉大さが分かった。変わりすぎる空気に、直ぐ汗を浮かべる。だが、黙って歩くしかない。ダンジョンに向かう道は大体ここから10分。30分に比べたらまだましだ。
それから10分程でウォールのゲートについた。そこには帯剣する男性と女性がいる。
「河田さん、白那さん。おはようございます」
「おはようございます」
「あー、嶋崎さんですか。おはようございます。今日も暑いですね」
挨拶を交わし、柔和に汗をかきながら笑う河田さんと白那さん。
彼らは、先行部隊として入っていたらしいのだが、この1週間は休みらしい。だからここで立って監視役をしているとのこと。
暑いと嘆きながら、一昨日、冒険者協会本部で愚痴られたのは今でも覚えている。
そう言えば3ヶ月前に気絶させた事なのだが、それについて謝ったら気絶した原因すら覚えてなかったらしい。それに対して事情を嘘を交えて話しすと「僕の暴走が原因ですいません」と逆に謝られてしまった。
そんな事を思い出していると、気になるものが河田さんの背後にあった。それは液晶画面とタッチパネルだ。
河田さんはその俺の目線に気づいたのか説明してくれた。
「これですね。これは今日から導入したものでして、冒険者カードを翳してもらえれば簡単に入った時間と名前が記録されるんですよ。お陰様で手間が八割無くなりました」
「へー、最新鋭ですね」
俺はそんな解説を受けつつカードを翳す。
すると甲高い電子音が鳴り、上の液晶画面に俺の情報が映し出された。
「はへー。良かったですね河田さん、白那さん」
その後、俺たちは難なくとゲートを越えて、ダンジョン前での身体検査ののちダンジョンの中に入っていった。
中は前に来た時と変わらない草原。
一つ変わったところと言えば、集落がなくなった頃からだが、魔物が視野内に3から5匹見つけられるようになった。
「ふぅ、行きましょう」
各々、バックから武器を取り出すと腰や背中に携えてダンジョンの奥へと進んでいった。




