09.罵詈雑言
タイトルのみ変更
「なんで……」
声をする方に顔を向ければ山田さん、その人がいた。助けに来たとも言った。だからその時、心の中で唖然とし、落胆とする。そういう感情がめんどくささを生み出し、失意の底に陥れる。
「なんで、来たんですか」
山田さんは逃げたはずでしょ? そう問いかける……も。
「そ、そりゃ、見捨てられないからですよ!」
予想通りという、苦虫を噛み潰したような悠夜の顔。
ピクリと頬が痙攣する。
「……あ、ああ。……ぁあ、そう、ですよね」
悠夜は、短剣を持ったままだが思わず顔を手で押さえていた。
なんで、こうも人の話を聞かない「ロクデナシ」が、班に2人もいるのだろうか。
ああ、1人ならまだ了承しよう。
だけど、もう1人。
それも、レベル1だ。考えて行動してくれよ……。
……これは本当に、流石にやってられない。人の意図を汲むは汲むが、人を助けるは助けるが、協力するはするけども___
それにも限度があって、川端さん「だけ」だからこうして戦って協力した。そう、それは1人であり、人の話にも耳を傾けず確固として残るからだ。
だけど、これ以上の足手纏いはやめてほしい。
無駄で何の足しにもならない手間をかけさせないでほしい。もう俺には短剣しかないからやれる事が「かなり」限られているんだ。庇いきれない。
それに、俺は助けると言ったが、助けてなんて言ってない。寧ろ逃げろと何度も言ってる。
「山田さん。貴方では力不足ですから」
だから、俺はここに戻って来たことを否定した。
「そ、そんな事ないです! 僕だって、ちゃんとレベルアップしてますから!」
そんな俺と反対に、精々の威勢を張って抗議するその姿は、何処にでも居そうな頑固な子供のようで、出来もしないのに否定されたからムキになる大人としては「ロクでもない」姿。
ピクッと頬が痙攣する。
「そうですかわかりました」
それなら、もう、勝手にしてくれればいい。考えて、言葉にするだけ無駄なのは川端さんで理解した。
死にそうになったら「全力」で助けるが、死にかけるのは自業自得だ。川端さんにも同じ条件を背負ってもらっているから、依怙贔屓でもなんでもない。
逃げるなら、そう。逃げておけば良かっただけの話。それでもういいだろう。面倒くさい。
「川端さん、行きましょう」
「えと、は、はい」
左手を前方に、右手を後方に構えて、狙いを定めて飛び込む。
「はっ」
「てりゃぁああ!!」
川端さんは俺みたいに跳ぶことができない。レベルが上がったので、さっき跳んでみてもらったが精々8mそこそこ。まぁ、それだけでも凄いが、俺と同じ上空殲滅からという戦闘方法は出来ない。
そうなると、地上の敵の討伐へと必然的に移行する。そして、地上の敵というのはフュージゴブリンが7体。
各々走り保つ距離はバラバラだが、数と個々の脅威の高さは変わらない。つまりだ。川端さん本人に自分の命をより死守させる事になる。
でも、それを望んだのが川端さんなのだからそれでいいだろう。
だから、俺はニュー川端さんに信頼を置いて、気にせずに木々のゴブリンに突っ込む。
「はっ!!」
ヒュージゴブリンとは違い小首だ。だから、どちらかと言えば、スピードに任せさえすれば簡単な作業。
悠夜は木々を一本一本、強く踏みしめて速度を上げて___その一蹴りでゴブリンを3匹抜き去りながら討つ。
その血が木々を濡らし、鉄臭さを辺りに充満させる。
反対に川端。
彼は地上を走り、ヒュージゴブリンの攻撃を斧の刃で「しっかり」受け止めてから、側面に回り込み膝裏の筋を切った。
ヒュージゴブリンは顔を顰めながら片膝をつく。
「はぁああ!」
そこを狙ってもう片方の筋も切る。
これが川端の戦法。否、これでしかフュージゴブリンと戦う事しか出来ない
だが、ついさっき倒したのと、悠夜が押し倒したモノを数えればフュージゴブリンとの闘いは計2回。だから分かるのだろう一度だけ頭ごと倒れる隙。
川端はそこを狙い、大首に斧を叩きつける。それは、その二回よりもすんなりと入りこんでいた。
血は激しく吹き出す。
そんな川端を見ながら、悠夜は最後の1匹の首を刈り取り感嘆の息を吐いた。
川端さん、レベルの恩恵をがっつり受けてるなぁ。
そんな、感嘆の息を。
lv1であの動きをしていたら押し潰されるか、回り込もうとして踏み潰されるか。どちらにせよ、生きていてもそうなったら時間がかかり、もう数匹程に囲まれている。
だけど、こう見ているとレベルの恩恵は高いものだと俺は思う。
「はぁああ!!!」
さて、参戦するか。
「川端さん。僕が3匹受け持つんで後2匹を頼みます」
「分かりました___!!」
川端さんの汗に滲んだ顔。息が切れ、肩でまた息をしている。
息が切れている事にそれはそうだと言ってしまえば御仕舞いだが、あんな怪力の攻撃を一回一回しっかり受け止めてたら体力なんて持つはずない。
小説や漫画みたいに行かないのは、現実の体力を鑑みれば何処の世でも同じだろう。
だけど、そういう場合の対処法はある。それは戦い方、つまりはスタイルを変えること。レベルアップという概念があるのだから、それでもいい。
だがこの場合、川端さんを鍛える時間はないから、スタイルを変えるコツとなることを教えるが吉だ。
「川端さん。攻撃は全部受け切るものじゃなくて半分受け切って、後は流すものなんですよ!」
だから俺は一つ助言を残してヒュージゴブリンに飛びかかった。
「半分……だけ」
「はぁっ!!」
「半分だけっ」
川端さんの何かを掴もうとする意気込み。
川端は荒い息を押さえて、目前の敵のためにまた走り出す。
逆に悠夜は、刃毀れでボロボロになった短剣を既に振るっていた。
スキル <魔法斬>
所謂、衝撃波を物理的に変化させるスキル。
体外放出状態である魔力を利用して、押し出された空気の型に魔力を纏わせる。
それによって何が起きるかと言うのであれば、それは真空波のように鋭く速く、無のようでそこにある物体が突き進むようになる。
その形状が破壊されるまで。
そして首の断面物が二本、宙を舞う。何本もの血管が血を吐き出して、太い首を支えていた強固な骨は綺麗過ぎるまでに断絶。今にも襲いかかろうというその首の形相は、あっという間に首を刈り取られた事を明確に記していた。
血飛沫は渦巻くように上がり、真空に粉々になった肉片は風に乗りながら吹き飛ぶ。
「「雷撃よ」「その一閃を描け」「雷線」!!」
そして、3匹目に目を移すと悠夜は早口でスペルを構成し、ヒュージゴブリンに手を翳した。
雷魔法 <雷線>
次には現れた文字は霧散する。
その代わりに顕れたイカヅチはフュージゴブリン目掛けて飛んでいき___
「ヴァアガガ___」
___貫いた。
最後の威嚇なのだろうか。その叫びは風穴と焦げた臭さとともに消え去り、体は力無くその場に倒れる。
___これで終わり___
だが、その時も悠夜は附に落ちないような不思議な表情を浮かべていた。
……なんでだ? 俺、結構魔物殺してるけど、レベルが上がった感じがしない。
そう。ずっと悠夜は考えていた。それこそ間抜けなまでの分からなさで。
気付かない内でのレベルアップかも知れないが、何というか俺自身の身体能力が上がった感じはない。良くも悪くもいつも通り。一体全体どういう事だよ。
悠夜は痒くも無い頬をかく。
はぁ、分からないな……。レベルが上がるのは数じゃなくて経験値(川端さんで立証済み)。未知数なのは分かるが、流石に上がらないということもない量を狩っている。何だったら、俺はまだレベル0だ。
「川端さん……見違えましたね」
そうして悩んでいると、ふとそんな会話が聞こえた。
荒く汗を流し息絶え絶えの川端さんと、関心や羨ましさを孕んだ山田さんの声。
そんな2人の声を聞く限り、何とか倒せたらしい。
確かに転がる巨大な死体は、同じ殺され方でも慣れの度合いが強く出ていた。
俺がそんな事を脳の隅で考えながら、川端さんに労いの言葉を掛けようとした時だった。
「ええ、まぁ。お陰様で。それに、これで嶋崎さんと戦えるようになりましたし」
ん?
俺はこの時、心の中で疑問符を唱えた。
そして、意義を唱えたいと思った。
この人達はなにかを勘違いをしているから。
思い上がってるんだ、強くなったと。
それは、ただの慢心で俺に到底及ばない域なのに。
「……あの山田さん、それに川端さん。もうわかってると思いますけど僕との力の差、どれほどのものか理解してますか?」
コテン。そんな擬音が空中に書かれているような様は何処か間抜け。まさか理解していないのかと、その時俺が思っても仕方ないだろう。
「え、いや。特に山田さんですよ。山田さん。あなたは川端さんとの差もはっきり理解しているんでしょ?」
「っ……」
言葉に詰まったのか押し黙る山田さん。その心情を察するのだとすれば、戻ってきたが蓋を開ければ本当に役立たず。後には引けないが、前にも進めない。そんな所か……。
そこに加えて、川端さんとの圧倒的にレベル差も。
___なら、それならだ。
そこら辺があやふやで、芯が弱いなら、少しの後押しだけで十分だ。
だから俺は、帰ってもらうために言った。
「……あのですね、僕は「私のことはほって置いて」と言う川端さんの意を汲んで立ってます。ある程度、それに値する信頼も置いてます」
へたった体で斧を杖にして起き上がると、川端さんは顔を上げた。
「でも、忘れてるかもしれないですが、ここ。生きるか死ぬかの場なんですよ」
ゲームのようにコンテニューが出来ない。そんなに甘くないと、俺は言った。言わざるを得なかった。
「ほっておくということの意味も分かりますか? 分かってるなら、自分一人でこのゴブリン達を相手にできますか?」
俯くのは山田さん。
この人は特段という訳ではないが、何処と無く物分かりがいい。だがそれ故に、人に動かされやすい。物事に流されやすいから芯が弱い事がわかる。
「……山田さんの覚悟は認めましょう。ですが、実力が、レベルが無いんですよ貴方には」
山田さんは薄く唇を噛む。
後悔先に立たず。だから、戻ることなく逃げておけばよかったのに。
そしてまた、追い討ちをかける。
「僕は、助ける分には助けますが、自分の命は自分で頼みますと煩く言いました。逃げてくれ邪魔だとも言いました。……正直な所、僕以外雑魚なんですって、遠回しにも言いました」
___だけど、貴方達は頑なに耳を塞いで己がママに俺の邪魔をした。それが、どれだけの疲労感を煩わせるものなのか___
「いい加減わかってくださいよ。生死が掛かってるんです。貴方達のちっぽけなプライドなんてどうでも良い。見せられるだけ気分が悪いんですよ」
その言葉に顔を俯かせるのは山田さん、川端さんの2人。そんな空気の中だが俺は、漸く話を聞いてくれた事に少しホッとする。
だから俺はため息を吐けた。
「はぁ……。差があり過ぎるんですよ。求められるプライドよりもこっちの方が。「助ける」と豪語するなら、それに伴った「力」が必要なんですよ」
ま、俺も力が伴っているかと言われれば、不確かなものだが……。
「それでもというなら、僕の意を汲まずに立っている事も忘れないでください」
身勝手なプライドは、半端のない覚悟でしかないんだ。しょうもない好奇心は猫だろうと犬だろうと、それこそ人間だろうと、死へと導くことになるだろう。
お読みいただきありがとうございました。




