05.東京ダンジョン協会本部
「よっこいしょ」
俺は通知を貰ったその日に休暇の申請を行い、翌日に資格及び武器使用許可証を発行して貰った。ギリギリだった。何せ役所と言うところは土日が開いていない。明日になったら終わっていた。
そんな一悶着を終えてから12日後、資格証明証と使用許可証が届いた。
実に長い12日だった。
それでだが、役所で済ましたことはそれだけでなくもう一つある。それは、エレンの戸籍を作り嶋崎エレン。ウチの養子にしたのだ。
歳は不明、ではなく19歳。誕生日が1/18。19歳で通った理由として身元不明て事が大きい。
それで冒険者の話だが、ウチは東京まで新幹線で2時間かかる所にあるから少し早めに出る。
「て、ことで行ってきまーす」
ある程度お洒落な、軽い服装をして玄関に立つ。
取りあえず1ヶ月分の日用品や服を詰め込んでいる。
特別先行待遇ということで、1ヶ月だけ寮で生活できるので、ホテル代がいらない。お金も2万で十分だろう。てか、それくらいしか持ってない。
「気をつけるのよ悠夜」
持ち物の再確認を終えて玄関に立っていると、母さんはそう言った。
「わかってる。気をつけないと保険入ってないからやばいしな」
笑い事じゃないけどな。
「マスター、付き添えない私を許して下さい」
その次にはエレンが顔を俯かせて言った。
エレンは、この抽選までに戸籍が取れず一緒にダンジョンへ行けないことを悔いていた。まぁ、どちらにせよ年齢も19だし、仕方がないとしか言いようがない。こういうのは時間がかかる。
「まぁ、どちらにせよ冒険者をするとしても来年だ。冒険者は来年から本実装されるらしいし、お前の分も頑張ってくるから、暫く会えないけどエレンも頑張ってくれ」
その言葉にエレンは笑顔を作って。
「……はいマスター。頑張って来てくださいね」
「ああ、頑張ってきます」
俺もそれに笑顔で言葉を返す。
和やかな雰囲気。
だけど、ずっとそうもしていられない。
身なりを軽く見てから息を吐いて。
「よしっと。じゃあ行ってきます」
「「行ってらっしゃい」」
そうして暫くの別れの挨拶をしてドアを開けると、明るくなった視界。昇った日差しが目の前を覆った。
なんだか、眩しいな。
周りに誰もいないことを確認する。
「右よし、左よし」
さ、急ごう。
「<不可視化>」
インビジブル。簡単に言うと透明人間になる魔法スキル。大体10時間は解除しなければその状態が持続する。
そしてこのスキル、使用時に触れていたものも透明化させる事ができる。だから服だけが浮いているとかが無いわけだ。因みに、自分にはすべての荷物が見える。スキルというものはいつも不思議だ。
そんな当たり前のことをほざきながら、続けて<飛行>の魔法スキルも使う。
ま、要するに、これで交通費要らずの旅が出来るということ。
上空まで飛翔し、スマホで集合地点をチェックする。ルールル先生はいつも皆んなの味方である。
どうやら、このまま南下して行けばいいらしい。
ルールルマップを頼りに、少しずつスピードを上げながら進んでいく。その時の少しだけ聞こえる風を切る音、それが結構気持ちがいい。よし、速度を300kmを維持しよう。それと高度も300m。この辺りの鳥で上空300mを超える生き物はいないだろうし。
そうして、特に何かがあるわけでもなく、この先の事を妄想しながら無事に東京まで着いた。
案外早く着いたもので目の前に聳え立つダンジョンが東京に来たことを実感させる。
どれだけ楽しみにしていたか、月給100万。夢の給与。
「とことん稼がせてもらうぞ」
ニヤッと口角を上げ、身体を翻し降下する。
それに伴い小粒の建物は大きくなる。それは禿げてしまって復旧不可とまで思われた土地に、人が命を吹き込んでいるという風景。ダンジョンから半径10km範囲の禿げは、この一年で15%まで回復さていた。道路整備の後は建築だそうだ。
それにしても、一つの街が飲み込まれたというのに東京というものは凄いな。もう工事が全体的に纏まりを持ち出した。他田舎とかなら無視なんだろうに。
舗装し直されたアスファルトに降り立つ。
ま、ここは日本の命だからな。蔑ろにできないのは仕方がない。
「〈周囲生命探知〉」
周りに人がいない事を確認し、インビジブルを解除する。そして、目的の建物へと向かう。
舗装された道。といっても建物はそうない。寧ろ、舗装された道だけがあって、そこに建物がないから目的の建物が直ぐ近くにある事を知ることができた。
「ここが、冒険者協会本部」
巨大な建物、でかい、ただ、でかい。それ以外言葉が出てこない。何メートルだこれ、東京ドームの半分はあるんじゃないか?
そう、この建物を前にしてごちる。
そして、これまた大きなガラスドアの前に立つと、ウィーンとセンサーが反応して扉が開く。中はすごく暖かい。まぁ、まだ季節の寒さは残っているからおかしい話でもない。しかし、こんな広い空間の空調を整えるとは、費用が馬鹿にならないだろう。
そんな感想を抱きつつ、広いフロントを横断してこれもまた大きくて長いカウンターの前に訪れる。ここには5人の受付さんがいたのだが、まっすぐ来たので真ん中の人と話をする事となった。
「こんにちは、抽選で当たった嶋崎と言うんですけど」
「それでは、冒険者カードの提示をお願いします」
俺は指示に従い背負ったバックを下ろし、手前ポケットのチャックを開ける。そこからファイルに綴じた書類と、つい最近発行した冒険者カードを渡す。
それらを受け取ったスタッフは、ソファーにお掛けになってお待ち下さいと促して、奥の部屋に歩いて行った。
バックを持って、ソファーに座る。
このソファーは非常に上等なものだ。身体が沈むが、ある程度固さがあるからちゃんと座ってる感じがある。
ソファーに満足しながら、協会内部を見てみるとカフェのようなお洒落な雰囲気があった。
オシャレなのは何処行っても好まれるらしい。ましてや、荒くれ者を連想する冒険者の根城なのに。
あ、そうだ。ニューラインで無事着いたこと送っとくか。
スマホを取り出し、ニューラインを開く。
「「無事到着ーっ」と」
ネコスタンプと共に送る。すると、直ぐに既読がつきお疲れ様と労りの言葉をもらった。
それにありがとうと返信し、スマホを閉じる。
「冒険者か……」
一人ごちる。
まさか、ダンジョンで働くことになるとは思わなかった。大体、山に籠ってスキルなんていう力を得る理由が自己防衛力なのに、こうして活用の場が与えられるとは、これはある種の運命だったりして……。
ガチャ
そんな事を考えているとカウンターのスタッフさんが戻ってきた。
「嶋崎様。確認が取れましたので、控え室に案内いたします。ご同行下さい」
「分かりました」
下ろしたバックを背負い直し、スタッフさんのところに向かう。
「私は冒険者協会本部カウンタースタッフの遊馬実陽と申します」
「あ、嶋崎悠夜です。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
それから数分歩いた先で案内されたのは、通路奥にある階段を上って二階にある講義室の様な場所だった。
「嶋崎様のお席は18番です。この番号札の席に座ってお待ち下さい」
スタッフさんは、そう行った後スタスタと戻っていった。
ふーん。説明はそれだけって事か。それで、この奥で待てと。
中はとにかく広かった。大学の講義室の方がイメージしやすい。だが、それよりも倍の広さがある。この部屋の1番前の作りと思われる巨大なスクリーンが特徴的だ。
中に入り、番号札の番号が振られた席を探す。
えーと、最前列にあるのかな?
番号札の裏に、この席の振り分けと思われる図が描かれていた。なので、この通りに椅子を探してみた。
「18番、18番、18番……あ、あった18番」
どうやら、この図は座席だったみたいだ。
その席に座る。
まだ、他に人は来ていないようなので一番乗りだ。
そう思いながら、机に置かれた書類を見る。
それには自身の顔写真と嶋崎悠夜様と名前が書かれていたので、自分の書類で間違いない。
そしてページを開こうとすると、ある文字をスルーしていた事に気付く。
<講習が始まるまで開かないで下さい>
「はい、すいません」
めくる手を止めて、スマホを手に取る。
流石に誰もいない部屋は暇というものだ。
そらから数分。
冒険者について他にもと調べていると、後ろのドアが開いた事に気づいた。
「えーと、12番……」
入ってきたのは、チャラい格好をした金髪お兄さん。チャラ兄さんは番号札を見た後、顔を上げて俺を見て歩いてきた。
「あの、すいません。12番の席ってどこか分かりますか?」
何とも見た目に反して丁寧な言葉だった。
そんなギャップに気後れしながらも、答えた。
「えーと、多分僕の座ってる列が1〜20だと思うんで、僕から左に6つ目の席ですね」
チャラ兄さんは「ありがとうございます」といって席に座った。
因みにだが、チャラ兄さんも俺と同じくペラっとめくって手を止めていた。
それからは特に会話もなく、暫くすると8人ほど入ったきた。
内訳でいうと、男6人女2人と言ったところだ。
その人達も、俺たちを見て迷いなく席に座った。
そして、これまた会話がないない。なんか、逆に喋ったらダメみたいな空気になっている。
だから何か話そう、そう思ったが喉につっかえて言葉が出ない。空気が重たい。
長い長い沈黙。周りの息遣いが聞こえるだけで誰も話そうとしない。知らない人同士だ。仕方ないとは思うが親睦は深まるべきだとも思う。
そう考えるが言葉が出ない。俺の臆病者め。
またそれから時間は経って、気づけば1〜20の席は埋まっていた。だからと言って誰か話すわけでもなく、沈黙と共に時間が過ぎていった。なんとも、不思議な空間である。喋らなきゃならない気がするがそんな事はしなくていいような重苦しく堅い空気。
結局、誰も喋らないまま講習を行う先生が前に立ってしまった。




