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03.働くニート

30/12/17「17:00」〜30/12/18「22:30」

を予定して改稿中です

《残り微調整》

 俺は今、仏壇の前に立っている。

 そこにあるのは本物の仏壇。黒くて、艶があって、遺影があって、お焼香があって……。


「これじゃ、まるで本当に……」


 その遺影。オシャレではなく、固い服装の、硬い表情の、遺影にするなら他のがあるだろって感じの遺影がそこにあった。


 チーンと心に響く音色が涙腺を震わせる。胸の奥から込み上げてくる熱。吐きそうなくらいキツイ真実。

 強く、力強く合掌するその手には沢山の涙が零れた。生暖かくて気持ち悪い。


 だけど、だけど。


「……とぉさん……っとおさん、っ……父さん!」


 表情は、笑っている……というより、就活生の様な固い表情。笑いもダラけの一つもない。


「なんだよ、何があったんだよ。アンタ、身体は丈夫だって自慢してたじゃあないか!」


 それなのに。


「それなのに、こんな早く死んじまいやがって!! 嘘つきが!! ぁああ、っ、ぁああ!!」


 そうして実感してしまった。仏壇というよりも、その遺影を見た瞬間から、本当に、この世にもう居ないのだと。

 父の帰りを待っていた自分が滑稽だ。まさか、帰ってくる事のない人を待っていただなんて。

 もう会えないなんて。


 3年会わないだけじゃなくて、これじゃもう二度と会えないじゃんか……。それに、出てあげられなかった。


「……っ葬式にも出られなくて……ごめん、ごめんっ」


 それなら、せめて見送ってあげたかった。その気持ちで、悔いるその気持ちで、胸が一杯になる。

 そして、めいいっぱいに涙となって溢れ出し、突然すぎる宣告に心苦しくも実感の湧かないままに打ちひしぐ。

 いつも笑い続ける父さんの記憶が頭の中で何回も再生される。ずっと一緒にいて、居るのが当たり前で。


 居なくなって、それは死んだからで。


「母さん! 母さん……っ!」


 そして母さんは何も言わず俺を腕で抱いた。


「大丈夫、あの人は……っ、怒ってないわ。大丈夫。ちゃんと、手を……っ、合わせたんだから……っ」


 それから俺は、なにかを父さんに語るわけでもなく、ただひたすら懺悔し続けて、夜が明けた。

 そんな夢の中で。


 夢___

 夢___


 一面の水。

 広がる波紋。

 そこに一人の男の影。

 それを俺は見た。


『悠夜、強く生きろ』


 朧げな声。

 でも、聞き覚えのある声___


「父さん!?」


 ばっとかけられていた毛布と一緒に起き上がる。が、そこに父さんの遺影しかなかった。相変わらず、固い表情の。


「……」


 もう一日経ってしまった。


「父さん……」


 また、涙が溢れる。悔いる気持ち、謝りたい気持ち。色々な感情が溢れ出て、止め処なく目から溢れていく。


 強く生きるってなんだよ。俺は弱いんだよ……。


「なぁ、父さん。強く生きるってなんなんだよ……」


 しかし、それは届かぬ声。肩を落として畳に目を向ける。静寂な空間。チクタクチクタクという時計の音だけが耳に残る。

 そんな音が気になり俺は顔を上げて、時間を確認する。


 10:30か……。


 ……取り敢えず、起きなきゃ。

 俺は涙を一生懸命に堪えて、掛け布団で涙を拭きリビングに向かった。


 そのリビングまでの廊下は何処か遠くに感じたのは、自身の心境が影響しているのだろうか。人とは不思議だ。


 ガチャ


「おはよう」


 ドアを開ければ、エレンと炬燵に入って話をしていた所だった。だから取り敢えず挨拶する。

 何故か、挨拶とか喋る事自体憚られると言うか怠い。それでも挨拶をするのは礼儀だ。親しい仲こそ、な。


「おはよう、悠夜」

「おはようございます、マスター」


 それにしても、そうか。こうして挨拶をしてくれる人がこの3年間、母さんには居なかったのか。


「ごめんな、母さん……」


 そう思うと、どうしても胸が痛くなってしまう。そりゃ父さんが死んで、息子も置き手紙があったとしても行方不明のようなもの。心配性の母の気が休まることなんてなかったんだ。


「なによ、謝らなくていいのよ」


 そんな母の言葉にそうか……。と肩を落とす。

 母さんは相変わらず優しいというか、そういう事を言わないと言うか。


 申し訳ない気持ちがそれでも溢れる。


「悠夜、ご飯どうする?」


 そんな事を考えて、そこから一歩も動かず佇んでいる俺に母さんはそう言った。

 確かに、匂いが鼻を踊らせる。いい匂い。美味しそうだ。でも、今はそんな気にもならない……。


「大丈夫……」

「……そう」


 だから俺も炬燵の仲間入りをする。寒い、手先も足先も寒すぎて耐え難い。ウチは暖房ではなく炬燵だから、本当に死ぬ。


 そう思いながらそっと脚と手を入れる。

 そして、この際聞きたかった事を聞こうと思い、口を動かす。


「……なぁ、父さんは何で死んだの? ガン?」


 どうして死んだのか。まだ父さんは40代に入ったくらいだ、三年前なら。

 それなら、老いて死んだなんて有り得ない。となれば、最近流行っていると言っていた脳卒中かガンか。と、睨んで見るが、現実はまたよく分からないもので。


「……違うのよ、斬られたのよ」


 それを聞いた瞬間、今までの思想が激変した。


「は、い? 一体誰にだよ」

「それが……通り魔……で、分からないのよ」


 通り魔に、殺された……?


「刺されて?」

「うんん。胸から腹に掛けて深い切り傷を三箇所」


 おいおい。


「まった、訳がわからんくなってきたぞぉ……」


 殺された。

 殺されたか。


「何でウチの父さんが?」

「知らないわよ、そんな事。私の方が知りたいわ」


 そうか、知らないのか。


「じゃあ何だ、そいつは捕まってないってのか?」

「そうよ、そうじゃなきゃこんな事言わないわよ」


 だよな……。


「…………」


 俺は一体、何を思って、父さんの死に向き合わなければいけないのか、全く見当がつかない。

 どうしたらいいか分からない。


「どうしたらいいんだよ……」


 どう思っていいのか分からない。殺した奴をこの手で殺したいのは山々だけど、それは同じ殺人犯になる。それにだ、まだ捕まっていないなら殴る事すらできない。憎い、けど、何もできない。


 ふざけんなよ……。


 ガンっと炬燵机に額を叩きつける。


「なに、母さん」


 だから一度頭を真っ白にする。そうすると自然に心が落ち着いた。そして、母さんが何か言いたそうに口をパクパクさせていたので聞いてみる。


「えっ、あ、ぁうん」


 しかし……。


 なんだよ、吃りだして。怖いだろ、これ以上に何があるって言うんだよ。


 だが、その危機感知能力による反応はとてもとても、正確であり、正しかった。


「借金があるのよ」


 は? と、顔を上げる。


「なんだよ、借金ってさ」


 意味がわからない。唐突すぎる。父さんが殺されたって話の次は借金……? これ以上ふざけるのもいい加減にして欲しいんだけど。


 そんな俺の気持ちを察してか説明してくれた。


「あのね、悠夜。別に借りたとかじゃなくて、パパが殺された後会社が徐々に経営不振になっていって、倒産したの。その時の借金___」


 母さんは続けて話す。


「会社の人がなんとかしようとしたらしいけどダメだったらしくて」


 倒産。経営不振。

 あれだけ成功した会社が果たしてそんなに簡単に潰れるものなのか。


 一つ心にはてなを作りながら、続けられる母の話を聞く。


「それで、借金についてだけど……所有してた田畑を全部売ったのわ。……でも、残りのお金をこの家を維持しながら返済するのは至難の業でね」


 憂鬱そうだった、とても。


「6500万。それがウチの借金。自己破産ギリギリだったわよ、ほんと」


 その金額。実に実感を得ない額。大金という事はわかるが6500万……。


「まじスカ」


 もしかして俺、悲しんでる暇、無かったのか……?

 上げた顔でマジマジと母さんの顔を見つめる。


「まじまじ」


 そして、返ってきたのは本当という言葉だけ。


 っ、すぅー……。息を吸いこんで、吐き捨てる。マジかあ。とんでもねぇなぁおい。

 じゃあ本当に俺こんなことしてる暇ないじゃん。親の脛かじる暇ないじゃん。


「母さん、それできたら昨日に言って欲しかった」


 帰ってきてもニートするつもりでいたのだが、借金があるのにニートするなどできっこない。てかしたくない。


「働き口、見つけなきゃ」


 そう思い、ポケットを漁る。が、欲しいものはなかった。


 そうだぁ……。山に持ってって壊れたんだった……。

 後悔が募る。


 はぁ……そうなれば、選択は一つか。


 俺はすぐ様風呂に入り、ドライヤーで髪を乾かす。そしてスーツを着て、ある場所に出向く。


「ハロワ行ってくる」


 そうして3週間後、採用通知が届いた。働き先は兼業可能の会社。業務内容は前の会社と似た所だったが、人は今のところ当たりを引いている。

 そして、その3週間だけコンビニでアルバイトをしてみた。働くためのリハビリのようなものだ。


 しかしまぁ、大変だった。川端さんには悪い事をしてしまったし……。


 まぁ、それもそこれ過ぎた話で採用されてから何ヶ月か、もうそろそろ1年を過ぎ始めた頃。寒さは相変わらずで、鼻水が垂れてくる。

 そう。寒がりの俺にはとても厳しい環境である。しかし、夏が好きなわけでもない。虫が嫌いなのだ。


 はぁ、今日も疲れた……。


 目の下にできる微かな隈。それは、少しずつ色濃く変色している。


 だが、そりゃそうかとも思う。こんな日々を1年続けていたらそうなるだろう。

 借金返済のために、日々を過ごしている自分。実に頑張ってる。


 そして、手に持つ通帳の金額を眠りまなこで見つめる。


「……祝い脱ニートだ、イェーイ」


 徹夜で内職して朝から仕事行って、まぁここまで社畜してるならニートなんてもう言わないだろう。金が必要だから働く。

 やっぱり、俺に必要だったのは気力じゃなくて、原動力だったか。


 しかしなぁ、幸づらいもの。この働いて稼いだ金を借金の返済に充てなきゃならない。一万二万三万……三十四万……七十万……はぁ……。そして、手元には三万だけ。


 日に日に増える利子に打ち消しで、借金に当たる返済としてマイナス56万ちょい。他は利子。一年変わらず6000万の借金。母さん、一体何をして減らしてたんだよ。一人でさ。


 そんな日々を過ごしていた俺に、一つ朗報が届いた。俺はいつも通り、買った三代前くらいのスマホのG数を気にしながら調べ物をしていると急上昇の記事にそれが載っていたのだ。


「ダンジョン探索隊。通称<冒険者>という仕事が新しく増える……。うん?」


 詳しくみてみる。

 その内容は、ダンジョンを探索して討伐した魔物の素材や宝箱の中身を売って生計を立てるというものだった。

 そして、その冒険者制度の導入に先駆け、抽選で先行冒険者になる資格を与えるというものだった。


 下に画面をスクロールしていると一つの画像があった。


<現在の冒険者の給料1ヶ月最低見積もり>

 1層【50万】

 2層【150万】

 3層【350万】

 4層【500万】

 5層【1000万】


 これは思わずという感じで飛びつかずにはいられなかった。


「おいおいおい、どう言う事だよ」


 直ぐ下にあった国営公式サイトのURLに飛ぶ。


 そこにも記事と同じような文書があった。


 冒険者。


 これは、さっきみた。これも、これも、これも。


 だからダーっと下に下にスクロールする。

 そしてようやく見つけた抽選ボタン。利用規約だかなんだか分からないが、文字がそこに陳列していた。しかしだ、興味はない。了承にタップする。


 ーただいま回線が混み合っていますー


 考える事は同じか。


 命の危険性とかどうたら書いてたけど、ここまで国が紹介している。怪しくても、国だから怪しくないという変な先入観が突き動かさせるのだろう。一攫千金と。こんな上手い話に乗らない奴はいないだろう。


 そう思いつつ、俺は抽選ボタンを何度も押しまくる。そして何度目の事か、漸く入れた。と思えばサイトが移動し、貴方は20歳以上ですか? という警告文がでる。


 そうです。20歳以上です。という事で20歳以上を押す。すると次にはそれを証明する個人情報を書かされた。


 これを見るだけだと詐欺サイトに見えるが、URLの部分にはhttpsの文字があるので取りあえず安心だ。怪しくても怪しくない。変な感じ。


 書き込み終え、完了ボタンを押す。


 ー抽選応募が完了しましたー


 その文字をみて、ふっーと息を吐きスマホを置く。


 抽選日は5/15日。あと14日か。

 いや、それよりも俺は言いたい。


「漸くこの借金を返済できる兆しが見えてきた……」


 人知れず俺は自室で涙を流していた。

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