02.闇の部屋の住人
「あーくそっ! 50パーからとかないわー」
カーテンは締め切られ、昼なのに薄暗いそんな一室。部屋ではパソコンが稼働しており、ブルーライトを放っていた。
そのパソコンの画面に映るのは、最近再び熱を出してきたソシャゲーの画面。
この闇の部屋の住人は、ゲームをしている。
だが、速いペースで打ち込まれていた指はある時に止まった。
「くそー、負けたー」
闇の部屋の住人こと嶋崎 悠夜である俺が昔っからやっているソシャゲー(NGO)。
正式名称は Note Guild On-line。
このNGOは、剣と魔法、魔物が存在するファンタジーな世界を題材に、冒険者として依頼をこなしていくゲーム。
クオリティがとても高くおもしろいという評価の反面、ムリゲー、クソゲーと呼ばれるくらい難易度が高いゲームでもある。
さっきだって最新イベントボス燃燈鼬の番人にやられたし。
悠夜はパソコンの画面に目を向けて「はぁ」と深く息を吐けば、パソコンの明かりをそのままに、ベッドへと飛び込んでいった。
「暇だ」
その言葉と時を同じくして、コンコンとドアをノックした音がなった。
「悠夜、ご飯置いとくね」
「……あーい。ありがとー」
ゲームするから遅く持ってきてって時間指定で頼んだけど、もう14時か。そりゃあ腹が減るわけだ。
空腹を叫ぶ腹を撫でながらドアを開けると、目の前下にお盆の上にラップのかけられた皿が3つあった。
そして、俺はこの画を見ると毎回思うことがある。
俺は絶賛ニートしている……と。
< NEET>
実家で怠惰を貪り、親の脛を齧る無駄飯食い。
世間体ではクズの称号が与えられるそれが今の俺だ。ニート歴は2年、脱社会は成功してると思う。
これに関して一応、親公認である。
ただ、寛容に認められた脛を齧るニートといえど楽ではない。暇である事が苦である職業なのだ。依存性も高い。
「今日は担々麺と餃子、米か。部屋が臭くなるな」
真っ暗な部屋でありながら、たしかにラップを剥がし箸を手に取った。
「いただきます」
でもやっぱり暇なので、何かをし始めるが飽きては求めるの繰り返しが現状でもある。
スレッドとかでも「ニートの会」っていう傷を舐め合うスレでも同様の苦悩を抱える人がいた。
「って、なら働けばいいんだけどなぁ」
ニートというのは働かない人の事を言っている。依存から抜け出したいなら、仕事するのが特効薬。
だが、働けというのも苦な話で耳が痛い。
なんかないかな、面白そうな事。
餃子を口に放り込むとパスコードを解き、開かれた画面にあるアプリの一つ「ROORI」で小説サイトを開いた。
大体目ぼしいモノは2年あったので読破した。
だから新着待ちで、面白くなかったら読むのを止める。
ランキングを下へ下へとスクロールし、タイトルで引っかかった奴はあらすじを読む。
「なんもないな……」
だがやはり、目ぼしいものを読破したとなれば、待つしかないのは確かだ。それに、最近では追放が多く、ランキングが占領されているのも一つの原因。
ブームはあれど、面白いものもあるが一体何番煎じなのかが気になる。
はぁ……。
スマホの電源を切ってからポケットに入れ、麺を啜った。舌を刺激する辛さと酸味、丁度いい感じだ。流石母さん。
「はぁ。なんか面白い事……それこそ異世界とか行きたい」
ライトノベルを読み始めて思うのは、やっぱり魔法や剣などで戦ったりしてみたい、と思うようになる事だ。
「出来ないかなぁ……? あー、暇だ」
携帯を何度も何度も点けては消してを繰り返す。
「暇だ」
休みと言う苦痛に悶えて、嘆く。ニートだけが感じられる絶望感。
担々麺のスープにご飯をぶち込み、頬張る。
そして、辛い舌を水滴の付いているコップの水で一和らげる。
「ご馳走様でした」
そう一言言ってから重たい腰を上げ、盆を返すために部屋から出ている途中の事だった。
「暇、か……。魔法とか剣とかで戦えたら暇じゃなくなりそうなんだけどなぁ……」
いやいや、ないない。
「母さん、ご馳走さま。美味しかった」
「流しに置いておいて」
「はいよー」
結局のところ、どれだけ妄想を抱こうとそれは幻想で夢でしか無い。現実を見ればいくらでも幻滅するさ。夢は夢だからこそいい、それが普通なんだ。
そうと分かれば、またつまんない事考える前に寝よ。
「あ、悠夜。お使いを頼むわ」
「え?」
流しに盆ごと食器をおいて、部屋に帰ろうとしていると母さんは10000円を差し出してそういった。
いつもならお使いなんて頼まないのに……。
「珍しいね」
「部屋に籠るのは不健康よ。変えの包丁を買ってきて、残りはお小遣い」
どうやら、金で釣ってまで外に出て欲しいらしい。
……最近外に出てなくて身体が痛いし、生の日の光に当たるのもいいだろう。
それに、この家の為にも少しは動かなきゃだめだし。
そらなら、しょうがないな。
それが納得する理由なのか、悠夜は一万円を受け取ると玄関に向かった。
「行ってきまーす」