02.ただいま、母さん
30/12/17「17:00」〜30/12/18「22:30」
を予定して改稿中です
《残り微調整》
俺たちが飛行して、気付けば日が傾き終えている。それでも人工的な明かりは安心感をもたらしてくれる。下を見れば都会に光が灯り始めてもいた。
高高と聳える高層ビルやマンション。少し臭うガソリンかなんかの独特な臭いや、車や工場からでるガスを含んだ臭い。日が落ちたというのに、行き交う人々。雑音が支配するこの場所。
なにより、日が落ちた夜に光がある事に俺は漸く帰ってきた事を実感した。
「帰ってきたぞ、地獄から」
開放的、幸福感に浸る。
「ですが、遠足は家に着くまでですよ。マスター」
そんな悠夜を咎めるエレン。
そんな彼女に、俺は分かってると思いつつも「そうだな」と肯定した。浮かれ気分だからだと思う。
それから10分程した頃、懐かしい家が見えてきた。
二階建ての一軒家。ブラウンの屋根が特徴の我が家は、窓から漏れる光によって教えてくれていた。
「漸く帰ってきたんだ」
地面へと降り立ち、家のドアを前にする。
「そうですね。中々に長い3年でしたし」
エレンも同意見なのか、俺をチラッと見ながらそう言った。
「ああ、本当に長かった」
地獄のようなではなく、地獄を体現した地獄の山。冬唐辣山。
そんな地獄の場所で3年修行した。人外スキルも沢山習得したし、身体的にも人間以上のスペックとなった。場合によっては全人類の頂点、最強であると言っても過言ではない。
そして今日。俺は帰ってきたんだ。
インターホンを鳴らす。
すると、直ぐに若い女性の声で応答があった。
「はい、どちら様でしょう?」
久しぶりに聞く母の声。
俺は、サプライズするくらいの気持ちでドキドキしながら返答した。
「えーと、その……」
母さんはドアを開けると、顔を出して俺の顔をジッと見つめる。
「母さん、ただいま」
だけれど、御構い無しに言いたい事を言う。
さぁおかえりと言ってくれ。などと期待してみる。
が、しかし的外れの言葉が耳に直撃する。
「……ねぇ、本当にあなたは悠夜? 幻じゃ無い?」
「は? え、なんだよ、それ」
思いもしない言葉を吹っかけられて戸惑う。久し振りの再会に、開口一番は幻。
訳がわからない。いや、心配性の母だ。置き手紙を置いていたとしても、心配のあまり俺の幻覚をみる……というのはおかしな話だが、あり得なくもない、かもしれない。
だが、それよりも気になることがあった。
「なぁ、母さん……やつれてないか?」
そう。
今の母さんはどっからどう見ても、げっそりとやつれているのだ。
それに、母さんが目に隈を作って、頬を痩せこかせ、髪をパサパサにしているなんてありえない。
そんな俺の言葉に母さんは「はぁー」と深いため息を吐いた。
「……取り敢えず上がりなさい。君も、どういう関係かは分からないけど」
君も。
エレンの事だろう。どうやら本当に見えるようになったらしい。魔力生命体。時が経てば体が構築されるというのは、些か奇妙な話だが。
俺らは玄関に入った。
森の中では見ない、人工的な光。
久々の光景だ。とても懐かしい、そして、落ち着く作りの我が家。
「ちょっと待ってね。ご飯作るから」
懐かしみながら廊下を歩いてリビングに着くと、母さんはそう言って台所へ向かった。
だが、やはり体調が良くなく、歩くだけでもヨロヨロしている。
だから母さんに「体調がおかしいから俺がやると」言ったら「寛いでおいて」と突っぱねられてしまった。
「なんというか……変わりましたね、マスターのお母さん」
そういう事があって母さんがご飯を作ってる間、リビングにあるコタツでテレビを見て寛いでるとエレンがそう聞いてきた。
エレンに関しては、3年前の食事中の一度だけだがそれでもよく分かるほどに、変貌したと言っても過言ではない変わり方をしている。
だから、前に見た母さんとの差が凄いからそう思うのも仕方ない。
「だけどそれに関しちゃ、俺が1番驚いてるよ」
母さんは家族第一、健康第ニ、美容第三主義の心配性な人だ。俺が代わりにご飯を作るっていたら、大抵は一緒に作ろうとするから突っぱねる事もないし、げっそりするまで食欲がなく食べないって事もない。美容関係も見た限りほっぽらかしている感じだし……。
気になる、凄く。だけど。
「そこんところはご飯が出来たら聞こう。それより、父さんが居ないな。仕事かな」
時計に目をやる。そこそこの時間、20:23分。
だけど、この時間帯に仕事が確か終わったはず……いや、22時くらいか。じゃあ、まだまだだな。
ふー。と息をつく。
久々に父さんと会える。それだけで、久しいと懐かしむ気持ちが飛び交うからか、頬が緩む。
いや違うな。ホームシックとかファザコン、マザコンとかじゃなくて、多分、普通に人恋しかったからだろうが。
今やっているテレビに目を向ける。
3年もこっちの情報を持ってないため、知識のボキャブラリーが少ない。だから、数十分のアニメ番組を見終えてから、情報をたくさん扱ってる番組「ナインニュース!」を見ているのだが、共通情報を発信するテレビが、如何に重要か分かった気がする。
そう傍観者として、情報が簡単に手に入る利便性を再確認しているとダンジョンの話に変わった。
それは、ダンジョンから魔物が出てきた事だった。
「……まじか」
その一言に尽きる。
内容は、元東京スカイツリー設計位置の隣に、突如として現れた塔からUMAらしき敵対生物が出てきたのち、常駐していた自衛隊98名を虐殺したというもので、このUMAは残り2名によって倒されたらしい。という事だった。また、2名の内1名は身体中に裂傷の怪我を負った。
「魔物どんだけ強いんだよ。98人って……」
例え人間が弱いと言っても、98人は流石におかしいだろ。そう思うのだが、エレンはそんな俺の意見を否定する。
「いえ、それが普通ですよ。寧ろあそこの魔物を討伐できたこと自体凄いです。名誉ある事ですよ……あ、はーい」
称賛するエレン。その真剣な顔は、嘘をついているようでもなく、心から、それこそ妙々たる出来事だと思っている、そんな感じがした。
次にニュースの報告文が終わり、現地映像に切り替わる。
「はい。こちらが突如として現れた塔です。とても大きいです、背を反らさないと上の方が見えないくらいです」
リポーターが背を背けながら塔を見上げると、カメラの映像も塔の上の方に向けられた。
その映像からは実感できないが、それでも、とてもでかいことが分かった。
この映像は前撮り分だろう。太陽が昇っている内に撮ったやつ。だからこそ、よく形状やでかさがわかると言うもの。
それにしても、本当にダンジョンが現れるなんてな。
お陰様で、もしかしたらで本当に溢れ出たら俺が守らなきゃならなくなる。
まぁ、3年も監禁されて強くなったんだ。その時はその時で考えよう。無理なら助けたい人だけ連れて逃げればいいってエレンも言ってたし、初めわ。
「この塔は壁で仕切られていますが、現れた当時、半径10km内の建物を飲み込みながら土中から現れたそうです。これによる死傷者行方不明者はいません___」
「マスターご飯だそうですよ」
エレンはテレビのリモコンを置くと、スタスタと食卓の置かれたテーブルに向かって椅子に座った。
それにしても、とても洗練された無駄のない無駄な動き。
俺も暖かいコタツから這い出て、机の席に着く。
目の前に広げられた今日のご飯。久し振り尽くしのまともな食事に鼻腔がくすぐらる。
「美味そー」
涎が垂れてくる。本能的に欲しているんだ。
今日のご飯は炒飯と中華スープ、それもトロトロのあんかけがかかったあんかけ炒飯。俺の好きなご飯ベスト2が来るとは。
そりゃ我慢できまい。
「「いただきます」」
合掌した後スプーンを手に取り、炒飯をすくい上げる。スプーンを入れた時に分かったが、やはりまだパラパラしてる。すっとスプーンが入るのだ。
そんな炒飯を湯気をあげるあんかけと一緒に口に運ぶ。
はむ
「あ、ああ、ああ……美味いよぉ……」
涙がダラダラと流れてくる。
見た時から、手に感じた時から、ずっと感じていた幸福感。久しぶりに、まともで美味しいご飯が食えると。
少し薫るごま油の風味と、肉の旨味、玉ねぎと人参の甘さ。そして、それらを包み込む濃すぎず薄すぎずのあんかけ。
ベストマッチ過ぎて死ぬ!
「ほんと、すごく美味しいです。マスターのお母さん」
エレンも頬を垂らしていた。
やっぱり、我が家のご飯は最高だ。
「おいしい、おいしぃ……。ああ、生きてて良かった」
パクパクと常に動き続ける口と止められない手。
気づけば食器の上の料理は綺麗に無くなっており、皿の白さが目立っていた。
そして、それを見てようやく手が止まりお腹にかなり溜まっていたことに気づいて息を吐く。
「ふー……」
満足そうに息を吐き、興奮を抑える。
そうして落ち着きを戻し、ずっと聞きたかった事を聞こうと喋った。それは、母さんのやつれた状態についてだ。
「……母さん。俺のいない三年で何があったか話してもらっていい?」
すると母さんは食器を片付け始めた。
「それについては、食器を洗ってからね」
余程重要な事らしい。
母さんがこう言う時はいつも大切な話の時。全てやる事を終えてから、話す事を話す。
だから俺たちは待つ事にした。
洗い物を手伝おうか? と聞いたら突っぱねられたし。
それから数十分後、キュッと蛇口をひねる音が聞こえた。軽い足音も聞こえてきた感じ、終わったのだろう。
「ありがとう」
「いいわよ、そんな事言わなく。それよりも……」
その声は尻すぼみに小さくなっていく。
その様子は何処か言いにくそうで、何かを言おうとして躊躇ってか、言葉が出ていない。端的に言えば言い難くそう。
だけれど、母さんは決意したかの様に口を動かした。
「悠夜、ちゃんと受け止めて聞いてほしいの」
「な、なんだよ?」
それは見たこともない真剣な眼差し。初めてのことすぎて声が上ずる。しかし、真剣に聞くしかない。
俺も落ち着いて息を吐く。
「なんだよ」
だからもう一度聞いた。
しかし、それでも母さんは言いにくそうだった。
「悠夜、あのね、お父さんね……」
ピチャリと蛇口から水が漏れる。
「嘘、だろ」
そう言われて驚いている。だけど、実感はなかった。そりゃそうだ。
「父さんが死んだって……それも、3年前……?」
人が、それも身内が家族が、死ぬなんて。
実感が湧くはずないんだ。
「じゃあなんだ、父さんは帰ってこないのか?」
「……ええ」
母さんは俯きながら言う。
でも……。いや、でも……。
「これってなんかのじょうだ……んな訳ないよな……」
母さんはジョークを言ってもこんな笑い話にならないジョークは言わない。それも、家族の事をそんな冗談のネタに使ったりもしない。
そうだとしたら、本当なのだろう。
でも、でも。
分かんない。帰ってきて、会えると思ったら、なに、死んだ?
「訳わっかんねーよ」
「……そうよね」
母さんは俺の手を引く。
「君、少しここで待ってて。直ぐ戻ってくるから」




