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01.白ゴリラ

30/12/17「17:00」〜30/12/18「22:30」

を予定して改稿中です

《残り微調整》

「さて」


 帰るか。


 ズボンの臀部に付いた土を払って、起き上がる。パキパキと膝が軽く音を鳴らしたのは、寝そべっていたからだろう。


「準備も昨日のうちに済ませたし」

「そうですね」


 隣で寝ていたエレンもヨイショと声を出しながらその銀色の髪を靡かせる。日にして1000日以上、凡そ3年。俺の容姿が変わることは無い……。まぁ、少し筋肉質になった感じはするが、問題はエレン、あいつだ。


 姿が全く変わっていない。

 中学生くらいのまま、変わらず。その理由はやはり「魔力生命体なので」と言う言葉で片付けられた。もう少し納得のいく話をしてほしいが。


 まぁ、3年もいれば売り文句のように聞き飽きる。だから俺は、はいはいと言いながら背中に古びたバックを背負う。


「いくぞ」

「はい!」


 帰る手段は走りだ。と、言っても麓までだが。麓には誇りや枯葉の被った車があるはずだ。鳥のフンは、無いと思う。無いことを祈る。


 俺はそんな事を考えながら、隆起の激しい道をスキル全開で駆け続ける。使用しているスキルは5つ。


<身体筋力向上(メナキリステート)>

<加速(アクセル)>

<時向上身体能力(リゲインアベルス)>

<無空気抵抗(エアレジスト)>

<周囲生命探知(アリージメントサーチ)>


 メナキリステートは、筋力に魔力で一時的な補助効果をかけて、筋繊維の硬化、柔化などの筋力活動を向上させるスキル。


 アクセルは、使用毎30秒だけ時速220kmを付与する。要するに、走る速度に時速220kmの速度補正を加えるというスキル。


 リゲインアベルスは、時間経過で身体能力が向上していくスキル。10秒おきに時速5kmの筋力アップの他、洞察力や五感が徐々に高まる。それらは、60回アップがかかると10秒おきに補正力がダウンしていくというスキル。


 エアレジストは、自身にかかる空気抵抗のおよそ89%をカットするスキル。ギリギリ90%に届からないのは、まだ俺がスキルを扱いきれていないからだそうだ。


 アリージメントサーチは、自身の周囲にある生命力を探知するスキル。


 そんな5つのスキルを使って山を走行している。


 見える景色。

 次から次へと消えていく景色は、普通に走る感覚とは全然違う。そもそも最高時速800kmを超えるこの速度に目が慣れておらず、情報処理が間に合わない。


 普通に走ってるつもりが、リニアから見えるような景色といえばいいのか?

 まぁ、乗ったことはないが……理論上は近い現象であるということだ。

 そして、この状態を維持するには反応速度も必要で、常に集中しておかないと、次々変わる景色と足場に躓いてしまう。

 足を置く場所を少し間違うだけで大怪我待った無しだ。それも、最高時速800km以上で躓くことを想像すると、怖くてたまらない。


 そんな危険性に怯えつつ黙々と走っていると、前方に懐かしい麓の景色が見えてきた。


 漸く見えてきたぞ。


 悠夜は、三年ぶりに見る景色に口角をこれでもかと言うくらいに吊り上げていた。


 駐車場のある麓。久しぶりに見る剥げているアスファルト。木々とアスファルトの、境界線。


 全てはこの線を超えたことから始まったんだ。他動的だったけど。


 しかし、気づいてしまった。

 キュンキュンキュンと甲高い警報音が鳴っている事に。そしてその先を目を細めながら見つめるとよく分かった。


 煙を上げつつボコボコになってる青い車があることに。


「ちょっとまてぇ!!! 」

「あ、マスター!」


 エレンが何か言った気もするが聞きたく無い。


 俺は更に速度を上げ、垣間見えた惨事が起きている場所へと急いだ。


 それから暫くして目的地に着いた。だが、出し過ぎた速度は直ぐには落とせず、アスファルトを破壊しながら大きな音と砂煙を上らせた。


 そして煙が上がりきり、視界がクリアになる。


「嘘だろ……」


 俺は、目すら当てられないと、空に目を向けてそう嘆いた。


「何で俺の車が、こんな無残な姿へと成り果てているんだ」


 今もなお警報が鳴る車。煙も何処からか噴き出てもいた。だがそれは些細なことに過ぎない。

 フロントガラスは愚か、全てだ。車体の全てがボコボコで、元の姿なんてない……。


 ほんと、三年前の綺麗なブルーの車体はどうしたんだ? こんなにボコボコな訳ないのに……。どうして、どうしてこうなった。どうしたらこうなるんだ。


 俺は、遂にはうずくまり頭を抱えた。


 そんな俺に追いついたエレンが「ほっ」っといいながら走る勢いを止め、声をかける。


「マスター、大丈夫ですか?」


 どうやらまだこの惨状を見ていないらしい。俺はそう言うエレンに、無言で元動く鉄の塊を指差した。

 するとエレンはその指示にすっと視線を動かして。


「……これは酷いですね」


 なんとも言えない視線を、背中から感じるのは気のせいではないだろう。


「俺の、マイ、カー……」


 ここにきて三年。苦痛という苦痛を嫌という程舐めさせられて、漸くおさらばと思えばこの仕打ち。

 高校卒業祝いで買ってくれた、俺のハイブリットエコカーは高かったんだぞ!! エコだし!!!


 絶望と喪失感が次の瞬間にはフツフツと沸き上がり、怒りに変わった。


 ありえねぇ、一体誰がこんな真似を!


 バガンッ。耳障りな音が鼓膜を震わせる。

 怒りのあまり顔中に皺を作っていると、突然、そんな音が聞こえてきた。


 だが、そんなはずは無い。だって、鉄が叩かれるような音をだす物はここにない。


 というか、俺はどうしたらいいんだ? 歩いて家まで帰れってか? ふざけんな。俺の車を返せ!


「くっそ!!」


 バン


 ……また。

 一体なんだ?


 それからも幾度となく音が辺りに響く。

 それで漸く何かに気づいた俺たちは、音が聞こえてる方角に目を向けた。


 そして、その音がなる瞬間瞬間垣間見える白い毛。

 時折オホッという野太い声も聞こえてくる。


 これは、まさか……。


「あの、マスター……」

「ああ、うん。俺もそんな気がしててな」


 真剣な面持ちで首肯するエレン。これは空耳でもなんでもない。


「オホホ」


 この声に、聞き覚えがある。


「ウッホ!!! オホッオホッオホッ!!」


 ピキっと青筋が額に走る。

 やっぱりだ。オホオホかウホウホか言ってる奴の正体。今ようやっと確信に変わった。


「ウッホー!!!」


 俺の大切な車を破壊されたことに気が動転してしまっていたから、直ぐに気づかなかったんだ。


 だけどもう分かった。


 コイツとは、三度と渡り戦ってきた。

 今の俺でも倒しきれない、強者の一角。


 ウッホー!!! という声とともに空へと舞った俺の車。


 そう犯人は___


「うほっ!!」


 その剛毛豪腕と言える巨大な腕から繰り出されたストレートパンチに、車を見事にチリと化した。


「やっぱりテメェかぁ!! クソゴリラぁ!!!! 」


 そう。犯人は、白い体毛を持つゴリラ、であった。


「はぁあああ!!!」


 許さない。猛位魔法を使ってやる。今度こそ決着だ。


「<焔雷柱(クラマキシランス)>!!!」




 所で魔法スキルには、階級がある。

 上から。


 最上位魔法

<凡そビックバンエネルギーすら越える力>


 神威魔法

<凡そ太陽並みのエネルギーを持つ力)


 楼亥(ろうい)魔法

<地球の重力で隕石落下以上のエネルギーを持つ力>


 上位魔法

<火山噴火以下のエネルギーを持つ力>


 高位魔法

<超巨大竜巻以上のエネルギーを持つ力>


 猛位魔法

<ダイナマイト爆破以上のエネルギーを持つ力>


 中位魔法

<十トントラック衝突時のエネルギーを持つ力>


 撃位魔法

<スナイパーライフルの射出エネルギー以上の力>


 下位魔法

<人の運動エネルギー以上の力>


 と、エレンが俺に分かりやすいようにと教えてくれた。だが、実際のところ分かったという威力量については、ほんの2、3個だけである。まず、猛位魔法以上を発動したことがないのだ。

 まぁ話を聞く限り、使いたくないけど。




 しかし、俺は今日猛位魔法を使う。


 俺は白ゴリラに手を翳し、言葉を言い放つ。すると翳した手の前に全長3m程の炎の槍が現れた。その炎は時折紫電とフレアを放って、春の寒さを残すこの場所を熱帯へと変えていく。


 その槍を向けられている事に気づいた白ゴリラは、一瞬驚いたものの、直ぐに臨戦態勢を取った。


「マタ、オマエカ」

「それはこっちの台詞だ!」


 魔法の威力は時間を追うごとに強大になっていく。


「アブナイ」


 その熱量からか、巨大さからか体長2.5mあるゴリラの癖して危機を覚える。いや、俺もこんなモノを目の前にしたら逃げようとする。


「だけどな……」


 全てがもう遅い!


 バチッバチバチ


「車の恨みじゃあああ!!!」


 3度に渡り戦ってきたこのゴリラ。貴様の命日は今日だ!!!


 炎はゴリラを真っ直ぐ捉え、接触した。


 スパー___ゴオオオンン!!!


 その瞬間炎は爆ぜ、電気が空気中に放電した。爆ぜ上がる炎は轟音と爆風を放ち、雷は柱を作って放電し続ける。そのあまりの威力に、襲いくる爆風と共に轟音が耳をつんざいた。


 暫くその状態が続き、その煙が晴れた後には半径5m程の大穴が空いていた。それが、この魔法の威力を物語っていた。


「はぁ、はぁ、はぁ。初めて使ったぞ、猛位魔法……。滅茶苦茶疲れる……」


 息をゼェゼェと吐く程疲れる。俺は自分でも分かる位汗をダラダラと流し、今にも倒れそうな位に身体をフラフラさせていた。


「魔力不足ですね。鍛錬を怠るからです」


 そんな疲れ果てた悠夜に、至極真面目な顔をしながらそう言ったエレン。

 実際のところ、確かにそうだけどあんな練習を毎日しろなんて___


「鬼だな、お前」


 目を細め、エレンを睨みつける。

 が、それがエレンにとって気に入らなかったらしく、笑顔で後10年籠りますか? と言われた。

 まぁ、エレンはおふざけとかじゃなくて、真剣に考えて言ったことだなんだろうけど。


 俺は深くため息をつき、その言葉を真摯に受け止めることにした。


「……それでどうする? 車、壊されたけど」


 一つことを終え、考えが追いつくと今の状況が非常に厄介である事に気がついた。


「そうですねぇ……」


 エレンは手を顎にやり、うーんと悩み始めた。

 それでも数秒。直ぐに答えは出たらしい。


「車が無いなら、諦めて空を飛びましょう。スキルを使って走るよりも効率的ですし」

「……はい?」


 空を飛ぶ? 一体どうやって?


「あ、そうでした。マスターにはまだ教えてなかったですね。えと、じゃあここで<飛行(フライ)>を伝授しましょう」


 あー、なるほど。スキルで飛ぶのね。飛ぶってそういう事ね。


 エレンのスキル習得授業が始まった。


「フライというのは、魔法スキルの風に分類されます。一時的に風を纏って主に空中を移動するのです」


 エレンは「フライ」といって、見本を俺に見せた。


「もう少し詳しくいうとしたら、纏った風の魔力に、反発する風の魔力を纏わせる。つまり二重で風を纏います。それでですね___」


 エレンは、フライで上へと上昇しながら続けていった。


「このフライはより繊細かつ正確な魔力操作が必要です。主な役割として、一重目がブレーキと方向。二重目の反魔力で、速度と傾き、それにより移動が決まります。まぁ私ほどになれば、身体を動かすと同じ域なのですが、初めての方には難しいらしいです。だから、マスターが下手くそでも私は応援しますよ」

「おい、それは馬鹿にしてるのか応援しているのか。どっちだ」

「どっちもです」


 笑顔満点な返事をどうも。いつもの事だからもうツッコマナイケド、俺最近、罵倒と応援が分からなくなってきている。


「さ、マスター。マスターを待ってると日が暮れちゃいますから、早くしましょ。前にもやった身体強化をイメージしながら風の魔力を纏って下さい」


「……<飛行(フライ)>」


 すると、浮遊感を覚えた。

 視線を下向けると、少し浮いていた。


 浮くというのはこういう事なんだろう。重さが無いというのは、少し気持ちが悪いものだな。


「そうですマスター。じゃあそのまま上昇しましょう」


 それから俺は、エレン直々に3時間ほど特訓をした。その結果を言うとするならば、基本はつかめたと言うことだけだ。


 それから数時間。お天道様は昼下がりの位置にあった。


「<飛行フライ>っと」


 魔法スキルの風魔法<飛行(フライ)>を使用して宙に浮く。


「……はい、じゃあマスターの家に戻りましょうか。えーと、方角は北で、今向いている方向に直進ですね」


 よく分かったな……。いや、覚えているということか。そう感嘆の息を漏らす。


 車が無くなって一番厄介だと思ったナビゲーションについてだが、エレンは正確に覚えていたようだ。あの自信満々な目を見ればまぁ、間違いはないのだろう。


 しかし漸く帰れることになった。本当にやっとという気持ちでいっぱいだ。大切な俺の車を失ってしまったのは悲しいが、もうあんなちりになった姿を見せられたら、諦めがつくのも仕方がない。


 地面から80mほどまで上昇し、魔力を操作し前進する。

 この魔法、エアレジストを使わなくても空気抵抗をほぼ0にしてくれる。なぜかと言うと、二重に張られた風魔法が壁になるかららしい。


「危なっ」


 そんな事を考えて前方不注意にしていると、鳥と激突しそうになった。

 それを見たエレンは、仕方ないと思い俺に「今日中にはつけると思うのでペースを落としましょう」と声を掛けた。


「……そうするか」


 というか、それが正しいだろう。今は時速200kmくらい。今俺が出せる全力で飛んでいる。それは、時間がかかるだろうと見込んでのことなのだが、なにせ空には俺たち以外にも生き物がいる。こんな速度でぶつかったら、俺も生き物もたまったもんじゃあないだろう。さっきもギリギリだったし。


 少しずつブレーキをかけて行き、80/kmまで落とす。しかし、それからは会話というものがなく、只管空を飛び続けることとなった。


 そんな一方で、白ゴリラは危機一髪で逃れられていた。焦りに息切れ、本当に危機一髪。黒焦げて炭のような草叢に隠れて、あの人間達が去って行くまで見つめ、危機が去るのを待っていた。


「コンカイハ、ワタシノマケ」

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