ー5ー 別れ時々ランス
大幅改稿中
「せいやぁ!!」
大きな西洋槍、蒼く装飾の施されたそれは、上層で取れたという素材で作った武具で、兄のお下がり。
自衛隊部員の俺の兄は、ダンジョンに潜って二ヶ月目で死んだ。
その時着ていた防具と、使っていた武器。
30まじかでいい歳こいたランスという趣味は、ゲームの中でもそうだった。モンスターを狩る系のゲームでも、何かあったらランス、強くてもランス、弱くてもランス、弱体化されてもランス、職業はランサー。
ランス愛好家だ。
そんなランス愛好家の兄のお下がり。
こびり付いて、どんな薬品を使っても取れない程に染み込んだこの血は、その愛を語っている。
「らぁああ!!」
そして俺はそんな兄の影響で、兄の強制ランス講習を受ける事となる。
「陽一〜」と声を掛けて、ランス初めての俺を容赦なくボコボコにする。はっきりいってそんな兄だった。鬼だった。
でも、そんな兄でも慕うのが弟であり、好くのが家族であると俺は思う。
お陰様で、こんな危機的状況下でも負ける気しない。
「ニトーメーじゃい!!」
それにしても、翔寺は馬鹿をしでかしたらしい。同じ装備で尚且つ、大剣を担ぐ恵美を見習えばいいものを。
「次はっ___落とすな___よっ!!」
「分かってるわ!!」
コイツの口癖だな、分かってる分かってるって子供か。
ま、そんな奴だから馴染みやすかった事もある。
『翔寺、この子が陽一君』
『初めまして、高野陽一です』
『あ、河田翔寺です。どうもぉ。彼氏さんですか?』
「ふっ……!」
盾にのしかかるその体。攻撃のために鍛え上げた脚の筋力を視野に入れても重たかった。
だけど、盾がに突撃できないと言うことはほかの攻撃に回ってくる。
それは、側面と背後か。
「ランサー舐めんなよ!!」
『へー、彼氏なのか』
『だから違うって、幼馴染』
『恵美、人に自分の属性を教えてはいけないぞ』
アレは笑ったな。流石にあの状況じゃ笑うしかない。
つい二ヶ月前の話だというのに、懐かしい。
『よろしくな、高野君』
『こちらこそ、河田君』
そういえば、いつから名前呼びになったっけ。
「せやぁああ!」
ランスのテクニックは一から十まで、こってり染み込んでる。人間離れした機動力を用いる、所謂反射能力に任せた技ですら使えるんだ、負ける気せん。
側面はわかる。視線だけ横に向けてもわかる。左からだ。ただ、背後からは分からない。二択だ。
側面の攻撃後か、同時で飛びかかってるか。
そう言う場合はどっちも取ればいい。
俺はこの盾の特殊な部位、右半分の淵にだけ付いている、鍋を掴むところみたいな部位にシルバーウルフを引っ掛けつつ、体を半回転させる。
そうして側面からくるもう1匹の攻撃を吸収して、背後の攻撃を確認する。
流石のスピード技だ。シルバーウルフも驚いている。
だが、それが命取りだ。
「そこだぁ!!」
眉間を確かに貫く。貫く時間ごとに穴は拡大していく。
眉間を貫けば即死だ。いくら外皮が硬くても、中は柔らかい。流石に臓腑まで硬いとなれば、生まれて数秒で死ぬだろう。
まぁ、ここの化け物にそれが当てはまるかは別として。
ドクドクと痙攣を起こしながら血を流すシルバーウルフを片目に、視線を盾からずり落ちたシルバーウルフに向ける。ここを下にぶっさせば、全てが終わる。
これ……だから…ランス…………は…好きだ……。
「やめろぉ!!」
「えっ……」
視線は横転する。
ああ、そうだ。
『恵美、あいつ結構防御力高くて親しくても固い奴なんだが、お前には解放してるってのが気になる』
ふとした疑問だ。
『え? そうなのか。しらなんだぁ。俺はずっとあの調子の恵美しか知らないから』
『ま、知らない人が知らないというのは当たり前か』
ハハ。
『なぁ、ちょっとさ酒飲もうぜ』
『えー、いいぜ!』
あー、さっきの目眩というかスローな感覚は酔いが覚め切ってなかったせいか、そうか。
『なぁ河田……。翔寺って呼ばないか』
『お、いいねぇ。じゃあ俺は陽一だな』
『『おう』』
これが二ヶ月前の事かよ。
はえーなぁ、時間が経つのって。それでいて、あっさり過ぎるぜこの野郎。
「アブゥルル」
俺は、精一杯でシルバーウルフの鼻を叩く。
あれ、コレは熊だっけ?
ドサ
「陽一!」
「陽一くん!!」
次に目を開けた時は二匹目が噛み付いてきていて、それを必死に切り刻む翔寺がいて___
それで___
「_________!!!」
分かるのは必死の形相だけってか、悲しいなおい。
「みじ……か…たけど…た___」
「陽一!!!」
なんだよ陽一、最後まで言えよ! 言えってば!
「なんだ陽一! なんなんだ! こんなあっさり死ぬとかふざけんなって!!」
楽しかったか? 頼みごとが? 助けてか?
「わかんねぇよ! なんか言ってくれ!!」
「っ! 翔寺先にシルバーウルフを!」
「っ!! 分かってるよ!!」
くっそ、くそ、くそ。
俺が悪いんだ。俺が集中し切れていなかったから。俺がちゃんとした技術を身につけていれば。
それに、後一人、いや二人いればなんとか、何とかなったはずなのに。
殺してやる。
「化け物がぁああ!!!」
俺はそう叫んで、気付いたら陽一の前で泣いていた。
気付いた時には、陽一の肌の色は黄色く、それで冷たくて硬かった。




