ー4ー この世界は変わった
改稿中
この世界は変わった。
それは、ここ最近進められている東京のダンジョンを探索していて分かった事である。
先ず、この世にはダンジョン内の化け物を「殺す」と強くなるという、乗算的身体的成長を促すようになった。つまり、そう。これはまるでRPG系統のゲームの要素であるレベルアップのようなもの。
これが先ず一点。
二点目はなにより、化け物の存在。硬質な細胞、超人的な身体能力。未知の形状をしたUMA、化け物。
これもまた、ゲームにいる魔物のような存在だ。
今の俺にとって強いのもいれば、弱いのもいる。
俺にとっての弱い奴は一つ下の階層、一階層に当たる化け物達。本気の一蹴りで化け物達は屍になるくらい、弱いんだ。俺にとっては。
ここまできたら、化け物がもうどっちなのかもわからない。
だが、残念ながらそれは二階層になると変わる。
同等、またはそれ以上に強く感じる。
いや、単純に強い。
……というのは概念としておかしいものか。単純に硬い、単純に賢い、単純に狡い。
時に、とても単純な事でも辛い時だってある。
ここまでの補足を付けても言うならば、それが殺し合いで、硬くて速くて力強くて、知恵に関せば人間は毎日、毎秒持ち合わせているものだが、常に人間、それ以上の生き物とずっと対峙する。それはとても疲れる。
単純と言う言葉は、簡単に崩せば一つの事を純粋に。他種のものと混ざりがないという言葉だが、裏を返せばそれに秀でたとも取れる。
単純とは、込み入った点がないのだが悪いものだと取られるものだ。が、実際はそうでもないと言う事を、俺は今知った。
「恵美、行けそうか」
肩から流れ出る血。それなりの装備を装着しているにも関わらず、三つに裂かれた爪傷は深い。鉄の肩当ては使い物にならないようだ。
だから応急処置を取りたいところであるのだが、今は戦闘中。包帯すら巻く余裕はない。
そんなキリキリした空間の中、恵美は腰につけたポーチから、少量ある緑色の液体が入った小瓶を取り出した。
「大丈夫よ。魔法の水、二本隠し持ってて良かったわ」
魔法の水。別名回復薬、ポーション。そんな所か。
これは、二階層の探索中に見つけた木箱___宝箱から見つけた、所謂ドロップアイテム。
初めは何かと思ったが、陽一が言うにはポーションで、それは確かにポーションだった。
掛ければ見る見るうちに傷が治る。
俺たちは10本のポーションから2本をパーティーで共有するものだとして、残り8本を報告した。
「はっ、そりゃあよかったな恵美ちゃん」
そう言ったのは高野陽一、俺たちのパーティメンバーだ。
パーティーというのは多数人数での探索部隊の事。俺たち少数パーティ以外は、少なくとも20人以上で行動している。ただ、数が多いと言うことは個々の物事を寄せ集める事となる。つまり、デメリットが大きい。
多い事を悪いというつもりはないが、少ないことも悪いとは言わない。そう言う意見の元俺たちは、俺、恵美、陽一の3人で潜っている。
「陽一君、含みのある言葉は嫌いよ」
水をほんの数ミリだけ残して、小瓶をポーチに直す恵美。そうして恵美は再び、腰に下げた剣を再度抜く。
後ろに担ぐ大剣は、今に適していないからお預けか。
「そうか? はは、ま、幼馴染って事で許せ」
「嫌よ、許さないから」
そう、そう言えば陽一って恵美の幼馴染だっけか。
アルコールっぽいがクレープのような甘い匂いが、辺りに充満する。これがポーションの匂い。飲めば苦くて甘さのない薬のような味だが、掛ければ数秒で気化していい匂いになる。
まぁ、それが帰って化け物を引き寄せるんだけども。そしてこれが、その悪い例である事も忘れちゃいけない。
「そう言えば『私たちで共有しましょ』なんて、何処かの誰かさんが言ってたっけ」
陽一は苦笑しながら、槍と盾をキツク構えて腰を据える。
「そそ、何処かの悪知恵の働く誰かさんが」
そこに俺も便乗する。抜き身の剣は、取り敢えず機動力を上げるため。
「な、なによ! ポーション使わせてあげないから!」
声を荒げる恵美。
ただ、それは流石にいただけないので後で和解しようと思う。
「さて、茶番は置いといてだなぁ」
「そうだな、陽一。シルバーウルフが9匹ってどうしたらいいと思う」
目の前に9匹の狼。それも、銀色に輝く綺麗な毛並み。碧色の目つきの悪い目。尖った八重歯。
西洋狼……と言えばいいか、でも現物を見たことが無いからなんとも言えない。
唯一銀色じゃないのは顎下からお腹まである白色剛毛の毛か。フサフサしてて気持ち良さそうだ。
噛まれたら一溜まりないけど……。
そしてコイツらはよく群れる。加えて狡くて賢い。
だからあまり戦いたくない相手でもある。ましてや9匹はふざけてる。
「一人3匹は?」
はは、と乾いた笑い声が漏らす。大きく盛大に。
「はっ」
そして鼻で笑ってやった。いくら35位のレベルがあっても、一人3匹は死ぬ。
だが陽一は、冷や汗を垂らしてもう一度いった。
「いや、結構まじで」
その時、思わず顔を見たのは言うまでもない。
「おいおい、このパーティーで唯一の切れ者がトチ狂ったか」
「仕方ねぇーだろ。なぁ恵美、どうだ」
「妥当ね。だって、三人で1匹に集中して見なさいよ、残り8匹にめためたにされるわ」
「っ……それは、そうだが」
んー、言われてみればそうだもんな……。妥協なのか、やっぱり。
「時間を気にするなら、それは仕方ないわよ。長引くこと前提」
よーく俺の事を分かってるようで。
「はいはい。分かりましたよやりますよ。気にしてるのはヘイト管理だ。さ、やるぞ」
腰を据えて、停滞。
相手の出方を待つ。また、それは相手も同じ……。
相手は全員同じ体格だ。手こずることはなさそう___
ズサ
動いた、シルバーウルフの方が___
「フュゥアガァアア!!」
「そこぉ!!」
変な掛け声が出てしまったが、綺麗に切れた。今回はワンパンだ。良かった。
横腹のあたりから臓腑を垂らしながら立ち上がるシルバーウルフ。だが、こうなって仕舞えば死んだも同然。足が震えて体を落としている事が何よりもの証明。
血ぶりをし、振り返る。
「ゴー!」
俺が相手するのは残り2匹。これならギリギリいける、可能性であるならば、3匹よりマシなだけだが。
でも、それが大きい!
「お前らは3匹揃って本物だからな!!」
「フュゥウンン!」
高い遠鳴き声。戦闘開始によく聞く遠吠えではない。これは威嚇、というより……。
迫り来る牙。
俺は出来るだけ真正面に立たないよう、出来るだけ横に立つよう剣を沿わせる。
黒色の口縁、それは鮮血を散らす切り口になる。
「ギュゥァ……ガァアア!」
だがまぁ、これといって擦り傷。どうって事ないのは知っている。そして、本命が交撃である事も知ってる!
すれ違いで飛び込んでくるシルバーウルフ。それはさっきよりも俊敏で肉薄した。だが、これでも経験済み。初めてよりは怪我をしない余裕はある。
俺はそのまま体の下に入り、剣を沿わせる。
だが、硬い剛毛に剣先が入り剣が持っていかれそうになる。
「し、しくった!」
「おいおい! まじかよ!」
声を荒げる陽一、取り乱す俺。
急いで武器を取りに行こうとするが賢い犬は、その短そうで意外に長い前足を使って後ろへ蹴る。
「くそっ……」
二刀目か、高いんだぞ武具は。
翔寺は、少し恨めしげにシルバーウルフへと飛び出でた。
納刀して、相手の間合いを取って___
「セイ! ラン!!」
走れ走れ、続くのだ。
切り裂いて、下をくぐって左下に剣を構える。そして次のシルバーウルフへ斬りかかる。
「らぁ!!」
バックステップを披露するシルバーウルフ。ブンと空振る俺の剣。必中という考えはなかったが少し驚く。
勢いに足を滑らせ土の小さな壁を作れば、抉れた土は茶色く、草原にある茶色いシミのようなものと化した。
って、背後!
注意が散漫。
ガィィーン。そんな甲高く、鉄板が震える音が鳴り響いた。耳障りで注意が散漫とする。
集中が阻害される。
「んぐっ!」
早く抜かないとっ!
「ん! ___ぃ! ___ん!!」
っあー、くそ。焦るな、落ち着け。
剣は抜けない。ガチリと噛み加えられている。
「離せ! 離せよ!!」
「ウブルゥ! ゴゥゴゥ!!」
こんの狂犬が!!
こんな戦闘にもなっていないのは翔寺だけなのでは。そう、傍観者は思うだろう。
寧ろ犬とじゃれ合っている。そんなところか。
だがそれはそれで仕方ない。そうにしか見えないのだから。だからといってそれもまた悪い事ではなく、仕方ないと言えば仕方がない事なのだ。
この状況は少しイレギュラーなのだ。
群れにリーダーが1匹もいないと言うイレギュラー。
考えても見ればわかる事だ。統一する者がいない。開戦の合図の遠吠えをしない、体格は皆同じ。三匹均等にコミュニケーションを取る。
シルバーウルフという生き物に関して言えば、これのうち一つでも当てはまれば、それはボスがいないということ。
そしてそれは、よく群れるという事を知っている三人にとって、今までと違うが為に、予測不可能な危機に陥る事になるからだ。
それはもう直ぐそこに。
「離れろ___よっ!!」
地面にその体を叩きつける
フギャンと鳴くシルバーウルフだが、噛み加える力は相変わらず、そのせいか刃は折れてしまった。
まじかよ……。
一層焦りを露わにする翔寺。手には武器がない。無手で戦える技の一つすら無い。
となれば、取りに行く以外なかった。
相手との間合いを取り、ステップを踏んで錯乱する。
それは巧くいく。
走りながら右左と三回繰り返し、右に跳ぶと見せかけて左にもう一度跳ぶ。
そしてシルバーウルフは俺を見逃した。
地面の土を纏いながら転がる。その転び際に剣の柄を手にきつく握って、流れるようにして立ち上がり、顔を……前…へ…………。
さぁ……ワン…モア……チャンス…………!
何故か景色はスローモーション。俺に死の気配が忍び寄っている……ということはなかった。そうじゃないんだ。
陽一は盾の下に倒れるシルバーウルフに、槍を突き立てようと振り下ろしているところ。
そして、そんな無防備な体勢にシルバーウルフが走っていったのだ。
嘘……だろ……。
「やめろぉ!!」
だが、その声は無慈悲にも届かなかった。




