魔女集会で会いましょうネタ 忌むべき樹の花の雫
ここのところ、私が居着いてからは、そんな風習があったなんて話を聞いた事すらなかったのに。
ある日私の森の入り口に忌み子が棄てられていた。
人の歳にして4,5歳だろうか。
涙を流すことはもうできないらしい。
樹の枝が裂けたように散らばる片足を引きずり、無様にも這い蹲り、泥に塗れながらも、私を見つけると、命乞いをするのだった。
「お、お、ね、がい。
魔女様、助けて。
痛いの。苦しいの。死ぬのは怖いよ」
私は這い蹲る少年の前に坐りこみ、彼の容態を診たが、既に手遅れであることは明らかだった。
人にやられたのだろう。
打撲、骨折、脳挫傷、内臓破裂、裂傷…。
いかな魔女とはいえ眼を背けたくなる悍ましい『痛み』だ。
彼の頬に手を伸ばし、触れる。
涙が溢れた。
泣いているのは、私。
「ごめんなさいね、坊や。私ではもう貴方を助けられないわ」
化粧が崩れてしまうのも気にせず、彼の痛みと、悲しみに呑まれて泣いてしまう。
彼の血と泥に塗れた、無事な方の手の平を掴んで祈るように抱いた。
彼はやがて、小さな、小さな声で、
「ありがとう」
と、呟くと、その小さな命を手離して、私の前で絶命した。
私は彼を手厚く葬り、この辺りでは手に入らない、真っ白い花を一輪、その墓に手向けた。
あの時、もっと私に魔女としての強大な力が有れば、彼の命を助けられたかもしれない。
「ごめんなさい、名前も知らない坊や」
墓標の代わりの小さな石は何も答えてくれはしなかった。
百年が経つと、その墓には、少年の遺体を苗床としたのか、大樹が根付いていた。
魔女はそこをたいそう気に入って、その木に凭れ掛かり、何気ない日々の生活を一人語りしていた。
ある日、魔女がその木に凭れ掛かったまま寝ていた時、夢の中に少年が現れた。
「お、お母さん。
そう呼ぶのは変なのかな。
今日で101年目なんだ。
貴女はもう忘れてしまったかもしれないけれど。
僕は最期を貴女に看取って貰えて嬉しかった!」
少年は笑顔で、太陽のように温かい笑顔だった。
魔女も気がついて、ああ、この子は。
そう思うと、夢は霧散し終わってしまった。
微睡みから覚めて眼を開けると、その時だった。
凭れ掛かっていた少年の大樹に、
あの時手向けた、白い花が咲きほこっていたのだ。
「わぁ」
……まるで魔法の様な光景が広がっていた。
魔女は泣いた。
少女の様に泣いた。
散々泣きはらした後で、
「はぁ、未だ私に、こんなに感情的なところが残ってたなんてね……ふふ。こんな私を見せられるのは貴方だけだよ」
と呟いて、しっかりとした大樹の幹を優しく撫でるのだった。
終